レポート

パート1:市民生活と環境問題の全体像(そもそも、環境問題とは何か? )

地球温暖化の現状と将来予測

7月13日(火)

江守 正多 氏(独)国立環境研究所 地球環境研究センター 温暖化リスク評価研究室 室長

人類は地球温暖化を解明できているのか?

江守 正多 氏 地球温暖化とは科学的な事実なのか?その影響は本当に深刻なものなのか?この問いについて、賛成派、懐疑派など意見が分かれる現状があります。しかし、大気中に温室効果ガスが増えると赤外線が地面から宇宙に逃げにくくなり、地表付近の温度が上がるというメカニズムは科学的に明らかなことです。そして、地球上の二酸化炭素濃度が急上昇しているこの200年間に、世界の平均気温は0.7℃、平均海面水位は17㎝上昇したことが判明しています。また、現在の科学を結集したコンピューター・シミュレーションによると、この100年間の世界平均気温の推移は、自然要因だけを考慮した場合にはシミュレーションが観測データと一致しませんが、人為要因を加えた場合にはほぼ一致することがIPCC(気候変動に関する政府間パネル)から発表されているのです。これらのことから、IPCCは2007年のレポートで、20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇は、人為起源の温室効果ガスの増加による可能性が非常に高いと結論づけました。

地球温暖化は怖いことなのか?

江守 正多 氏 では、温暖化すると何が起こるのでしょうか。IPCCのまとめによると、水不足人口、絶滅する生物種、森林火災リスク、沿岸域での自然災害、罹病率・死亡率などの増加、そして穀物生産量が地域によって増減することなどが考えられています。これらの影響は実際にどれくらい怖いものなのでしょう。まず温暖化によるプラスの側面についてもご紹介します。例えば、寒い地域で作物生産が可能になったり、北極海が船で通行できるようになることなどが挙げられます。また、水不足人口の増加などの問題は、そもそもの人口増加問題によるところも大きく、すべてが温暖化のせいであるとは言えません。さらに、私達はただ温暖化を待っているのではなく、作物の品種改良などにより、ある程度適応することができるのです。このように必ずしもネガティブなことばかりではありません。一方で温暖化は大変怖い側面もあります。最も大きな問題は、これによって起きる社会的秩序の変化です。難民や国際紛争の増加など国際社会が不安定になることも予測されています。最近では、イギリス政府を筆頭にいくつかの国が、温暖化対策をClimate Security(気候安全保障)と位置づけています。気候の問題は最悪の場合、戦争に繋がる問題であると捉えるべきだと主張し始めたのです。また温暖化が進行すると、いずれかの時点で地球規模の後戻りできない急激な変化が起こることが懸念されています。江守 正多 氏例えばある温度以上の温暖化が続くとグリーンランドの氷が融け続け全て溶けると海面が7m上昇します。このように、怖いこと、怖くないことの両面を持つ温暖化問題を考える上で、重要なのは価値判断です。例えば、ホッキョクグマが絶滅したらかわいそうだという人もいれば、自分には関係ないという人もいます。また、グリーンランドの氷が全部溶けるには数百年以上かかりますが、自分の世代には関係ないからよいと考えるか、子供や孫以降の将来世代に対して責任を感じるかは、一人ひとりの感じ方です。それぞれが考え、社会の中で合意形成をしていかなければならない問題なのです。

劇的なCO2排出量削減のカギ

江守 正多 氏 現在私達は、自然が吸収できる量の約2倍の二酸化炭素を出しています。温暖化を止めるためには、最終的に現在出している量の8〜9割減、つまり世界中で現在より一桁小さい二酸化炭素排出量で文明を維持しなければなりません。これには、次の新しい文明に向かうくらいの大きな変化が求められています。私達はどうすればいいのでしょうか。私が提案するキーワードは「心技体」です。まずは、「もったいない」と感じ、無駄なエネルギーを消費しないための価値観やライフスタイルの「心」が必要です。しかし、心掛けだけでは温暖化は止まりませんし、これだけでは不便な生活を我慢して送ることになってしまいます。そこで、省エネ技術・再生可能エネルギー技術をはじめとした技術をどれだけ普及させていけるかという「技」が重要になります。さらにその実現のために必要になってくるのが体系、社会の仕組の「体」です。例えば、省エネした人が得をする税金の仕組や、車に乗らなくても快適に移動できる街づくりなどです。温暖化対策は、みんなで省エネして6%下げるというのでは間に合いません。何十%も下げるために社会がガラッと変わることをしなければいけないのです。これは絶望的なことではなく、人類が成長の軌道を大きく変えられるかという大きなチャレンジであり、それが試される時代に私達は生まれてきたのです。達成できるという希望を持って、挑戦していくことが大切だと思います。