市民のための環境公開講座2024

市民のための環境公開講座は、市民の皆さまと共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。持続可能な社会を実現するためにダイナミックな変化が求められている中、さまざまな切り口から “ゆたかな” 暮らしを考えていきます。

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7/31 18:00 - 19:30

待ったなしの海洋ゴミ問題!ゴミ拾いを「自分ごと化」する新たな視点

東 真七水 氏 水中ゴミ拾い専門店Dr.blue 代表 PADIゴミ拾いダイビングインストラクター

深刻化する海洋ごみ問題の解決には「一人の百歩より百人の一歩」が大切です。東さんは世界屈指の海を持つ沖縄県でも、海底に多くのごみが存在する事実をダイバーとして発信し、海を守るアクションにつなげようと活動しています。一方で環境問題を「自分ごと化」するには、シリアスな側面だけでなく、ポジティブな発信も大切です。本講座ではみなさんが前向きに環境問題に取り組むきっかけになるよう、東さんが「楽しいごみ拾い」をモットーとする活動の中で気づいたごみ拾いの喜びや面白さについてお話しいただきます。

講座ダイジェスト


水中ごみ拾いを始めたきっかけ

私は沖縄で水中ごみ拾い専門店をやっています。水中ごみ拾いとはスキューバダイビングとごみ拾いを掛け合わせたものです。魚を見るのは二の次で、あえてごみがたくさんあるエリアにご案内しています。決してボランティアではなく、ダイビングの参加代金を必ずゲストからいただき、新しいマリンアクティビティとして広める活動をしていています。水中ごみ拾い自体は10年以上前からありますが、マリンアクティビティとしたのは世界初の取り組みだそうです。



始めたきっかけは沖縄でのダイビングに参加した時、本当の海の美しさを知ったことです。日常生活に戻ってからも「少しでも貢献できることがないか」と思うようになり、ビーチクリーンアクティビティに参加するようになりました。ごみ拾いの楽しさをSNSに投稿すると、一緒に参加する友だちが徐々に増えました。また、水中ごみ拾いはダイバーにしかできないためか、またたく間に活動が広がりました。そこでクラウドファンディングで集まった全国からの支援金を元手に開業したのです。





海洋ごみ問題の現状と課題

海洋プラスチックごみは年間800万トンといわれています。東京スカイツリー222個分、ジャンボジェット機5万機分に相当します。また、1分で約15トン捨てられているともいわれています。ダイバーが回収してきたごみを集計すると、トップ10の1位はプラスチック製の釣り糸で、トップ5もプラスチックごみばかりです。ビーチなどに漂着するごみの種類ランキングでも、1位はフィルターが半合成樹脂のたばこで、トップ10は全てが使い捨てプラスチックです。




海に入ったプラスチックは、少なくとも数世紀か1000年ほど海中を漂うといわれています。また、蓄積され続けると、2050年ごろにはごみの量が魚の量を超えるといわれます。毎年海に流入するプラスチックのうち、70%は海底に沈むといわれ、浮くプラスチックは海流に乗って世界中に広がります。私たちがビーチで目にするごみは、氷山の一角なのです。



プラスチックごみは2サイズに大別できます。大きさが数㎝~数十㎝ほどのマクロプラスチックと、それらが紫外線や摩耗などにより劣化して、細かく砕けることでできる大きさ5㎜以下のマイクロプラスチックです。このほかにも歯磨き粉や化粧品に用いられる5㎜以下のマイクロビーズなどもあり、それらも問題になっています。




無人島にも深海にもごみがある今では、海洋生物の食事にプラスチックが混入するようになってきました。大きなプラスチックはクジラ、ウミガメ、ウミドリなどが食べる傾向にありますが、消化管や胃がごみで破裂する、腸が閉塞するなどして生き物たちを死に追いやっています。マイクロプラスチックは貝類やサンゴ、プランクトン、小魚、カニなど、さまざまな生物が摂取しています。海の生き物の命をいただいている私たちもプラスチックを食べています。だいたい1週間で5g、ティースプーン1杯くらい。10日間でクレジットカード2枚分ほどといわれます。

生き物たちにとっては、釣り糸やロープ、漁網などが絡まることも死活問題です。漁網は霊のように海中を漂い、どんどん生き物の命を絡めとるので「ゴーストネット」と呼ばれています。また、ごみが海底生物のサンゴや海藻に覆いかぶさって物理的なダメージを与えたり、窒息させたりもします。さらに生息域の減少も招いています。

大切なのは海に入ってしまう前の対策

海に入ってしまったプラスチックを回収することは、ほぼ不可能です。ダイバーが回収できるといっても、行ける水深やポイント、滞在できる時間が限られています。ですからプラスチックが海に入る前に対策を講じることが大切です。



そもそも海洋ごみは陸から来ています。街中でポイ捨てされたごみ、カラスなどが荒らしたごみ袋などが雨や風に飛ばされて水路や川に入り、海にたどり着くのです。台風後に海に潜ると、いつもの何倍ものごみが散乱していて拾いきれないことがあるので「海と陸はつながっている」と思います。「海のごみは川から、川のごみは街から、街のごみは人の心から」と例えられるのもうなずけます。



私は一人ひとりが足元のごみを拾っていれば、海洋プラスチック問題は起きていなかったかもしれないと感じます。そのため「一人の百歩よりも百人の一歩」という考えを大切にしています。人類のみんなが1人1日1個ごみを拾えば、日本だけでも1億個以上のごみがなくなります。



それには環境問題に無関心な方を巻き込む必要があります。そういう面でも水中ごみ拾いはぴったりな活動です。ごみ拾い後の達成感はもちろん、水中に落ちているごみはすごく面白いです。40年50年前に流通していたものや、江戸時代の通貨である寛永通宝が見つかるなど、お宝探しのような要素があります。大物の持ち帰れないごみもありますが、魚の隠れ家的な役割をしていることもあるので、撮影スポットとしてお客様と訪れています。このように楽しみながら取り組んでいると人が勝手に集まってきてくれ、自然に継続できるようになるので、今後も「楽しい」を大事にしながら取り組んでいきたいと思っています。





自分ごと化する視点の大切さ

残念ながら環境問題を「自分ごと化」される方はめったにいないと思っています。そのような中で、例えばごみ拾いをしていることが有名な大谷翔平さんは、記者に「なぜごみを拾っているんですか」と聞かれた時に「ごみではないですよ。誰かが捨てた運を拾っているんです」と回答されたそうです。私も海のため、自分のためにごみ拾いをしています。そのように具体的な理由があると、継続しやすいと考えています。一方で私はごみ拾いを通じて、新しい友人ができました。ごみ拾いを通してつながった友人は本当にすてきな人ばかりです。振り返るとごみ拾いで人生も豊かになったと感じています。





Dr. blueでは1回きりのごみ拾いにならないよう、自分が回収してきたごみに自分で手を加えて、かわいい宝物などに生まれ変わらせるアップサイクル体験を始め、好評をいただいています。この取り組みのように、環境問題に興味のない人をいかに巻き込んでいくかが最も大切と考えています。今後も楽しいごみ拾いをモットーに、取り組みを続けていきたいと思っています。





ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1Dr. blueさんは、さらに新しいジャンルとコラボレーションしていくことをお考えでしょうか。

回答継続を大事なテーマにしていることもあり「ごみ拾いで新たなコミュニティや友人などと出会えると、趣味として楽しく参加してもらえるかも」と思っていますので、ノンダイバーも参加できるごみ拾いバーベキュー大会や、ごみ拾い街コンなども企画しています。

質問2回収したごみの処分はどうしていますか。

回答ケース・バイ・ケースで、アップサイクルできるものは素材にして活用しています。台風後など、処分するしかないごみがあまりにもたくさん出た時は、自治体や海によって設けられている管理事務所に問い合わせています。今まで一度も断られたことはありません。ただ、水中ごみと、ビーチのごみは扱いが違うことがあるので、きちんと説明することが大切と思っています。

質問3「百人の一歩」という言葉がすごく印象的でしたが「百人の一歩」のために、どのような工夫をされているのでしょうか。

回答模索中な部分も多いですが、私は「ごみ拾い×○○」を大切にしています。例えば水中ごみ拾いも「スキューバダイビング×ごみ拾い」で、陸でも水中でもごみ拾い経験のない方が、お宝目当てで来ていただいたりしています。例えば「ごみ拾い×マラソン」とすると、普段マラソンしている方が「なにか面白そうかも」と興味を持ってくれると思うので、ごみ拾い単体の魅力を伝えるだけではなく、いろいろな可能性をつくり、少しずつ参加者を増やしていきたいと思っています。