全体テーマわたしと地球のウェルビーイング

市民のための環境公開講座は、市民の皆さまと共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。複雑化・深刻化する地球環境の変化の中で、自然の美しさにふれ、こころのゆたかさを保ちながら環境問題に対し、未来志向で取り組んでいくヒントを探ります。

無料のオンライン講座として通常講座全9回および特別講座を開催します。

アシックスは、スポーツを通じた人々の心身の健康が将来世代に渡って実現するよう、気候変動を重要課題と位置づけて取り組んでいます。2050年温室効果ガス排出量実質ゼロに向けて脱炭素および循環型ビジネスモデルへの転換を目指し、温室効果ガス排出量の低いスニーカーやリサイクルできるランニングシューズを開発した、アシックスのサステナビリティ戦略についてお話いたします。

講座ダイジェスト


サステナビリティの世界的な流れ

現在、企業は経済活動のみならず、環境や社会への影響を考えることが求められています。また、損害を被る人だけが環境対策コストを負担するのではなく、影響を与えている者が負担する仕組みに変わってきています。さらに、経済活動に加えて、社会と環境を含めた全てを一体的に経営していく流れに変わってきており、企業活動を経済的側面、環境的側面、社会的側面3つの側面から評価する考え方をトリプルボトムラインと言います。実際に「良い企業」といわれる企業は、この三つをしっかりとバランスよく成長させています。今までは「やってもいい」と推奨されていたサステナビリティの取り組みは、「やらなければいけない」法令順守事項になりつつあります。




アシックスのサステナビリティの取り組み

アシックスのサステナビリティ経営は、創業哲学である「健全な身体に健全な精神があれかし(Anima Sana In Corpore Sano)」を表すブランド・スローガン「Sound Mind, Sound Body」を使命とし、環境への配慮に関しては循環型ビジネスへの転換を通じて気候変動対策に取り組むこと、人と社会への貢献に関してはサプライチェーンの人権を守ることを主な戦略としています。

また、私たちはスポーツを通じて人々を健康にする企業なので、気候変動がスポーツに与える影響をとても心配しています。イギリスBBCやその他のメディアの予測によると、このまま温暖化が進むと、例えばサッカーならば試合時間を短縮する、選手が体力を消耗しないよう、40人が自由に交代する、大きな世界大会に出るチーム数を減らして、選手の移動に伴うCO₂排出量を減らすといったことが起こるのでは…等と報告されています。



アシックスはスポーツができる環境を守るために、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする、気温上昇を1.5℃未満に抑えることを目指しています。また、温室効果ガスを削減するため、モノづくりにおけるLESS、CLEANER、LONGERの3施策を大切にしています。LESSは使用する資源や、廃棄物をできるだけ少なくする。最終的にはリサイクルする。また、使用する材料やエネルギーも削減していく。CLEANERは石油からクリーンな資源へのシフト。LONGERはできるだけお客様に長く使い続けていただける、耐久性の高い製品をお届けすることです。



温室効果ガス排出量が世界最少のスニーカー(*)の開発

この原則にのっとって実現したイノベーションの一つが、1足あたりのCO₂の排出量が1.95kg CO₂eと、世界最少のスニーカー「GEL-LYTE™ Ⅲ CM 1.95」を開発したことです。これは、アシックスの同カテゴリーの平均的な排出量の約4分の1以下です。パーツの多いシューズは、工程も使われる電力も多く、排出量を減らしにくいのですが、材料メーカーや工場と一緒に、安全性や機能性も確保しました。 (*2022 年 8 月にISO14067 規格に準拠してアシックスが実施し、SGS (Société Générale de Surveillance) Japan によって検証された計算に基づいています。)



このスニーカーは、排出量を削減するために全部で16の施策を実施しました。中でも大きく貢献したのは3点です。1点目はミッドソールの材料として、成長段階でCO2を吸収するサトウキビなどを原料とした「カーボン・ネガティブ・フォーム」を開発したこと。2点目は50ぐらいあったパーツを、約半分にしたこと。3点目は生産段階で靴工場のCO₂排出量を減らすために、ベトナムの工場に設置した太陽光パネルのエネルギーで生産したことです。

リサイクルできるランニングシューズ

一般的に、履き終わったシューズは素材の分離が難しいので、ほぼ焼却か埋め立て処分されています。アシックスは廃棄せずに、これを次の製品の何らかの材料としてリサイクルし、循環型にしていきたいと考えました。それを実現したのが「NIMBUS MIRAI™」で、最大の特徴はアシックスが初めて、アッパー部分をリサイクルポリエステルの単一素材にしたことです。ソールはまだ複数素材ですが、熱を加えたときに簡単にはがせる特殊な接着剤(グルー)を開発しました。また、靴ベロに付けたQRコードを読み込むと、使用後に回収の申し込みが簡単にできます。



製品のカーボンフットプリント表示

また、アシックスでは特定のシューズで、カーボンフットプリントを表示しています。パリ2024オリンピック・パラリンピック競技大会では、選手のウェアの温室効果ガス排出量を算出し、表示できました。海外では今後、カーボンフットプリントの表示が求められていく方向ですので、今後も続けたいと思います。




人権面でのサステナビリティ経営

人権も大切にしています。服のラベルに生産国が表示されていますが、その国で労働者の人権がしっかりと守られているかも、実はとても大切なことです。サプライチェーンの中で児童労働や強制労働がないか、労働環境は安全かが、人権尊重を見分けるポイントです。



2013年約10年前にバングラデシュで、縫製工場が入るビルが崩壊し、働いていた1,000人以上が亡くなる事故がありました。アシックスもシューズとアパレルの委託生産工場は、東南アジアが中心ですが、生産工場で働く人々の人権尊重を高い優先順位で順守しています。それを物語るのが外部評価です。例えばアシックスは、「強制労働」に特化した「Know the chain」という評価で、世界の平均以上の評価を獲得しています。



これまでお話ししたことは、例えば皆さんがTシャツを購買する時にも関係します。安いからという理由だけで、Tシャツを買うことの社会への影響を考えたことがありますか。ブランドが労働者の賃金や環境配慮にきちんと取り組むと、コストはかかるのです。そのTシャツを着ることで世の中が好転するという考えで、製品を選ぶ買い物も、ひとつの社会貢献だと思います。

ウェルビーイング─運動と心の関係の調査結果

アシックスでは2024年に、日本を含む22カ国、2万6,000人を超える人々を対象として「運動と心はどのように関係があるか」を調べて報告しました。より運動する人ほど「State of Mind(心の状態)」のスコアが高いことがわかっています。また、アクティブな人はエネルギッシュさや集中力、リラックス度など、いろいろな指標のスコアも高い結果が出ています。




1日にどのくらい運動したら、精神状態にポジティブな影響を与えられるのかを調べてみると、15分9秒でした。お昼休みに15分歩く、買い物で歩くことなどを習慣化すると、いろいろな心の状態も上がることがわかっています。ぜひトライしてみてください。

あなたが未来に向けてできること

SDGsのバッチは、カラフルで見た目もきれいですが、一つずつ誰かが解決に向けて動いていくことで、初めてきれいなものになります。そして一人ひとりが、SDGsの目標一覧に書かれている問題の原因にもなっている。そのような意識を持って、日々の生活を少し考えてほしいと思っています。





知らないうちに問題の加担者になっている場合もあるので「私の使っている製品は大丈夫か」と自らに問いかけて欲しいです。課題の原因の一つになるか、解決方法の一つになるかは皆さんのアンテナの張り次第、日々の行動次第だと思いますので、私も解決の一つになる生活を送り、未来の子どもたちに地球をしっかりとつないでいきたいと思います。


ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1「NIMBUS MIRAI™」を手に取ると、ものすごく軽くて、はき心地もいいと感じましたが、材料の調達やカーボンフットプリントの部分と、性能を両立させるため、やはり開発段階で苦労が多かったのでしょうか?
回答

GEL-NIMBUSシリーズは、アシックスの中でも非常に人気のあるランニングシューズの一つなので、環境面の試みは非常にチャレンジングでした。レジェンドアイテムで失敗することも機能性を落とすこともできないと考え、機能性は絶対に担保する前提で開発しています。その結果、アシックスの中で細かく設けている安全基準や機能基準を全てパスした上で、リサイクルできるランニングシューズを開発できました。

質問2サステナビリティのアイデアを考える方と、実際にそれを形にしていく方とのタッグが欠かせないと思うのですが、両者のミーティングのようなものが、定期的に開かれているのでしょうか?
回答

温室効果ガス排出量最少シューズのときは「CO₂排出量を究極的に減らした製品を作りたい」という声が、研究部門から上がり、サステナビリティ部門と協議して進めました。また、モノづくり部門やマーケティング部門も加わるなど、部門横断で開発しました。「NIMBUS MIRAI™」は「シューズがゴミになることを変えたい」という現場の熱意から生まれました。という声が現場から上がってきました。常に「サステナビリティは解決しなければいけない課題」と、話し合っていたことが大きく関係していると思います。

質問3ユーザー側が、環境活動に参画できるような取り組みはありますか?
回答

はい。アースデー期間の4月に、5㎞走る・歩くごとにアシックスが1本植樹する「Run for Reforestation Challenge」という取り組みを行っています。アシックスのフィットネス・トラッキング・アプリ「ASICS Runkeeper」と連動して、皆さんが歩いて健康、走って健康になればなるほど、CO₂を吸収する緑も増える取り組みです。