「惑星探査によって解明される地球の謎」
星は分子の雲から生まれます。この雲が収縮と同時に回転を始めて円盤状になり、重力が発生することで丸くなっていきます。このようにして分子の雲は星へ成長していくのですが、中には大きくなりきれない微惑星もあります。小惑星、つまり火星と木星の間に数多くある微惑星は、地球に比較的近い位置にあり、その成分が似ていると考えられています。私たちが、地球の内部がどうなっているかを知ろうとする時、半径6,000kmもある地球を掘り進めることは不可能です。また、火山の噴火で発生するマグマは、極めて表面の物質に過ぎません。しかし、宇宙に浮かぶ小惑星を調べることで、地球の内部にある物質と同じものを、そこから得られることが期待されています。これによって、地震などの地球の内部で起きている現象や、気象に関する手掛かりをつかむこと、それが小惑星探査の意義です。
また、「生命は地球で誕生したものなのか、地球外からやって来たものなのか」という人類の大きな疑問についても、近年、氷で覆われている土星の衛星や、氷の下に大量の水があることが確実視されている木星の衛星が分かっていて、そこに人間と似たDNAの塩基配列が発見されたら、生命の手掛かりをつかめる…という時代になってきたのです。
「はやぶさが持ち帰った粒子」
2010年11月16日、JAXAは「はやぶさ」がイトカワ起源の粒子を採取したことを発表しました。その大きさは10〜20ミクロンという杉花粉や黄砂並みの大きさです。およそ1500粒を採取しました。そして、それらについて酸素の同位体分析を行いました。酸素には、酸素16、酸素17、酸素18という三種類の安定同位体があります。主なものは酸素16ですが、実は酸素17と酸素18の比率は、地球起源の物質と地球外の物質では全く違うことが分かっています。分析の結果、これらの粒子は、宇宙起源の隕石の比率とピッタリ一致。「はやぶさ」のカプセル内から採取された粒子は、地球外の物質であることが証明されました。つまり、これは地球の内部物質と同じものとも言えるのです。また、アルミニウムとマグネシウムの同位体分析によって年代測定が可能なのですが、その結果、これらの粒子はおよそ45億年前にできたものであることも分かりました。見事に「はやぶさ」は、地球が誕生した頃の、地球の内部物質を手にすることに成功したのです。
「はやぶさが伝えたメッセージ」
他の天体に着陸し、サンプルを採取して持ち帰るという「サンプルリターン」のアイデアは、私たちが考えるまで、世界中のどの国も考えたことがなかった独創的なアイデアでした。そして我々は、そのアイデア実現のために、イオンエンジンをはじめとする数々のオリジナルの技術を開発しました。その結果、遥か彼方にある、わずか500mほどの天体に探査機を到達させ、それを地球に帰還させることに成功しました。この「はやぶさ」のプロジェクトは、目標も、手段も全くのオリジナルだったことに、実は大変重要な意味があります。
1985年、ハレー彗星に向けて惑星探査機を打ち上げた時、我が国に「小惑星サンプルリターン研究会」が発足しました。当時、日本の宇宙開発は諸外国から大きく遅れていました。アメリカは、すでに火星や金星に次々と探査機を送り込んでいました。しかし、世界中が丸い天体ばかり見ていたこの頃、世界で私たちだけが小惑星に注目していたのです。
1980年代、日本は「JAPAN AS No.1」の名の下で大きな成長を実現しましたが、そこで日本が作っていたもののほとんどは、欧米で発明された製品でした。どんなにそれらを一生懸命作っても、オリジナルの国を越える地位を得ることは出来ません。私の好きな棟方志功は、「師匠についたら、師匠を越えられない」と語り、自らの道を歩んだ人物でした。この想いで突き進んできたのが、「はやぶさ」のプロジェクトです。私たちが目指したのは、「世界一」ではなく「世界初」です。各国が競っているフィールドで争って勝つのではなく、誰も競っていないフィールドで成果を出すことでした。これからの時代、日本は、「製造の国」から「創造の国」へと変わっていかなければなりません。アイデアで変革を起こすのです。私たちが作り出したものを、世界が製造するような国になること、それこそが、「はやぶさ」が私たち日本人に伝えたメッセージなのです。
構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)