受講料:各パート1,000円(学生500円)・定員:250名・時間:18時半から20時15分(18時受付開始)

パート4・生物多様性

11月24日(火)

森との共生アニマルパスウェイ ―共生の具体化を目指して―

湊 秋作氏
キープやまねミュージアム館長

 環境対策には、自然と共生できる人間を育てる「環境教育」と、生物多様性を守る「環境保全」の2本柱があります。そのための鍵となるのは、「社会化」だと考えています。つまり、誰でもどこでも環境教育を受けることができ、誰でもどこでも環境保全に参画するということです。「共生」という美しい理念を、「具体的にどう実現するのか」が重要なことと考えます。

 環境省は、2007年に第三次生物多様性国家戦略が作成し、その中に「生態系ネットワーク形成の推進」が唱われています。これは、動物のための道をつくろうということです。動物たちが生きていくためには、移動、繁殖、休息、分散などをするための移動経路の確保が大変重要です。 私が研究しているヤマネを例にとって考えていきましょう。ヤマネは、体重18グラム程度のリスやネズミの仲間で、日本では、本州・四国・九州・隠岐島に棲息しています。森林性の動物で、生後2日で枝を捕まることができるようになり、樹上生活を送ります。樹木の枝が彼らの道です。枝を通って食べ物を探し、枝を通って巣を作り、枝を通って異性と出逢い交尾をして子孫を残します。もし枝が無かったら、木が無かったら、森が無かったら生きていけない動物なのです。

 1996年、私が現在活動拠点にしている清里で開発工事が行われ、ヤマネが生息する森が伐採されました。この工事で一部の森が孤立してしまい、そこ棲むヤマネが周りの森に行けなくなってしまったのです。私は山梨県に抗議の手紙を送り、協議していく中で、世界で初めての試みとして、分断した森と森を繋ぐための橋「ヤマネブリッジ」をつくることになりました。1998年に総工費2000万円をかけて完成したものの、貴重な税金を使って、もしヤマネがこの橋を利用してくれなかったらと考え、眠れない日々が続きました。そして1ヶ月後、無事ヤマネが利用したことが確認され、なんとここに巣まで作ってくれたのです。他にも、リスやヒメネズミたちも利用し、シジュウカラは巣箱でヒナを育て始めました。

 そこで私は、このヤマネブリッジをさらに改良し、誰もがどこにでも簡単に建設できて、しかもコストは安く、メンテナンスフリーで、尚かつ動物が通りやすいものが出来ないだろうかと考えました。つまり、ヤマネブリッジの社会化を目指したのです。そして、この提案に協力を申し出てくれたのが、大成建設と清水建設の2社でした。ヤマネのみならず、木の上を移動する全ての動物のために、2004年に「アニマルパスウェイ研究会」が発足しました。上記2社は建設設計の専門的な立場から、我々ニホンヤマネ保護研究グループは生物学的立場から、材料や構造などについて共同で研究するコラボレーションが実現しました。そして、日本経団連自然保護協議会がこの活動を支援するようになりました。その後、モニタリング実験などを経て、2007年に山梨県北杜市の市道にアニマルパスウェイを建設しました。総工費は200万円となり、10年前の1/10のコストダウンに成功しました。しかし、それでも貴重な税金に違いなく、動物たちが利用してくれるまでは不安な日々が続きました。しかし、設置から17日後にはヒメネズミが、18日後にはヤマネの利用が確認され、以後も、動物たちの利用が続いています。

 さらに、新たな協力者としてNTT東日本の参加が今年決定しました。NTT東日本の管轄である各地の電柱を利用して、アニマルパスウェイを拡大することを目指しています。そして来年名古屋で開かれるCOP10で、このアニマルパスウェイを紹介し、世界中で森を分断している道路や線路にこれを架けることを広めることを提唱したいと思っています。この取組が、環境共生技術のひとつの具体化例として、より多くの皆さんの理解を得られることを願っています。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦エコロジーオンライン