レポート

パート2:日本の文化と生物多様性の調和(今年のキーワード「生物多様性」を考える )

経済・文化と生物多様性の調和〜愛知名古屋COP10と日本に期待される役割〜

9月7日(火)

香坂 玲 氏名古屋市立大学大学院経済学研究科 准教授 / COP10支援実行委員会アドバイザー

生物多様性が大切なわけ

香坂 玲 氏 生物多様性は私たちの生活になぜ必要なのでしょうか。個人の活動において言えば、文学をはじめとした文化活動のテーマや、食糧としての海の幸・山の幸、または趣味やレジャーの対象であることなどが考えられます。地域にとっての役割としては、例えば森林や緑地は、地下水を蓄え、調節するダムの機能や、急激な気温上昇を抑える自然のクーラー、廃熱や廃棄物を分解する浄化槽などの役割を果たしています。さらに、原材料の調達源であり、商品開発のアイデア源でもあるのです。このように人間が自然から受けている恵みを「生態系サービス」と呼びます。これらを次の世代に残し、彼らが同じ恵みを享受していけるようにするために、国際的な議論が続けられているのです。現在、日本はグローバルリーダーとして、その立ち位置をより明確にすべき時にあります。国際社会が日本に求める国際貢献分野と、日本自身の志向で最も共通するのが「環境・エネルギー」の分野です。このことからも、この10月に名古屋で開かれる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の重要性は大きいと言えるのではないでしょうか。

生物多様性は分かりにくい問題なのか

香坂 玲 氏 生物多様性条約は、1992年にリオで開催された環境と開発のための国連会議で、気候変動枠組み条約とともに採択された、いわば「双子の条約」です。しかし現在では、温暖化防止を唱える気候変動枠組み条約の方が、知名度が高くなっています。明確な数値目標がある温暖化問題に対して、生物多様性は理念法やリスク管理等の議論が中心となっていることによるものと考えられます。今後、生物多様性についても数値目標を導入していくのか、また、2020年に向けての目標をどうするのかということが、正に今回のCOP10の焦点となっています。しかし、生物多様性が気候変動より分かりにくい問題なのでしょうか。一つ言えるのは、気候変動が宇宙規模のメカニズムで起こっているのに対し、生物多様性の問題は私たちの目の高さで起こっているということです。私たちの土地利用、例えば森林や沿岸の開発などに直結した問題だという点をぜひ認識して頂きたいと思います。

企業活動に不可欠な生物多様性

香坂 玲 氏 生物多様性と企業の関わりについて目を向けてみると、開発による生息地の破壊、操業による環境汚染、原材料調達による生息地の破壊や乱獲というネガティブな話がたくさん出て来ます。しかし、生物多様性にとって企業が一番影響力のあるセクターであるということは、企業がこの問題の解決のための重要な存在であるということになります。自分の棲む水槽をどんどん汚していく金魚が結局その水槽で生きていくことができなくなってしまうように、企業にとっても持続可能な活動を続けていく基盤という意味では、生物多様性や生態系の健全性を確保していくことは重要なポイントになるのではないでしょうか。日本は「環境・エネルギー」の分野における国際貢献に大きな期待が寄せられています。資源の少ない日本がなぜこの分野で期待されているのでしょうか。それは、技術力、つまり人づくりや、その伝承、人材に対する期待だと言えます。ですから、これから日本は益々人材育成に力を注いでいく必要があります。CSRとしての取り組みに留まらず、日本の将来を考えて行く上での戦略的に取り組んでいくべき分野であると言えるのかもしれません。

香坂 玲 氏 私が2008年に各企業に対して行った生物多様性についての意識調査によると、全体的な傾向として、生物多様性が重要であり、企業としても何か取り組まなければいけない、自社の評判に大きく影響することだという認識は広がっているものの、複雑な言葉と意味のためか、何をやればいいかが分からないという企業が多くありました。しかし、原材料の調達をはじめ、企業が活動するための様々な恵みも生物多様性によって享受しているのです。世界で商品を販売する日本企業が生物多様性に無関心という態度ではいられない時代になっています。企業にとって生物多様性とは、環境アセスメントなどを行って守らなければいけない義務の問題であると同時に、評判の低下や不買運動・訴訟を起こされないためのリスク分散、生態系を守り安定して事業をやっていくためのインフラ整備、取引先や社員のモチベーションなどに波及効果を及ぼす価値観創造という側面もあるのです。持続的な企業活動のために、生物多様性は今や欠かすことができないものなのです。