レポート

パート3:国際交渉の真実に迫る(環境問題における世界の対話はどのように進むのか )

地球温暖化問題の実情と国際合意の難しさ

10月5日(火)

池原 庸介 氏(財)世界自然保護基金ジャパン 気候変動プロジェクトリーダー

国際会議とNGOの役割

池原 庸介氏 世界共通の課題である地球温暖化問題を食い止めるためには、全ての国々が一致協力して取り組んでいかなければなりません。そのための国際交渉の場として、気候変動枠組み条約締約国会議 (COP)を始めとする国際会議が世界各地で行われています。私たちNGOも国際協定を交渉するこれらの会議に参加し、各国政府に働きかけを行っています。国連会議は持ち回りで世界中で開催されますので、海外のネットワークの仲間と連携して参加しています。そして、目下最大の目的は、京都議定書の第一約束期間が終わる2013年以降の次の国際協定が地球環境にとって最大限の効果があるものになるよう、国益でなく地球益が優先されるようにすることで、そのための働きかけを行っています。また私たちNGOは、国際交渉の現状を正しく伝えるという役割も担っています。複雑極まりない会議内容について、一般の報道機関担当者が、長い年月に亘ってこの問題を追い続けるのは現実的に困難です。また、会議は基本的に英語で行われることもあり、この分野にあまり精通していない記者の方では情報ソースが限定されてしまいます。そこで、我々がNGOという客観的な立場から状況をお伝えしています。また、各国の政府間では面と向かって話をしづらいケースもあります。私たちは海外の担当者と綿密にやりとりをしており、むしろ政府担当者よりも相手国政府のスタンスをよく知っている場合があるので、間接的にそれらの情報を伝え、円滑な意思疎通のパイプ役となることもあります。

京都議定書以降の各国の思惑

池原 庸介氏 1997年に採択された京都議定書では、2008年から2012年の第一約束期間中に、先進国全体の排出量を1990年と比較して5.2%削減することが定められています(日本6%、アメリカ7%、EU8%)。一方、途上国には削減義務は課せられていません。また、京都議定書が発効するためには、55ヶ国以上が批准し、さらに批准した先進国の排出量の合計が先進国全体の55%以上となるという条件がありました。そのため、アメリカの離脱などにより発効が一時危ぶまれましたが、2004年にロシアが批准し、なんとか条件を満たすことができ、2005年に発効に至りました。採択から発効まで実に7年以上もかかったことからも、1つの国際協定を作り上げることの難しさを伺うことができるのではないでしょうか。また、京都議定書の定めにより2005年には、2013年以降の次期枠組みに関する話合いのプロセスがスタートしました。この作業部会をAWG KPと言いますが、このプロセスには様々な課題がありました。ひとつは京都議定書に参加していないアメリカが、この作業部会に参加していないこと、そして京都議定書で削減義務を定めていない途上国の削減に言及することが難しいことです。気候変動枠組み条約は、「共通に有しているが差異のある責任」を基本原則としており、つまり温暖化問題に対して歴史的責任を負っている先進国が率先して対策をとるべきであることを謳っているためです。先進国側は途上国の中でも中国などの主要排出国は削減義務を負うべきだと主張し、途上国側は先進国がまず自らの削減目標を示すべきであり、また途上国の削減に先進国は技術的・資金的サポートを行うことを求めています。また先進国、途上国共にアメリカの参加がないのはおかしいと指摘しています。これらの思惑がぶつかり合う中、2007年にバリ行動計画が採択され、ついにアメリカや途上国の削減を含めた議論を行えるAWGLCAという新しい話合いのプロセスがスタートしました。

コペンハーゲンからメキシコ、南アフリカへ

池原 庸介氏 バリ行動計画に則り次期枠組みの決定書が採択されることになっていたのが、2009年のコペンハーゲン会議(COP15)でしたが、芳しい成果は得られませんでした。本来であれば、全ての締約国が参加する作業部会で作成した交渉テキストをベースに、本会議で議論し、採択するのが順当なプロセスなのですが、議論の紛糾により、合意を焦った議長国を始め一部の国々の首脳だけが集まり、密室の中で作られたテキストが本会議に持ち込まれました。これにより作成に参加できなかった多数の国々の不信感が噴出し、結果として賛同国のみの政治合意に留まりました。しかし、一概に成果がなかったと言い切ることはできません。コペンハーゲン合意では ①2℃未満の気温上昇を目指すことが正式に盛り込まれた ②初めてアメリカを含む先進国全体の削減目標と、主要途上国の削減行動が国際的に表明された ③途上国の削減状況を国際的にチェックすることになった ④途上国への資金支援額が具体的数字で示された という成果もありました。

池原 庸介氏 コペンハーゲン合意は、2010年9月現在138ヵ国が賛同しており、賛同国の合計排出量は、世界全体の86.76%を占めます。しかし、現在の各国の削減目標では、気温上昇を2℃未満に抑えるには、程遠い状況です。今後、2010年11〜12月にはメキシコのカンクンでCOP16 / COPMOP6が、そして2011年末には南アフリカでCOP17 / COPMOP7が開かれます。京都議定書の第一約束期間から間を空けずに、次期枠組みに取り組んでいくためのわずかな可能性を残すには、これが最後のチャンスと言えます。COP17で何としても新たな枠組を採択するために、その足場固めとなる今年のCOP16の動向にぜひご注目下さい。