レポート 2012年7月17日(火)

リオ+20の成果と今後の展望

〜持続可能な開発は実現可能か?〜

リオ+20会合の成果をわかりやすく紹介するとともに、その背景にある考え方や国際情勢の変化について解説します。具体的には、1)グリーン経済の本質とは何か、2)共通だが差異のある責任の変質、3)具体化する環境制約と国際競争の激化、4)国際社会における正義とは何か、こうした論点に光を当てつつ、持続可能な開発は本当に実現可能であるかを論じます。

塚本 直也 氏
環境省 地球環境局 国際連携課長

 

「リオ+20、それは経済会議」

先頃開催されたリオ+20はサミットではありません。サミットとは各国の国家元首、大統領や首相が集まることを前提にした会議ですが、このリオ+20は、そうではありませんでした。その点で、1992年のリオ・サミット、2002年のリオ+10はいずれもサミットでしたが、今回はその気運が高まらない中での開催だったのです。

92年のリオ・サミットは、開発の中でいかに環境を守っていくのかという「環境の会議」でした。そして、10年後のリオ+10は、社会を構成する様々なステークホルダーが持続可能な開発にいかに参加するのかという「社会の会議」でした。これに対して、今回のリオ+20は「経済の会議」だったと言えるのではないでしょうか。私達は好むと好まざるとに拘らず、資本主義経済に生きています。しかし今、その資本主義を回すために必要な土台の一つ「環境」が大きく崩れそうになっています。農業生産、気候、生物多様性などが急激に悪化し、経済そのものが回らなくなってしまうのではないかという危機感が広がっているのです。この現状から、「グリーン経済」というリオ+20のアジェンダが生まれてきたのではないでしょうか。

「先進国のグリーン経済、途上国のグリーン経済」

リオ+20の成果の一つが、このグリーン経済についてです。成果文書には、「各国がグリーン経済を持続可能な開発を達成するための有力な手段であることを認識する」ということが盛り込まれました。つまり、先進国はグリーンな産業に投資して経済を活性化していこう、これが環境を壊さずにお金儲けを続けるための答えだということです。

ところが、これは世界全体でやっていかないと平等な競争条件が整わないものですが、途上国の立場から考えると、事情が違ってくるもののようです。途上国側からすると、自分達が作る製品、伐採してくる木材、伝統的漁法で獲ってくる魚などは、果たしてグリーンなものと認めてもらえるのか?それらはグリーンではないとされて、結局「グリーン経済=貿易バリア」になるのではないかということを、先進国並みにグリーン化するだけの技術や資金がない国々は懸念しているのです。

リオ+20では、この他にも、国連の中で環境問題に関する機能を強化するための制度的枠組みや持続可能な開発目標についての成果が得られ、これらが盛り込まれた成果文書は50ページにも及ぶ厚さになりました。もちろん私は職務上これに目を通しましたが、一般の皆さんに自信を持って「読んで下さい」とは、とても言いづらい文章量になってしまいました。では、リオ+20は失敗だったのでしょうか。私はそうは考えていません。

例えば、私達が買う薬の箱の中には様々なリスクや使用上の注意書きがギッシリと書かれた説明書が入っています。各国政府が32日間かけて作った文書は、実はそういう性格があり、グリーン経済にはこんな心配あんな心配があるということが細かに書かれているものなのです。薬を飲む人は、実際はあまりその説明書は見ないものです。箱を見て買うかどうかを決めます。では、リオ+20の箱には何て書いてあるのでしょう?・・・「経済にも効きます・環境にも効きます」。これを見て各国のリーダーが、いいじゃないかと思い、この箱を手に取ってくれたら、リオ+20は成功だったと言えるのではないでしょうか。

実際、リオにやってきた各国のトップの多くは、「グリーン経済を使ってこれから発展していくんだ」とポジティブな発言をしていました。その現場を目にしてきた私は、リオ+20が、これから世界経済が緑に変わっていく最初の一歩になりうるものだと期待しています。

「グリーン経済の次のステップとは」

一方、グリーン経済について今回合意できなかったことに目を向けると、今後の課題が分かりやすくなるので、次にこれらをご紹介しておきましょう。

まず、「グリーン経済が経済発展の度合い、経済構造によらず、環境保護と経済発展を両立する解決を提示しうること」、つまり、どんな国でも、その国に合ったグリーン経済があるということの提示です。他にも、「グリーン経済の進捗を測る指標」、「その進捗を国連の場でチェックする仕組み」、「グリーン経済に関するロードマップ」を作ることなどが当初の草案にはあったのですが、合意には至らずに終わりました。しかし、これらは合意できなかったからといって消えてしまったわけではなく、今回の議論を通して、今後こういったものが必要だという意識が共有できた、その意義は大きなものです。

今回のリオ+20には、世界各国から4万人の方々がリオに集まりました。距離も飛行機代も時間もかかる中で、リオ+20が大切だと考えて集まってきたのです。政府は力を持っていますし、もちろん仕事をしなければならないのですが、実体経済を動かしているのは民間企業であり、その民間企業が収益を得られているのは、消費者がその企業の商品を選ぶからです。

グリーン経済は、実体経済を動かしている企業や消費者が取り組まない限りは、絵に描いた餅に終わってしまいます。4万人ものステークホルダーが集まって生み出された熱気を見て、私は、リオ+20をやった甲斐はあったのだと感じました。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン