テーマわたしと地球のウェルビーイング〜今日から変える、みんなの未来〜

市民のための環境公開講座は、市民の皆さまと共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。複雑化・深刻化する地球環境の変化の中で、自然の美しさにふれ、こころのゆたかさを保ちながら環境問題に対し、未来志向で取り組んでいくヒントを探ります。

無料のオンライン講座として通常講座全9回および特別講座を開催します。

南極大陸には世界の氷の90%が存在し、すべてが融解すると世界中の大都市を海の下に沈めるほどの膨大な量です。南極地域の観測は、気候変動や生態系危機など、現在危機に瀕している環境ストレッサーの行方を理解するために、なくてはならない活動です。豊かな地球環境を次世代に引き継ぐために、私たちが南極で実施している観測研究を通して、氷河融解と海洋環境の変化がどのように結びついているか、そのプロセスを紹介していきます。

私のウェルビーイング柿と登山

講座ダイジェスト


北極と南極の比較

地球上の緯度60度以上の場所を、それぞれ南極圏、北極圏と呼びます。圧倒的に寒いのは南極で、内陸のボストーク基地では1983年に-89.2℃が観測されています。北極はシベリアのオイミヤコンという町で-71℃と、20℃ほどの差があります。




この差を生み出す原因の一つが、南極には陸があり、その上に一番高い所で高度約4,300mもの氷床(非常に厚い氷の塊)が乗っていることです。北極は大陸に囲まれた海で、海抜はほぼ0mです。この高度差により南極の気温が低いのです。ちなみに地球上の氷の9割は南極に存在しています。



もう一つの原因が、南極が孤立した大陸で、その周辺を海流が回っていていることです。このために大気の渦が大陸の上空で非常に安定して発達しやすく、この渦の内側に冷たい空気が閉じ込められています。それに対して北極域はまわりを熱源の陸地で覆われています。また、極域に熱を輸送する極方向の海流が発達していることなどから、熱が入り込みやすくなっています。



進む大気中のCO2濃度上昇

大気中のCO2濃度の監視観測は、1979年にハワイのマウナロアで始まり、当時の濃度は336ppmでした。今や世界中で監視観測されていますが、年々CO2濃度は増加していて現在は430ppmです。特に北半球でダイナミックに大きく変化しながら上昇しています。



現在は南極大陸の氷床にあるアイスコア(空気の隙間)に閉じ込められた大気を測定することで、過去80万年前ぐらいまでCO2濃度の変化をさかのぼれます。それによると昔は280ppmを行ったり来たりする程度と、非常に低い濃度水準でした。さらに古くまでさかのぼると、過去に430ppmを超えていたのは今から300万年前ほどと考えられるので、現在の濃度がいかに異常な状態かが分かります。



温暖化の仕組みと両極への影響

地球上に大気がない場合は、太陽のエネルギーがそのまま宇宙に戻るので、地球の平均気温は-18℃ぐらいと想定されています。一方で現在は適度な大気と温室効果ガスがあるおかげで、太陽からのエネルギーの一部が地球に戻り、平均気温が15℃程度になっています。ところが大気中に温室効果ガスがどんどん増えると、非常に強い温室効果により、場合によっては平均気温が20℃ぐらいになると考えられています。



温暖化の影響を強く受けているのが北極圏です。北半球全体で1℃程度気温が上がるとしたら、北極では4℃上がり、夏よりも冬の方が圧倒的に温暖化の影響が強く出ていることが分かっています。

私たちが観測対象としている南極は、北極ほど温暖化の影響を受けていません。そのことを物語るのが、地球観測衛星によって1970年代後半から測定できるようになった北極と南極周辺の海氷面積です。北極ではどんどん低下していますが、南極は数年おきに増減を繰り返してきました。



進む海氷の融解

ところが2014年を境に、南極でも急激に海氷の面積が低下するようになりました。このような南極の温暖化によって非常に怖くなってくるのが、世界中での海面水位の上昇です。現在も日本周辺では年間3.5㎜ほど上昇していますが、これは主に熱による海水の膨張が原因です。

一方で南極大陸のまわりに浮かぶ海氷は、大陸の氷床が溶け出さないようにするストッパーになっています。それがなくなってくると、一気に大陸上から氷床が海に流れだすと想定されています。こうした状況をコントロールするのが、海からの温かい熱と考えられているため、氷床と海の関係性を明らかにする観測が重要なのです。



このまま南極大陸の氷が溶け始めると、メートル単位で海面水位が上がると予測されています。また、南極の氷がすべて溶けると、地球上の海面水位が60mほど上昇すると言われ、関東のほとんどが水没します。これは私たちの次の世代や孫の世代といった長い時間スケールで、徐々に起きてくることですが、日本から遠く離れた南極での問題は、南の島だけの話ではなく、私たちの問題でもあるのです。



第66次南極地域観測隊の活動

地球は現在、9つの環境ストレッサーに脅かされています。一番甚だしいのが生態系の危機で、地球46億年の歴史の中では6回目の大量絶滅期に入ってると語る研究者がいます。南極地域観測はこれらの状況を把握するのに、重要な役割を果たしています。



第66次では海氷状況の観測、地質観測、氷河が流れだすスピードの観測などを行いました。また、66次の観測の目玉はトッテン氷河沖の海洋観測でした。トッテン氷河は全球の海面水準を4mも上昇させる規模の氷を持ち、衛星観測では東南極の中で一番融解が進んでいるとされています。氷河は沖合の温かい海水によって、海にせり出している末端部がどんどん溶かされますが、底面から融解が進むことで、一気に上流域の氷河が溶け出してしまうと考えられます。私たちはその状況を監視観測しました。



また、融解によって大量の淡水が周辺海洋にまかれると栄養の濃度も薄まり、最終的には海洋生物の活動にまで影響を及ぼすと考えられるため、海洋物理、化学、生物などの統合的な観測を、約1カ月にわたって行いました。その結果として第66次では、トッテン氷河沖を通る温かい海水の通り道をトレースすることに成功し、充実した観測データサンプルを持ち帰りました。



アンコンシャスバイアスを取り払うことの大切さ

この第66次で私は、現場で最終的な方針決定を下す隊長を務めましたが、隊員が活動しやすくなるよう配慮したいと思いました。その一つがアンコンシャスバイアスという無意識の偏見(固定・既成概念)です。たとえば「女性リーダーの下で働きたくない」といった意識は「女性=リーダーに向いていない」という先入観が無意識に働いたためと思われます。こういった無意識の偏見は簡単に発動するので、発動しないように配慮する必要がありました。私は隊員と信頼関係を構築するため、普段の何気ない会話を大事にし、困った時に相談しやすい関係性を築くことに努めました。




また、全隊員に努力と成長の意識を持ってもらうことや、全員が体も心も健康なまま現場で過ごして、達成感と成功と高い満足感を得て無事に帰ることも目指しました。というのも南極地域観測隊には、人生をかけて公募に応募して参加する方が非常に多いからです。。それなのにアンコンシャスバイアスで、ギスギスした雰囲気になってしまうのはもったいないと思ったからです。



このアンコンシャスバイアスの払拭は、環境問題の改善にも有効だと思います。例えば自分一人が節電したところで大して効果がないという考えはアンコンシャスバイアスです。国民1億人が少しずつやると、ものすごいパワーの蓄積になりますので皆さんもアンコンシャスバイアスをいったん取り払い、節電や食品ロス削減などの活動に取り組んでいただきたいと思います。



ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1南極の氷の融解が、北極に比べてゆっくり進むのは、やはり南極と北極の環境による違いなのでしょうか。そのペースは今後も変わらないのでしょうか。
回答
南極は温暖化しにくい地理的な環境が整っていることが一つの理由だと思います。しかし、2014年以降の南極で海氷が減るスピードは、北極のスピードを上回る勢いです。おそらくある時に急激に減る現象が頻発すると思われます。
質問2少し前にニュースなどで、大きな氷が溶けたから極地の海水温が急に下がったと騒がれました。それについてはどうお考えでしょうか。
回答
私自身も氷の温度は海水を十分に冷やし、瞬間的にその周辺の海水温を下げる関係性があると思っています。それは一過性のもので、気温は割と早く戻るため、おそらく非常に大きな氷山が溶けだすたびに海水温を冷却させながら、また戻ってというようなことを繰り返すと想像しています。
質問3南極の海にも、やはりマイクロプラスチックのようなものはあるのでしょうか。また、観測隊にはそういったことを研究する方が入っているのでしょうか。
回答
今回初めて1人のプラスチック研究者が越冬しました。海中に漂うものだけではなく、例えば生物の海洋プラスチック汚染がどれだけ進んでいるかといったことも研究対象になっています。今は論文にまとめている最中なので発表できませんが、悪い方向で驚く結果が出ていることがわかりました。