レポート

パート 1 森と水 〜生命の源〜:「国際森林年」である今年、あらためて生命の源である森林の価値、森林と深い関係である水について考えます。日程:7月5日(火)7月12日(火)7月26日(火) 7月12日(火)

最も美しい森林は、また最も収穫多き森林である

速水 亨 氏速水林業代表

世界の原生林は8000年間で3割以下まで減少しました。持続的な森林利用を目指していかなければ、森と共に生きている人々の生活も破壊されてしまいます。木材は植林すれば原生林を伐採しないで利用可能な再生資源です。しかし日本の輸入木材の2割が違法に伐られた木材。国土の25%を占める人工林は本当に機能が低いのでしょうか。適切に管理された人工林は見るものを感動させる芸術です。水を循環させる機能も素晴らしい。そんな美しい森林の話です。

ヨーロッパと日本の森林観

本日の講座のタイトル「最も美しい森林は、また最も収穫多き森林である」は、ドイツのアルフレート・メーラーという学者が19世紀末に書き記した言葉です。私自身も、見て美しく、そして入って気持ちのいい、さらに木材生産をきっちりできるという森林づくりを目指して林業に携わっています。
では、「美しい森林」とは、どのような森林を指すのでしょう?原生的森林は中に入るだけで美しさを感じられるものであり、その意味だけでも保護する価値があるものです。一方、人工林は手入れ次第で美しくなるもので、そこに多様な植物、土壌微生物、虫たち、鳥類、動物が住む森林であれば美しいと言えるのではないでしょうか。因みに日本人の場合は、東山魁夷の絵のように、端正な美しさと多様性とが上手く重なり合うものが好まれる傾向にあります。そこでヨーロッパ人と日本人の森林観を比較すると、ヨーロッパの場合は、森林に対して属地的な宗教観がないのに対して、日本では、例えば「熊野の闇には色がある」という言葉があるように、そこに魑魅魍魎の存在を意識し、人があまり入りたがらない場所だったようです。昔話で言えば、森に入るとお婆さんの家があったり、やがて隣町に出てしまうのがヨーロッパの森であり、子どもは森に入ってから何か事件がおきます。一旦足を踏み入れるとどんどん奥深くに行ってしまったり、子どもが何者かにさらわれて連れて行かれる場所が日本の森です。ですから日本では、ヨーロッパのように地域の人が何気なく森に散歩に行くようなことはなく、その結果、日本人は森林の内部の変化に疎く、細かい配慮をしながら森林管理をするという意識が抜け落ちてしまっているのです。

現代日本の林業経営

ところが日本人の植林の歴史はかなり長く、すでに日本書紀に、目的ごとの人工林を推奨する記述が残されています。そして現在、国土の67%・2500万haが森林で、総蓄積はこの35年間で2倍、人工林で4倍。ここまで森林を成長させた国は、世界で他にありません。そんな我が国の森林にもう少し適切な投資を行い、森林資源の経済的価値を高めることができないかというのが、私たち林業経営者の悩みであり、希望でもあるのです。というのも、1㎥のスギの木で雇用できる作業員数は、昭和30年に11.8人でしたが、平成16年には僅か0.3人と、1/40になってしまいました。普通の産業であれば、ここで40倍ないしは50倍に生産性を上げればいいのですが、自然産業である林業の場合、そこが思い通りにはいかないのです。
私がその中で、林業経営をどのように考えているかというと、まず何よりも地域住民に理解してもらうということを重要視しています。森林法が改正され、経営計画を立てる際の義務として、周囲の森林の経営を受託し管理面積を増やすことを求められていますが、その時、地域との間に信頼関係がなければ中々できることではありません。つまり、私に預けてもらえば、少ないながらも雇用を創り、山もしっかり育て、きれいな水が流れて下流の海も豊かになるだろうという想いを地域の皆さんに持って貰うことです。
またその他に林業経営上重要なポイントは、環境的に豊かで美しい森林を作ること、人工林の環境管理技術は案外世界で確立されていないので、これを確立すれば世界に誇るものになるということ、他の産業に比べて事故の発生率が10倍もある作業の安全性を確保することなどが挙げられます。

野菜や魚のように、木材の産地にも注目を!

ところで、日本は木材需要の8割を輸入しており、そのうちの2割が違法に伐採されたものです。そこで消費者の皆さんにどのような行動をして欲しいかというと、まずは国産材を使って頂くことが一番ですが、その次には、どこで伐られた木なのかを意識して頂きたいということです。昨今は、野菜や魚の産地がどこなのかを皆さん大変気にされるようになりましたが、木についてはまだまだ無関心です。しかし、森林とは極めて社会的なものです。なぜなら、地域の社会や文化が、そこにある森林と密接に関係しているからです。その木材が適切に管理された森林からの材なのか、それを無視して伐られた材なのかは非常に大きな問題です。そこで注目して頂きたいのが、独立した第三者機関が森林管理を公表された基準に照らし合わせて評価・認証していく「森林認証制度」。その代表的なものが、FSC(Forest Stewardship Council)という制度で、現在、森林管理認証は世界81ヶ国、木材の加工・流通を対象としたCoC認証は世界105ヶ国で行われており、ぜひ木材や加工製品を買う際には、このFSCマークのあるものを選ぶなどをお願いしたいと思います。
違法伐採は、森林を破壊してしまうだけでなく、木材市場価格さえも破壊して持続的な管理を不可能にしてしまいます。さらに、その森林に依存して生活している人々の人権を踏みにじり、命までも奪う可能性があります。つまり、それによって生じた貧困が子ども達の教育機会を奪い、少女売春を拡大させます。また、燃料がなくなることで人々は農地にあるものを何でも燃やしてしまい、農地が痩せて食料不足に繋がったり、不適切な燃料使用で呼吸器系疾患になる人が増加します。皆さんが使う輸入材の5本に1本が、このように人権を侵害している可能性が高いことを、ぜひ覚えておいて下さい。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン