レポート

パート3:国際交渉の真実に迫る(環境問題における世界の対話はどのように進むのか )

変わるか?日本の「国際会議ベタ」

10月19日(火)

竹内 敬二 氏朝日新聞編集委員

日本が国際会議ベタな理由

竹内 敬二 氏 衆人監視の中進められる、環境問題に関する国際会議では、その国の取り組みや会議での振る舞いによって、国の評判や品格が決められてしまいます。しかし、残念ながら日本はそのような国際会議の場で上手く立ち回ることができていません。 私が20年近く国際交渉を見てきた現場経験によると、日本の国際会議ベタな理由は、次の4つに集約できると思います。

 ①マルチ会議(1対1でなく多数の国が参加する会議)のため、交渉グループが少数化する ②交渉言語が英語 ③地政学的な位置(アジア諸国に友人がいない) ④日本国内の事情

「国際会議ベタ」を分析

竹内 敬二 氏  国際会議における主な交渉グループは、①EU ②EU以外の先進国 ③G77(途上国)+中国という3グループに分けられます。日本は②に属しており、このグループのリーダーはアメリカです。国際会議で目立つ条件として、大国であること、小国でも新しい理念や方針を示すこと、または反対ばかりして会議を壊すという3つの要素が挙げられますが、日本はどれにも当てはまりません。

 次に言語についてですが、交渉は英語で行われ、文書もまずは英語で作成されます。この点で、英語圏の国はもちろん、英語教育の水準が高い欧州各国や産油国などは大変有利です。また会議中に、国連公用語は同時通訳が行われますが、日本語はないので、英語で聞き取るしかありません。1995年のIPCC第二次評価報告書の肝となった”The balance of evidence suggests a discernible human influence on global climate”という文言を決定するのに当たり、この”suggests”という表現の他に”shows” など、”discernible” のほかに”clear”なども候補に挙げられ、この一文を決めるために1日がかりで議論が行われました。この二ユアンスの違いは日本人では辞書を引いても実感しづらいものです。国際交渉ではこのようなことの連続です。

竹内 敬二 氏 日本の国内事情にも問題があります。ひとつには、日本は行政の縦割り構造のため、国としての統一方針が決められないまま、準備不足の状態で会合に臨むケースが多く見受けられます。そんな国は日本くらいです。中国では、国際会議の前に出席する全スタッフが3泊4日の勉強合宿を行って臨むほどです。二つ目の問題として、そもそも地球環境問題という問題設定自体が欧米由来の概念であるという点が挙げられます。国際会議で話し合われる、”Sustainable development(持続可能な開発)” ”Bio diversity(生物多様性)”などの言葉と概念は、これまで日本人が思いつきもしなかったことです。元来日本人は、自然を人間が改変、管理する対象とする欧米の価値観とない文化的背景を異にしています。地球環境問題にまつわる言葉は日本人にとって輸入物ばかりなのです。三つ目の問題点は、日本政府が国内で力を持つ産業界に対して配慮し過ぎている点です。

「日本の環境政策は外圧で決まる」と言われますが、我が国では国際交渉で決まったことだけを持ち帰るだけで、自ら国内政策を変革しようという意欲に乏しい傾向にあります。国内政策が改革されないので、「成果」という材料を持って国際交渉に打って出ることができず、結果として議論をリードしていくこともできないのです。

国際会議ベタからの脱却法

竹内 敬二 氏 日本は、この国際会議ベタをどうすれば脱却できるのでしょうか。我が国は、米中のような巨大国家にはなれません。日本の1人当たりのGDPは03年に3位でしたが、08年には23位まで落ちており、先進国30ヶ国の中でも「中の下」です。”Japan as No.1”と言われていたのは20年前の過去となりました。この現実を踏まえ、「中規模でも尊敬される国」になることが日本の進むべき道だと、私は考えています。技術が進んでいて、平和な国だと思われている今ならまだ間に合うと思います。そのために必要なのは、やはり国内政策です。日本人は温暖化を始めとする環境問題の知識レベルは非常に高いのですが、一方でCO2削減ための国内政策は一つもありません。産業界の自主行動基準はあっても、環境税や排出量取引のような具体的な政策が実現されていないのです。例え、国際会議で大きな削減目標を掲げても、具体的、抜本的な国内政策が実施されないので、結局その姿勢が長続きしないというのがこの国の実態です。まずは、国内で温暖化対策を行い、それを国際会議の場に持っていくことが、これからの日本に求められています。