【受講料】
各パート(全3回)1,500円(学生 1,000円)
【定   員】
250名
【時   間】
18:30〜20:15(受付開始 17:45)
【場   所】
損保ジャパン本社ビル2F大会議室講座開催場所地図

オープニング特別講座|参加費無料、定員250名(先着順)です

"洞爺湖サミット"を読む〜どうなる、気候変動次期枠組〜

全世界注目の洞爺湖サミット。
各界のパネリストが分かりやすくひも解きます。

【日   時】
5月31日(土)13:30〜16:30

基調講演"洞爺湖サミット"を読む 〜どうなる、気候変動次期枠組み〜

講師:京都大学大学院経済学研究科・地球環境学堂教授/植田 和弘氏

「Climate Change」という言葉は一般的には「気候変動」と訳されますが、本当は「気候が変わってしまう」という捉え方が正しいのかもしれません。では、その気候とは人間の社会にとってどういう意味を持つものでしょう。気候とは「人間が変えることが出来ない予見」なのです。それによって天災が起き、生活や農業に被害を受けることもありますが、本来人間が変えられるものではないので、私達は予見することによってそれに対応してきました。この関係から考えると、「Climate Change」は、変えることが出来ないはずの気候を人間が変え出したことによっておきている問題とも言えます。私達は、自分達が生存するための最も大切な基盤を自ら壊し出したのかもしれません。なぜ洞爺湖サミットが重要なのかというと、今しなければならないこと、今決めなければいけないことがあるからだということなのです。この問題は人間の活動が原因なのですから、人間の側が変われば解決の可能性があるのです。

気候が変わってきたことでどんな問題が起こるのか、原因が何なのかということを考える上で、科学的知見がなければ始まりません。皆さんもよくご存知のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の発表や、気候変動に早急に対策をとらなかった場合の被害の大きさと経済的影響を示したニコラス・スターンの「気候変動の経済学」といった科学的あるいは経済学的分析を受けて、今や気候変動問題は国際政治の大きな課題となりました。それを解決する上で、科学者の知見による結論はほぼ共通しているのですが、いざ行動に移すとなると『地球は1つだが、世界は1つではない』という言葉の通り、うまく進まないのが現状です。1992年のリオサミットで、この問題に対して各国で取り組もうという合意をし、1997年の京都会議で具体的な目標が定められたのですが、その議定書の批准には2005年2月までの時間がかかり、ご存知のようにアメリカはその間に離脱してしまいました。また、京都議定書で定められた約束期間は2012年までで、それ以降の枠組みはまだ決まっていません。

そこで私達は一体何をしなければいけないのでしょうか。現在、先進国と途上国という具合に世界を二分した場合、温室効果ガスの排出量はちょうど50対50となっています。では、今後途上国側からの排出量は減るでしょうか。例えば日本では今7900万台の車が走っていますが、これと同じ割合で中国人が車を持つようになった場合、その台数は8億台になります。このことからも分かる通り、これから途上国が経済発展を遂げていく中で、排出量を増やさないようにするということはとても大変なことです。となると、先進国の役割は決定的であると言えるのではないでしょうか。安倍前首相が2007年に世界へ向けて提唱した「Cool Earth 50」では、2050年までに世界全体で排出量を半減させるという内容で、各国に歓迎されました。これを実現させる上で、仮に途上国側の「50」を減らせないとしたら、先進国側を「0」にしなければいけません。それを可能にするために、私達は産業革命に匹敵する技術革新が必要なのです。これはエネルギーの供給構造を根本から変えるに等しく、構造は今のままでエネルギー使用の節約をするだけで達成できることではありません。

先頃、G8環境相会合が行われ、議長総括が発表されました。その中でも、世界の排出量を半減させる長期目標を洞爺湖サミットで合意するよう求め、特に先進国の大幅削減達成で主導することが唱われています。EUは20%の削減、世界の動向によっては30%削減に取り組むことを具体的に表明していますが、日本はこのような数値目標を中々表明しません。議論を主導していくには発言をした方がやりやすいと私は思うのですが、発言をするためには何らかの理念が必要です。これが必ずしも現時点で明確になっていない所が日本にとって問題なのではないでしょうか。

2050年までに半減という目標を達成するには、個人や企業の努力は言うまでもないことですが、政策や仕組みづくりのイノベーションが必要です。では、そんな革新的環境政策とはどのようなものでしょうか。1つには、温暖化防止に関係しない人はいません。全ての人のモチベーションに繋がる政策の立案がまず求められます。次に、政策の統合やミックスも重要なポイントです。私達は毎日温暖化防止のために生きている訳ではありません。私達が抱えている課題はたくさんあり、政策目標は1つではありません。複数の政策目標を実現するためには、そのための政策を統合することが重要です。目標がなければ政策手段の選択はできませんので、どういう目標が立てられ、どういう政策が掲げられ、それらをどう統合するのか…その出発点として明確な目標設定が求められるのです。さらに、環境政策を進めると経済の足を引っ張り、経済発展を進めると環境負荷が増加するという「トレードオフ」の議論がありますが、これをいかに克服するかという点が上げられます。世界中でしばしば起こる議論ですが、この半世紀の間にかなりの進歩がEUを中心に見られました。いくつかその代表例をご紹介しましょう。

切り離し戦略
成長率と環境負荷は連動しないという考え方です。特に技術革新によって、豊かさを倍にし環境負荷を半分にすると、全体としては4倍良くなる「Factor 4, Factor 10」という考え方がよく知られています。いかに人件費を減らすかばかりに向けられてきた技術革新の方向性を、雇用を増やす技術革新へと考え直すことが示されています。
ポーター仮説
環境政策や環境に関する目標設定が環境技術を高めるというもので、日本の排ガス規制が日本車に与えた効果が、しばしばその例として挙げられます。
二重の配当
1983年に『環境破壊なき雇用』を発表したドイツ人経済学者のヴィンス・バンガーは、環境も雇用も両方大切なのだから両方を実現できる道を考えるのが経済学者の役割だと唱えました。この考えに乗っ取って行われたエネルギー税の引上げにより、ドイツはエネルギー消費の節約を促進させると同時に、その税収を事業者の社会保険料負担の軽減に使い二重の効果を生み出しました。

このような発想を日本にも導入したいと思い、私は地球温暖化防止の環境経済戦略を提唱しています。温暖化防止の基本にあるのは、市場という経済運営の中に削減メカニズムが制度化されることです。温室効果ガスの削減はやりたい人だけがやるというのでは間に合いません。まず、炭素に価格をつける必要があります。これに加えて、例えば日本のものづくりの力を温暖化防止に今以上に役立てることが重要です。その経験を日本が積むことができれば、世界への発信力がもっと高まっていくはずです。

今、私達が取り組もうとしていることは、新しい仕事なのだということを理解して下さい。これは私達が将来の世代から課せられている仕事であり、そのために新しい人材や新しいアイデアが必要であり、今は正に未来の産業が起きようとしている過程なのです。経済が縮小していく過程ではないのです。そして、今の日本の社会や経済の目標を同時に達成できるような方法で取り組まなければなりません。そのためには、今ある技術、今ある仕組みではなく、産業も地域もクリエイティブでないとこの問題は成功しません。今問われているのは、私達がそういう創造力を持っているのかということだと思うのです。