レポート 2012年9月11日(火)

放射能汚染環境下での暮らし

1986年に旧ソ連で起こったチェルノブイリ原発事故と比較しながら、福島原発事故で生じた放射能汚染とどう向き合い、生活していくべきでしょうか。農業やエネルギー問題の今後と日常生活のあり方等について考えます。

河田 昌東 氏
NPO法人チェルノブイリ救援・中部 理事

 

放射能との闘いは長期戦

私達は23年前からチェルノブイリの被曝者支援を続けてきましたが、そこで学んだ最も大きなことは、被曝の大きな原因は内部被曝だということです。ウクライナの国立大学の教授による調査では、事故から1年間の被曝の内訳は、粉塵による内部被曝が50%、食品による内部被曝が13.5%、そして外部被曝が35%でした。ところが、事故から22年後の調査では、80〜95%が食品による内部被曝なのです。

今、必要なことは、とにかく早急に放射能の放出を止めることです。政府は、2011年12月に「冷温停止状態」という宣言をして、福島原発が安定化したと主張しています。しかし、実際には今でも1時間当たり20t程度の冷却水を注入し冷やし続けています。「冷温停止」とは技術用語で、水を注入しなくても100℃以下に保てる状態のことを指します。しかし、現在は冷やし続けて100℃以下にしている訳ですから、「冷温停止状態」とは技術用語ではなく政治的用語であり、事故はまだ収束していないと私は考えています。もちろん最初の爆発で飛び出した放射能の量と比べれば、今出てると言っても、その量は1/100万以下ですから、これによって土壌汚染が広がるという状態ではありません。あとは徹底した汚染調査と、それに基づく汚染対策・被曝対策が重要なのです。

食品ごとに異なる放射能汚染

現在私達は、南相馬市で、(1)市内全域の放射線測定 (2)食品・水・土壌の測定サービス (3)放射線測定器の貸出という活動を行っています。その中で、住民が持ち込む食品の測定をしていると、汚染のレベルが随分違うことが分かります。現在、国の基準が100ベクレル以下なので、ほとんどのものは基準を下回っているのですが、その中で、梅やプロッコリーからは高い放射線量が測定されています。一方、ウリ科・ナス科の野菜は基本的に低い数値です。また、土壌汚染が4000ベクレルあると分かっている場所で栽培されたアスパラガスが2ベクレル程度と、野菜の種類によって汚染しやすさが異なることも分かってきました。例えば、トマトは茎や葉が汚染する一方で、可食部(実)には貯まらないことが分かっています。しかもトマトに含まれているカロチノイドは、放射線対策にもなると言われており、こうしたデータをさらに積み重ねていって、よりハッキリした傾向を出したいと思っています。

大雑把に言うと、汚染しやすい作物とは、地表に細かい根を張るものです。一方、根菜類は地下に深く埋まっているために吸収効率が悪く、安全度が高いようです。また、カリウム濃度が高い作物は、カリウムとセシウムが同じ化学的性質なので、カリウムを吸収する時に一緒にセシウムも吸収し汚染度が高いようです。豆類や梅がそれに該当します。但し、同じ豆類でも枝豆のように青いうちに食べる豆は汚染がほとんどない一方、大豆では高くなることから、種が実る頃に急激に吸収が起こるのではないかと考えられます。お米は原則的に玄米で測定するのですが、平均的に50ベクレル以下です。特に糠の部分にセシウムが貯まるので、精米してしまえば更に低くなり、このように実際の使用状況に即した測定も考えていく必要もあります。また、柑橘類とタケノコは高い数値が測定されています。これらは常緑樹のために、事故当時につけていた葉がそのままであること、また特にタケノコは根が共通しているために、新たに生えるタケノコにも影響してしまうようです。魚類では、川魚が水底の泥を食べるために測定値が高いのですか、調べてみて意外だったのは、河口付近の下流よりも、川の上流の方が汚染が高いことです。これはセシウムが泥に付着し沈殿する性質があるためではないかと思われます。山では、イノシシなどの山の動物や山菜に高い測定値が、また、キノコ類は水平方向に菌糸を張るために表面積が大きくなり、活性炭のようにセシウムを集めてしまいます。但し、同じキノコでも菌床栽培のものであれば汚染はほとんどありません。

暮らしの中の被曝対策

では、暮らしの中でどのような被曝対策をすればいいのでしょうか。外部被曝に対しては、何よりも汚染源から距離をとること、それが難しい状況ならば、地面の除染・表土剥離、そして家屋の除染です。しかし、家屋の除染については個人個人でやろうとすると費用もかかり、せっかく除染しても粉塵がまた飛んできたら…ということを考えると難しい面もあります。また、農地・森林の除染も必要ですが、いずれも困難であることは同様です。また内部被曝に対しては、粉塵を吸わない、汚染したものを食べない、汚染しにくいものを選んで食べるということになります。また、調理の際に、煮たり、酢漬けにすることは有効です。水については、川の水は注意が必要ですが、深い井戸水は当分大丈夫です。

知らず知らずのうちにしているかも知れない被曝の影響を減らすためには、セシウムを吸着し体外に排出してくれる物質を摂ることも必要です。例えば、ペクチン(ジャムの粘っこい部分など)、キチン・キトサン(エビやカニの殻、キノコ類など)、またゼオライトという鉱物にもその機能があります。また、抗酸化作用があるビタミンA・C・E、先ほどトマトで触れたβカロチン、カテキン(ポリフェノール類)、発酵食品なども有効と考えられます。

一般に、放射能は癌や白血病に繋がるというイメージを持たれていますが、放射能は特定の病気の原因となるものではありません。チェルノブイリで起こった様々な病気を調べると、癌は一割以下です。それ以外に、心臓病、脳血管病、糖尿病、先天異常、免疫力低下など様々な病気に広がっており、あらゆる成人病の危険に注意を払う必要があると言えます。

今後私達は、長い時間、様々なレベルで放射能と付合っていかなければならないのですが、最も重要なのは日常生活の中で日々被曝を減らす工夫ということに尽きるのかも知れません。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン