受講料:各パート1,000円(学生500円)・定員:250名・時間:18時半から20時15分(18時受付開始)

パート4・生物多様性

11月17日(火)

トキの野生復帰は自然と共生の目標

高野 毅氏
トキの野生復帰連絡協議会会長

 2008年9月25日、トキの第1回放鳥が行われ、27年ぶりに佐渡の大空にトキがはばたきました。さらに、先日2009年9月29日に第2回の放鳥を実施し、オス8羽、メス12羽の合計20羽が、佐渡の自然の中に飛び立っていきました。

 トキが暮らしていける佐渡の自然環境を支えるためには、個人の力では足りません。そこで、環境省が平成12年に立ち上げた「共生と循環の地域社会づくりモデル事業」を受け、私たちはトキが棲める島づくりのために、環境再生ビジョンの検討会を作り、一度は絶滅してしまったトキを中国から迎え入れ、地域の環境も再生していくという目標をたて、佐渡をどうするべきか考えてきました。その過程で、以下のような「協働を創造する仕組みと機能」という指針を策定しました。

  1. 協議会の設置と各主体間の連携
  2. 情報の収集と発信、交流・情報センター機能
  3. トキ博士、環境教育プログラムの実施(社会教育)
  4. 総合学習支援者ネットワーク(学校教育)
  5. 研究旅行の誘致と大学の連携(調査、研究)
  6. ボランティアの拡大(餌場、営巣他)
  7. 環境保全型農業の推進(農業)
  8. 地場産品の開発と販路の開拓(産品)
  9. トキツーリズムの推進(観光)
  10. トキ基金の普及(基金)
  11. 全国レベルの情報交流(全国交流)

 さらに、これらの活動拠点としてトキ交流会館が設立されました。この中で、トキの野性復帰連絡協議会も活動しています。活動情報の交換、スケジュールの共有、活動の相互協力、またエサ場づくり、ビオトープづくり、森づくりなどに、ボランティアグループ、集落グループ、NGO、大学関係者、生産者グループなどと連携して取り組んでいます。

 これらの活動を通じて、多くのボランティアの方達が関わっています。トキの野生復帰には長期的に行う必要があり、私たちはいつか世代交代しなければいけないので、次世代を担うリーダーの養成が必要不可欠です。そこで私たちは、各集落へ出かけ、それぞれの地域で培ってきた歴史・風習・伝統などを、その地域のお年寄りから教えてもらう活動や、集落座談会、水生生物調査、小中学校のトキを軸とした修学旅行、体験学習、などを積極的に行っています。

 また、トキが安心して暮らせる環境を整えるために、不耕起栽培、除草剤を使わない農法、抑草栽培などの環境保全型農業を普及し、雑木林の管理・里山づくりによる営巣環境の整備などを地域ぐるみで進めています。また、トキの最新情報をメール配信する「佐渡トキファンクラブ」の会員募集、生きものを育む農法で作られた「朱鷺と暮らす郷づくり認証米」の販売など、サポーターを増やす仕組みづくりも行っています。

 私は現在66歳ですが、子供の頃を振返ってみると、今のように豊かではなかったかもしれませんが、もっと余裕のある豊かな自然と社会環境があったように思われます。今から当時の社会環境に戻すことは難しいですが、私たちがこれからもさらに豊かで快適な生活を求めるなら、社会環境は破綻してしまうでしょう。27年前まで私たちと暮らしていたトキが、その破綻に先に直面してしまったのです。トキが野性に復帰できるように、私たちがしなければいけないことは、人間とその他の生きものが共生するための環境整備と方向性をも示しているのではないでしょうか。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦エコロジーオンライン