レポート

パート1:市民生活と環境問題の全体像(そもそも、環境問題とは何か? )

環境問題の変遷と今後の展望

7月6日(火)

岡島 成行 氏(公社)日本環境教育フォーラム 理事長 / 環境ジャーナリスト

複雑怪奇に拡大した環境問題

岡島 成行 氏 日本の環境問題の流れを辿ってみると、公害問題がそのルーツとなっています。足尾鉱毒事件 を代表とする明治以来の公害、そして1980年代初頭まで続く戦後の公害、これと重なるように80年代中頃に登場した自然破壊、更には80年代後半からの地球環境問題と色分けができます。私は新聞記者時代に、1980年から環境問題の担当をしてきましたが、その経験から現代の環境問題の特徴を「複雑怪奇に拡大した」と感じています。記者として公害問題を扱っていた時代は、市民(被害者)、企業(加害者)、弁護士、通商産業省、環境庁あたりを取材すれば何とかなっていましたが、全国で自然破壊が報告されるようになると、その現場を取材するために各地を飛び回るようになり、行動範囲も一気に拡大しました。そして地球環境問題の時代に入ると、次々と登場する専門用語の咀嚼に苦戦し、その一方、首相レベルや経済界への取材が必要となり、さらには国際会議・各国政府の見解にアプローチするための英語力も求められるようになり、一人の記者の手に負えるものではなくなってしまいました。これは記者としての印象ですが、一般市民の皆さんにとっても、同様に「追いつくのが大変」だという感覚をお持ちではないでしょうか。また、環境問題を解決するために、これまでは主に理工学的分野、法律的分野、経済的分野の知識が駆使されてきましたが、今や環境問題は「人々の基本的な生き方」の問題になりました。つまり、従来の実利的学問だけでなく、哲学や歴史などの人文科学の知恵も総動員してあたらなければならない時代になったと言えるのです。

日本のNGOに求められること

岡島 成行 氏 環境問題を解決していくための重要な存在がNGOです。中でも、日本自然保護協会は日本の自然を第一線で守ってきました。この団体がいなければ、バブル期の大規模開発で、日本の多くの貴重な自然が失われていたでしょう。今年で18年目を迎える、この「市民のための環境公開講座」は企業とNGOの協働の草分けです。しかし、日本のNGOは規模的には小さなものばかりです。アメリカで最大の環境NGOは500万人の会員がいます。岡島 成行 氏イギリスのナショナルトラストは300万人、ドイツのブントは250万人、また人口600万人のノルウェーでも50万人以上の会員を擁する団体があります。一方で、日本最大の環境NGOと言われる日本野鳥の会は43000人に留まっています。アメリカ国民の1500万人が環境保護団体に入っていると言われていますが、日本の場合、せいぜい30万人といった所です。1500万人が5000円〜10000円のポケットマネーを出してくれているアメリカと、それがほとんどない日本。これは、国民の問題もあるのかもしれませんが、NGOと市民の間でまだ何かしっくりいっていない、そこを埋める努力がNGO側に足りていないのではないでしょうか。

環境思想が求められる時代へ

 20世紀、地球は行き過ぎた人間中心主義によって歪みが生まれ、これに対してヨーロッパから批判が登場しました。東洋では当たり前の「人間は自然の一部である」という考え方が、環境倫理学・環境思想という言葉で表されるようになったのです。先ほど申し上げた通り、今や環境問題は全人類の生き方の問題へとシフトしました。そこでは、人類が将来どのような生活を目指すのか、自然と人間の新たな関係をどう探るのか、これまで間違っているとか古いと言われていたことの中に正しいことがあるのではないかなど、全人類の英知を掘り起こす必要があるのです。岡島 成行 氏今、私達は、時代の流れを認識して、人間がどのような位置にいるのかを考えなければなりません。科学史家の伊東俊太郎氏は、人類には、その誕生から今までに重要な革命が5回あったと言われています。まず類人猿が直立歩行をして人類になった「人類革命」、狩猟から農耕に移行した「農耕革命」、都市と階級が生まれた「都市革命」、現代にまで繋がる大きな宗教を構築した「精神革命」、産業革命として知られる「科学革命」。そして、これに続く現代の革命が「環境革命」です。環境問題に対して、人類の考え方を根本的に改める時代が来たのです。