レポート

パート4:NPO・NGOが動かす世界〜NPO・NGOと企業のパートナーシップ〜(問題解決のヒント「協働」のチカラ )

「不都合な真実」を超えて〜NPOの役割と新しいパートナーシップの台頭〜

12月7日(火)

枝廣 淳子 氏環境ジャーナリスト・翻訳家/ジャパン・フォー・サステナビリティ共同代表

私達はマルチリスクの時代を生きている

枝廣 淳子 氏 今なぜ、NGO、或いは新しいパートナーシップが必要となってきているのでしょうか。その背景となっているものを、私は「マルチリスクの時代」と呼んでいます。今、私達はこのマルチリスクの時代を生きています。もちろん温暖化はそのひとつですが、日本にとってそれよりも先にやってくるのがエネルギー問題です。世界で20〜30の地質学者や地質研究所が世界の石油の生産量を予測していますが、その平均をとると、ピークオイル(石油の生産量がピークに達してその後減少に転じるポイント)は2012〜2014年と言われています。また先日、国際エネルギー機関から「石油生産量のピークは2006年だった」という発表がされました。今後、途上国の発展とともにエネルギー需要は益々増加することが見込まれています。需要が上がり供給が下がれば価格は上昇します。日本の化石エネルギー輸入額は98年に5兆円でしたが、08年には23兆円にまで跳ね上がりました。このうち私達の使用量が増えたことによる上昇分は1兆円、残りの17兆円は価格が上がったことによるものでした。化石燃料がなければ私達は食料さえも作れません。エネルギー価格の上昇は食料価格の上昇に繋がります。そして食料に限らず、社会全体に大きな影響を及ぼすことになるのです。

環境問題…前から考えるか、後ろから考えるか

 温暖化問題や生物多様性問題など、環境に関心をお持ちの皆さんは、どうして次々と問題が出てくるのだろうと感じたことはないでしょうか。その根底にあるのは、「地球の大きさは決まっている」ということです。現在の人類の活動を支えるには、地球が1.4個必要だと言われています。人間が斧で木を切り、家畜で水を汲上げていた頃は、地球に与える人類の影響力は微々たるものでしたが、科学技術の進歩によって、人間の経済活動は急激に拡大しました。いま地球1.4個分の活動を瞬間的に可能にしているのは、私達が過去の遺産を食いつぶし、未来から前借りをしているからであり、そこには1個分に戻そうという地球の力が働きます。その結果として起こっている症状が温暖化などの環境問題なのです。ですから、私達が地球1個分を超えてしまった活動をどうにかしない限り、必ず新しい症状が次々と起こるのです。

枝廣 淳子 氏 では、私達はどうすればいいのでしょう。人は問題が起こると対策に走ります。日本では「フォアキャスティング」といって、現状立脚型のビジョンづくりが主流になっています。これは今できることや今後できそうなことを積み重ねて対策を考えるやり方で、現在の延長線上で未来を考える発想法です。変化が少ない時代はそれでもいいのですが、現代のように大きな変化を伴う時代に求められるのは、「バックキャスティング」という考え方です。これは、現状にとらわれず、まずあるべき姿を考え、そこから現状を振り返り、ビジョンをつくっていく発想法です。私は福田・麻生内閣の「地球温暖化問題に関する懇談会」に参加していました。その時も、企業経営者の方々は、まず何が実現可能かを考え、その積み上げで解決を図ろうとされていました。しかし、今出来ると分かっていることだけではどうしても高い目標には手が届きません。最終的には、福田総理(当時)が温暖化の長期目標としてCO2を60〜80%削減するというバックキャスティングに基づいた目標をご決断されましたが、従来のフォアキャスティング型ではここまで高い目標を設定することはできなかったと思います。

企業が「共創」する時代へ

枝廣 淳子 氏 これから私達が扱わなければならない問題は、かつての公害問題のように、その工場の操業を規制すれば解決できるものではなく、もっと複雑なものです。善かれと思う方法が別の問題を引き起こすこともあります。局地戦、いわゆる個別最適化ではなく、色々な立場の人々の全体最適を求めていくことが、これからの問題解決に必要なことになっていきます。一部の人がやればいいのではなく、多くの人を巻き込んで活動するとしたら、どうやって人々に伝え、巻き込んでいくのかを考えなければなりせん。ここで重要なのは、これまでの企業対NGOという対立軸ではなく、どうやってその違いや多様性を力に変えていくかなのです。環境か経済かを論じる時代は終わり、どのように両者を統合するかがこれからのテーマです。

枝廣 淳子 氏 私自身、会社を運営していますし、企業のコンサルティングにも携わっています。そしてNGOも運営しています。両方を繋ぐ立場に立つ私が、一番大きな課題になると感じているのが「時間軸」です。企業は四半期ごとにやってくる株価審査に備え、また政府は次の選挙に備え、短期的な策を追い求めます。そしてNGOは、50年後、100年後という視点で考えます。企業は、自らの時間軸を伸ばしていく必要もありますが、その一方で、自分達以外の色々な所と繋がってやっていく、その力も必要になっています。短期的な土俵でしか発想せざるを得ない企業が、全体最適となる解決策を得るためにNGOの存在が欠かせなくなってきたのです。企業にとって、これまでパートナーと言えば同業他社などがそれにあたる存在でした。しかし、企業が知らない情報を知っているNGOは、自社のリスクマネジメントにもなり得ます。社会のアンテナとしての機能も持っています。そんなNGOとパートナーシップを築くことは、企業の力となり得るものなのです。

 これまで企業の競争力とは、資金力、設備、技術力、人的資本など殆どが自社内で完結するものでした。しかし現代のように問題が複雑化して、自社だけで対応できなくなってきた時、企業の競争力とは、自社を超えてどうやって伝えるか、自社を超えてどうやって繋がるか、自社を超えてどうやって創り出すか、この力があるかないか…これが今後の企業の競争力を決すると思っています。「競争力」ではなく「共創力」を持つ企業が多く登場すること、それが、私が大きく期待していることです。