受講料:各パート1,000円(学生500円)・定員:250名・時間:18時半から20時15分(18時受付開始)

パート1・危機をのりきる逆転の発想

7月14日(火)

オバマ米大統領のグリーンニューディール政策

ロバート F. セキュータ氏
米国大使館経済担当公使

(スピーチ抜粋)
 「グリーンニューディール政策」の概念は、環境科学から保健医療、経済、貿易、エネルギー、安全保障など様々な分野にまたがるものです。またこの概念は、気候変動の問題がグローバルな規模の脅威であり、また重要なことは、それが同時に地域レベル、国家レベルのものでもあるということを認識しているのです。それは、米国、日本、中国、インドネシア、あるいはその他の国々が、いかにこの気候変動の問題に取り組むかは、世界中の人々の日々の生活に直接影響を与えるということなのです。

 米国のグリーン経済、或いはグリーンニューディール政策の考え方や構築について話をする前に、4つの基本的なポイントを述べたいと思います。まず1点目は、気候変動についての科学的研究はもはや疑う余地がなく、我々は早急な対応が求められているということです。これはオバマ大統領はじめ、先週行われたラクイラサミットに集まった16の国の首脳からも明快に繰り返し述べられました。2点目は、米国はこの問題について全面的に関与しており、主導的役割を担う用意があり、国内外でこれまでに失われた時間を取り戻す決意があるということです。3点目は、先進国、途上国に係らず世界の主要経済国は、12月にコペンハーゲンで行われる国連気候変動枠組条約交渉に向けて、ともに成功を目指す特別な責任があるということです。そして4点目として、全ての主要経済国はこの取り組みが前進するために意義ある提案を策定するにあたり協力する必要があり、気候変動の課題を克服するため、新たな政策や技術革新を求められているということです。これは政府だけの問題ではなく、それを実現するために、研究機関や企業、大学、そして起業家、金融関係者、その他の人々がとる行動が市場に持ち込まれ、推進されるべきものなのです。

 次に米国での具体的な展開についてですが、2月に成立した米国復興再投資法案には、600億ドル以上のクリーンエネルギーへの投資が盛り込まれ、また米国政府は、向こう10年間に1500億ドルをエネルギーの研究に投資しようと考えています。その中の具体的ステップとしては、効率的で安全性・信頼性の高い送電システムを作り上げる「スマートグリッド投資プログラム」に110億ドル、低所得世帯の住宅の断熱効果の改善に50億ドル、連邦政府の建物のエネルギー効率化、グリーンジョブの職業訓練プログラムに6億ドル、次世代バッテリーの開発に20億ドルなどの項目があります。またこのグリーン経済に向けた動きの一部は、燃費の向上あるいは排ガス規制に対する新たな規準、冷蔵庫をはじめとした家電に対してより積極的に効率性を求める規準の策定にまで及んでいます。さらには2050年までの国家目標として、二酸化炭素汚染に対して上限を設けることを提案し、6月26日の下院において包括的気候変動対策法案が承認されました。この法案は米国における総排出量に上限を設けることを2012年から始めるというものです。しかもその上限は毎年下げられ、2050年には2005年比80%削減という長期目標を掲げており、それを達成するための中期目標として2020年に2005年比で17%削減するというものです。また排出量取引の創設についてもこの中で唱われており、今これらは上院において審議されることになっています。

 米国や他のある一国がどんなにこうした動きを押し進めようとも、不可欠なのは国際的な理解と協力であり、それは自動的に起こるものではありません。育て、強化し、奨励しなければなりません。ですから米国はあらゆる努力を払ってコペンハーゲンでの合意に到達したいと思っています。キーポイントとなるのは、グリーン経済を構築していくことこそが我々に繁栄をもたらし、自然環境を畏敬し保護することに繋がるということです。そのための4つのポイントをまとめたいと思います。

 まず1点目は、科学は確定的な結論を出したということです。氷床は縮小を、海面は上昇を、海水は酸性化を続け、気候変動の証拠と影響は年々劇的なものになっています。私達は今行動を起こさなければならないのです。2点目は、私達はエネルギーの消費パターンについて包括的な見直しを行い、効率化を進め無駄を無くさなければなりません。そして、これが米国のエネルギー戦略の主要な柱です。米国や世界の他の国々は、このエネルギーの効率化について日本から学ぶべきことが多いと思います。3点目は、世界的な気候変動による最悪の影響を避けるために必要な低炭素経済に辿り着くには、いくつもの新しい技術開発や行動が必要であるということです。そして最後に4点目として、低炭素経済を目指すということは、継続的な努力が求められ、しかもそれは一部に留まるものであってはならないということです。私達は、仕事、買い物、旅行、暮らしのあり方を変えていかなければなりません。それは先進国にとっても難しいことではありますが、先進国では当たり前となっている豊かな生活を長年追い求めてきた途上国にとってはさらに難しいことなのです。

 低炭素経済への変革は、他のいかなる変革同様、困難を伴うでしょう。しかしそれは新たな革新と投資をもたらしうるのです。それは人々の生活を向上させ、新たな雇用を生み出し、新しい活力の源泉となるものです。現在不可能だと思われているものであっても、私の息子スティーブンやその13歳の友人たちにとっては、数年のうちに当然のことになっているのかもしれないのです。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦エコロジーオンライン