レポート

パート4:NPO・NGOが動かす世界〜NPO・NGOと企業のパートナーシップ〜(問題解決のヒント「協働」のチカラ )

NGOが動かす世界〜NGOと企業のパートナーシップ〜

11月16日(火)

日比 保史 氏コンサベーション・インターナショナル アジア政策担当 バイスプレジデント兼日本プログラム代表

生物多様性保全にはお金がかかる

日比 保史 氏 生物多様性は、人間が社会的・経済的な活動を営んでいく上での重要な前提条件です。私たちが生物多様性から受けている様々な恵みを「生態系サービス」と言いますが、その経済的価値を試算すると約33兆ドル になると言われています。世界全体のGDPが約18兆ドル ですから、その価値がいかに大きいかが分かります。また、私たちはこの18兆ドルを稼ぐために、これまでは生物多様性から無料で恩恵を受けてきたのです。

生物多様性が豊かでありながら破壊の危機に瀕している地域を「ホットスポット」と呼んでいますが、ホットスポットは主にアジア・アフリカ・南米などの途上国に分布しています。生物多様性を保全するためには、本来非常にお金がかかるものですが、途上国では手っ取り早く稼ぐ方法として、森林の伐採、農地化、ダイナマイト漁などの方法で、生物多様性を破壊しながら先進国に生産物を売って生計を立てているケースが多いのが現状です。日比 保史 氏しかし、途上国での生物多様性が彼らの責任とはいえません。これからもっと発展したい、収入を増やしたいと願う貧困国に対して、彼らが持つ生態系サービスに依存してきた先進国が、生物多様性を守るために現在のような生物多様性を破壊する活動をやめろということはできません。彼らの仕事や生活が脅かされずに生態系を守れなければ、保全は持続しません。生態系サービスが豊かであれば、保全にかかる機会費用は高くなります。この資金を作り出すために、先進国も大きな役割を果たさねばなりません。11月に名古屋で行われた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)でも、このことが焦点の一つとなりました。

生物多様性と企業の責任

日比 保史 氏 企業も生物多様性保全に取り組まなければなりません。その理由は、単に生物多様性が危機的状況だからというだけではありません。食糧や商品の原材料などの生物資源を生態系サービスに依存している企業はダイレクトにその影響を受けますし、今後は国内外で生物多様性保全のための様々な規制が設けられるので、これらに対応できなければビジネスが成り立たない状況になります。対応できない企業は社会的責任を果たしていないというレッテルを貼られ、企業のブランドイメージを損ないます。企業は、本業と社会貢献の両面から生物多様性に取り組んでいかなくてはなりません。例えば、日本の主力産業である製造業では、[原料採取/運搬/加工/製品生産/流通販売/消費利用/再資源化・廃棄処分]というプロセスがあります。しかし、これまでの日本の製造業では、[製品生産/流通販売]における環境負荷削減のみに主眼が置く、いわゆる公害対策型の取り組みがほとんどでした。しかし生物多様性は、企業活動の全てのプロセスにおいて対策をとらなければ、対応できない問題なのです。

ますます重要になる企業とNGOのパートナーシップ

日比 保史 氏 このような社会情勢を受け、すでに様々な企業が生物多様性保全のための取組みを実践しています。私たちコンサベーション・インターナショナルは、企業が生物多様性保全に貢献するためのスキームの構築やノウハウの提供を行っています。

 近年、企業とNGOのパートナーシップが注目されていますが、とりわけ生物多様性の分野ではこのパートナーシップが非常に重要です。NGOは企業に対して生物多様性に関する専門知識やノウハウを提供でき、企業は生物多様性の保全活動に取り組むNGOに対し、活動を拡大・継続していくための資金を提供できます。今後、地球上の生物多様性を守るために、互いの得意分野を活かして双方がメリットを得られる企業とNGOのパートナーシップが必要不可欠です。