【受講料】
各パート(全3回)1,500円(学生 1,000円)
【定   員】
250名
【時   間】
18:30〜20:15(受付開始 17:45)
【場   所】
損保ジャパン本社ビル2F大会議室講座開催場所地図

オープニング特別講座|参加費無料、定員250名(先着順)です

"洞爺湖サミット"を読む〜どうなる、気候変動次期枠組〜

全世界注目の洞爺湖サミット。
各界のパネリストが分かりやすくひも解きます。

【日   時】
5月31日(土)13:30〜16:30

パネルディスカッション

バネリスト

  • NPO法人気候ネットワーク理事長/浅岡 美恵氏
  • 財団法人地球環境戦略研究機関理事長/浜中 裕徳氏
  • 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科前教授/原 剛氏
  • 東京電力株式会社顧問、日本経団連環境安全委員会顧問/桝本 晃章氏
  • 京都大学大学院経済学研究科・地球環境学堂教授/植田 和弘氏 (基調講演より引き続きコメンテーターとして参加)

コーディネーター

  • 社団法人日本環境教育フォーラム理事長/岡島 成行

浅岡 美恵氏講演

浅岡 美恵氏最近もミャンマーのサイクロンで10万人を超える人が亡くなりました。IPCCは温暖化が進むとサイクロンや台風が巨大化すると予測しています。地震の多い我が国でも地震に強い国づくりをすることはできても、それ自体を止めることはできません。しかし、台風が巨大化することを防ぐことはできます。それが今日の国際政治の大きな課題であり、私達自身の課題でもあります。まず、私達は、京都議定書の約束期間の目標を達成しなければならないという課題も抱えています。さらに、2009年末にデンマークで開かれるCOP15で次の約束期間の先進国・途上国の目標を決めるための交渉が開始されていますが、そのプロセスとして今年のG8・洞爺湖サミットがあるわけです。先進国の中期目標に向けた前進が洞爺湖でみられることに大きな期待が寄せられています。しかし、議長国である日本自身が中・長期の目標を示せていないことは、日本の大きな課題です。先日神戸で行われたG8環境相会合の議長総括にもられた中期目標の重要性とセクトラルアプローチの関係や国内排出量取引についての事項など殆ど全てが、日本に向けられたものだと思います。

日本の経済界から発案された目標設定のためのセクター別積み上げ方式は、今回のG8環境相会合では、環境十全性の確保に必要な目標との間にギャップがあり、そのギャップを埋めなければならないとされています。排出量取引など炭素に価格をつける仕組みの導入がその柱になるとの認識は、先日の鴨下環境相の国会答弁でも示されています。

先般、私達は、「気候保護法案」を提案しました。短期・中期・長期の目標を定め、2050年までの経路として、気候を安定化させるための目標として長いスパンで法律に書き込むことが、全ての政策の出発だと思います。その目標達成を担保するために、この法案の中では、国内排出量取引、炭素税、再生可能エネルギー促進、排出量データベースの充実と共有、地域での交通政策や民生対策への支援などを柱としています。これは私達の創作ではなく、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどで既に法律案となり、国会で審議され、また具体的な制度設計がなされているものを研究して作成した法案です。国際社会が目指すべき合意に従って我が国の中長期目標を掲げ、そのための社会や経済の仕組みをかえる制度の具体的議論を進め、国内排出量取引制度も豪州やカナダと同様に2010年にはの試行できるようにしていくことが必要だと思っています。そのことによって、2009年末のCOP15において、日本が国際的に期待される貢献ができ、かつ日本の経済や産業を新たに発展させていく基盤を築くことができると考えるからです。今日、日本は温暖化対策における先進国のラストランナーとなってしまった感がありますが、洞爺湖サミット、COP15を見据え、世界に追いつくために、私達はこのようなキャンペーンを進めようとしているところです。


浜中 裕徳氏講演

浜中 裕徳氏2007年のハイリゲンダム・サミットでは、2050年までに温室効果ガスの地球規模の排出を半減させるということが打ち出され、アメリカのブッシュ大統領も含めこれを真剣に検討することが合意されたのですが、洞爺湖サミットでは、さらにここから一歩踏み出していくことが期待されています。私は、EUの戦略について、長期を見据え、ポスト2012年の枠組みだけでなく、省エネと再生可能エネルギーの目標を首脳レベルで統合して作られているという点で、しっかり走り出しているものだと評価しています。またアメリカでも、州レベル、企業、金融機関などでは活発な動きを見せており、背景にはそれを求める市民の声が大きくなってきているということが挙げられます。さらに、現在大統領選挙を争っている候補者も、6〜8割の削減を掲げています。

洞爺湖サミットにおける、ポイントの第一点は、先進国としてハッキリとした削減ビジョンを共有し明確に意志を表明すべきだということです。客観的に見てブッシュ大統領が合意することは中々容易ではないと思いますが、これに向けて最善の努力をすべきだと思います。特に日本では、再生可能エネルギーの目標について、今のままでは欧米の動向に比べてあまりに低過ぎるので、大幅な引き上げが必要です。これには費用の負担が避けられませんが、例えばドイツでは社会全体で負担するということが国全体で合意できており、我が国でもしっかり議論をして国民的合意をつくっていく必要があるのではないでしょうか。現在日本でもカーボン・オフセットの商品やサービスの提供が相次いでいますが、まず私達が日常生活において消費をする時にどれ位の二酸化炭素が出るのかということを「知る」ことが大切です。それにより、私達がどこをどうすれば減らせるかが次に分かります。そして減らせない部分についてお金を使ってオフセットしていくという行動に繋がっていく、そんな仕組みづくりが非常に重要です。

その他にも、途上国との協調など大切なことは多々ありますが、洞爺湖サミットは、日本が議長国として影響力を行使することが出来る貴重な機会です。この機会が過ぎてしまうと、後はアメリカに新政権ができて今とは違った方向で動き出し、これにEU、中国、インドといった国が加わって交渉を主導し、次の枠組みができていく可能性が強く、そこで日本が及ぼせる影響力は相当限られてくると思います。それ故に、ぜひこのサミットまでに日本として最善の努力をすることが重要なのではないでしょうか。


原 剛氏講演

原 剛氏私は1962年に毎日新聞社に入社し、ジャーナリストとして世界中を飛び回りながら、日本の近代化や産業公害・地球規模の破壊などを半世紀以上見てきたのですが、どうもヨーロッパは「環境」という問題を文化として、アメリカは経済の随伴的な効果として捉えているように感じます。これはコストという点から考えた時、それぞれの社会で異なった対応として現れると思われます。文化というのは金額がつけられないという社会が一方にあり、その時々の銭勘定で物事の価値を判断する社会がもう一方にあります。これが、皆さんが薄々感じているヨーロッパとアメリカの違いではないかと思います。では日本はどうかというと、絶えずこの軸の間を行ったり来たりして自らの座標軸を決めることがない、つまり水俣病事件以来綿々と繰返してきたのは対症療法です。

温暖化対策として、政策目標の中にやたらと数値目標が掲げられるのですが、これを見ていると既視感と共に空虚さを感じざるを得ません。私の半世紀に及ぶ記者生活の中で、1998年に地球温暖化対策推進法というものができました。これは元々温室効果ガスの排出削減義務を企業に課して、それを知事に申告し、知事はそれを公表するというものでした。ところが出来上がってみると、企業の自主規制で対処することになっていました。そこでこの法律は5年経ったら実効性を見直そうということになりました。ところが現在に至るまでこの法律は、何の変化もなく続いています。これは社会に原則と哲学がない証拠ではないかと、私は考えています。

しかし社会に何の進展もなかったわけではなく、経済活動や皆さんの意識が、状況を変え、環境保護の側へ大きく転換したという点は全く否定致しません。しかしながら、政策目標と政策手段が依然として明快に一致しない、つまり目標はそれらしいことを言うのですが、そこに至る手段が極めて分かりにくい形になっているのです。しかし温暖化は不可逆変化です。事態を元へ戻すことは経済コスト的に極めて困難かもしくは不可能になります。つまり、経済合理性からみた最悪の選択をするということになりかねないのです。

では、どこで我々の社会が温暖化緩速のためのコストの負担に合意するかというと、環境に対する人間の主観的な評価の領域が危機域に入り破局域を明確に感じられるようになってきた時です。すでにその時期に入ってきているようです。日本の環境政策を進めてきた大きな原動力は自治体でした。特に東京都です。東京都が国の政策に先んじて条例を進めていき、後から政府が動くのです。この図式の大きな要因は選挙対策のためです。11月の都議会で「環境確保条例」を改正し、年間1500kℓ以上の油を使う事業者に対し、東京都はCO2の削減の報告義務を課します。自治体が動いて世論を形成する、特に東京都の動きはとても重要です。このような動きが活発化しているのは、いよいよ来る所まで来たということですが、人間の英知というのは、必ず破局の一歩手前でブレイクスルーするものだと私は考えています。


桝本 晃章氏講演

桝本 晃章氏私は今までお話しになられた方々とは、対極の立場と言えるような産業界に身を置く者です。産業界では、二酸化炭素を発生させていますが、一方で実際に物を作り、地に足をつけて仕事をしております。その立場から少し異論も申し上げたいと思います。

例えば、何人かの先生がキャップ・アンド・トレードについて触れられましたが、産業界にとっては「キャップ」は、一言で済ませられない重さを持っています。例えば皆さん一人ひとりがご自分の身に置き換えて考えて頂ければ分かると思いますが、二酸化炭素の割当が皆さんの各家庭それぞれに及ぶとしたら、どうなるでしょうか。私達はそういう社会を望むのでしょうか。洞爺湖サミットに期待するところは大きいのですが、スポーツのどんな球技でもでも、肩に力が入り過ぎた時には決して的確にボールは飛びません。日本が議長国として歴史的な役割を果たすことには全く異論はありませんが、京都会議の時にはエネルギー効率で一周先行していた我々日本の産業界や社会が、それまであまり努力していなかったエネルギー効率の比較的良くない国々と同じに並べられてしまったというトラウマがあるというのが正直な所です。ぜひ今回のサミットでは、地球益・世界益も重要ですが、日本の利益もしっかりと頭に入れて頂きたいと思います。

また、先程の植田先生の基調講演で話された「環境破壊なき雇用」という説も非常に興味深いものでした。逆に「雇用破壊なき環境政策」というのはあり得るのでしょうか。環境問題解決の基本の中に「経済との両立」というものがありますが、実はこれはそう簡単にできません。環境問題に取り組めば取り組むほどコストが高くなります。政府は環境政策だけでなく、このコストアップについても国民・企業に訴えるべきだと私は思います。例えば二酸化炭素に値段をつけるということは、ガソリンや灯油の値段が上がるということを意味しています。また、EUは13年後に二酸化炭素をオークションにし、2020年頃にはそれにより500億ユーロの歳入を期待すると言っていますが、これは政府が毎年8兆円をマーケットから吸い上げるということです。ぜひ、政治、行政、学者の先生方にはこのように環境政策によって市民にもたらされる影響についても国民に投げかけて頂きたい。そうすれば我々はそれを公正に考えられる。環境の側面だけを強調して物事を考えるのは一方的過ぎると思います。これからも色々な議論が浮上するでしょうが、我々はどれ位の負担をするのかということを皆さんと一緒に考えていくことが重要なのではないでしょうか。

ただ最後に申し上げたいのは、我々産業界は、エネルギー大量消費の産業革命以降とは異なる、エネルギーをあまり使わない技術、或いは低炭素の技術を使う方針へと大転換をするべきことは間違いないと思います。そしてその製品やサービスを市場に提供して、消費者の皆さんに選択して頂く必要があるということを深く認識しています。