レポート

パート 2 太陽・海・宇宙 〜自然の驚異〜:大地から海そして宇宙に至るまで、大きな視点で地球の魅力と、地球環境がかかえる課題について学びます。日程:9月6日(火)9月13日(火)9月27日(火) 9月6日(火)

火山の驚異と真実

荒牧 重雄 氏山梨県環境科学研究所所長

火山の噴火によっていろいろな災害が発生するのは確かな事実です。一方、火山作用は地球の誕生以来,きわめて重要なプラスの効果を地球環境に与えてきました。火山活動の源は地下のマグマの動きですが、マグマの活動は、生命を育む環境を整えて人類の生活に適した条件を与えるようになりました。火山の噴火は目覚しいスペクタクルで、われわれの好奇心を刺激しますが、火山現象の持つもっと根源的な意味をも深く知ることが重要です。

火山がもたらす災害をどうとらえるか

東日本大震災は、北海道から沖縄まで全ての都道府県で揺れが記録された未曾有の大規模災害でした。なんと本土から遠く離れた小笠原諸島まで揺れたというほど、スケールの大きなものでした。そのスケールは、年間死者数の推移を見ると、別の観点から理解することができます。戦後、死者数が突出している年が3つあります。まず、約6千人の命を奪った伊勢湾台風に見舞われた1959年、そして、6千数百人が亡くなった阪神大震災の1995年、さらにそれらを遥かに凌ぐ2万人の死者数を記録している今年2011年です。一般に、地震と火山活動は関連していると思われており、今回の震災以後、少なくとも13の活火山の活動が活発化したというニュースもありますが、これほどの数の人命を脅かすような火山の噴火が起きたことはありません。火山の噴火は規模の大きな災害というイメージがあるかもしれませんが、実は、地震ほどは大きな災害ではないとも言えるのです。その一方、記憶に新しい宮崎県・新燃岳の噴火の際に目にした通り、火山灰の飛散によって、付近の農業が大きなダメージを受けることは現実にあります。こうしたことから、火山は恐いものという印象が一般的であるようです。しかし、実際には世界各地にたくさんの美しい火山があり、素晴らしい景色を楽しませてくれるという側面もあることにも目を向けてみて下さい。

火山についてよくある質問

ここで、よく尋ねられる火山に関する質問をいくつか挙げてみましょう。ます、地震と火山活動は関係があるものなのでしょうか?もちろん関係があります。地震の原因とは、ご存知の通り、2つのプレートの摩擦であり、地球上の各プレートの境界線と火山の分布とを重ね合わせると、大体並行した位置関係にあることが分かっています。つまり、プレートの沈み込みとマグマの発生には何らかの関係があると言えます。ただ、プレートの摩擦熱によって岩石が融けてマグマができるという旧来の説は、最近の研究によって熱量的に不十分であることが分かっています。
また、「マグマと溶岩はどう違うのか」という質問もよく受けます。マグマも溶岩も、どちらも岩石が融けたものです。これが地下にある場合を「マグマ」、地表に現れると「溶岩」と言います。但し、そこには大きな違いがあります。地下にある状態では周囲から高い圧力がかかるため、マグマには火山ガスが溶け込んでいますが、これが地表に出ると圧力が下がり、溶岩からガスが逃げ出します。つまり、マグマ=溶岩+火山ガスという関係にあるのです。
そして、「最近、“休火山”という言葉を見かけないのですが、使ってはいけないんですか?」という質問も、よく聞かれます。確かに日本だけでなく海外も含めて、火山学の教科書を見ると、「休火山」という言葉を見かけなくなりました。以前は、「休火山とは、昔、噴火したことがあって、今は噴火していない火山」というようなことが言われてきました。では、「昔」とは一体いつのことでしょう。ここがハッキリしません。また、例えば日本では、1000年前からの噴火の記録が残っていますが、アメリカでは、せいぜい400年くらい前からしか残っていません。となると、どこまで遡って定義するかの基準がまちまちになります。それでは科学としては曖昧なため、最近は関係者の間で使われなくなってしまったのです。因みに、「活火山」とは、現在活動中、もしくは過去1万年以内に活動していた火山のことを言うのですが、これは恣意的で私はあまり好きではありません。

火山の存在意義とは何か

我が国の70%以上の自然公園・国立公園は火山地域にあります。則ち、日本の美しい自然景観のほとんどは火山によって作られているのです。また、その多くが温泉地だったりと、火山はレクリエーション資源としての価値を有しています。その一方で、火山は、地熱発電の開発によってクリーンエネルギーを生み出す源でもあります。さらに、肥沃な土壌を作り出す源でもあるのです。よく、火山灰が降った土地は荒れ地だと言われます。それは、半分は本当ですが、半分は嘘です。確かに火山灰が降った直後の土地は荒れ地ですが、5000年経つと、それが風化して見事な赤土・黒土へとなっていくのです。これはかなり先が長い話ではあるのですが…。そして、もっと話の風呂敷を広げると、火山によって、金、銀、銅、鉛、亜鉛などの鉱物資源が生み出される、そんな価値も持っています。
一般に、火山は災害をもたらすというマイナスの側面に注目が集まりがちです。それによって、人命や財物の損傷・亡失、社会的機能の損壊、環境破壊などが発生します。しかし、火山がもたらす恩恵と災害とを比べると、遥かに恩恵の方が多いのではないでしょうか。寺田寅彦さんが「天災は忘れた頃にやってくる」と言いましたが、私は、「火山災害は、忘れ去られた後、長い間経ってからやってくる」と寺田さんに言いたい。毎年やってくる台風や、地震などと比べたら、火山災害は間隔がもの凄く長い。数百年に一回程度です。火山のバランスシートとしては、観光資源としての価値というプラス面が遥かに大きいことを、皆さんにぜひ分かって頂きたいと思います。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン