受講料:各パート1,000円(学生500円)・定員:250名・時間:18時半から20時15分(18時受付開始)

パート3・くらしと環境

10月13日(火)

お買い物で自分を変える、世界を変える

竹広 隆一氏
第3世界ショップ事務局長

 多くの人々が仕事として、所属する職場などではモノやサービスを生み出していますが、その人々も家に帰れば消費者になります。つまり、我々は職場で生産し、家庭で消費するというように、同時に2つの立場を生きているのです。それぞれの立場で思いが食い違うように感じることも多いのではないでしょうか。職場では会社の論理や役割分担などに縛られ、なかなか自分の思う通りにはいきませんが、個人でお買い物をする場合には、かなり自由度が高くなります。私たちは、このような自由な消費者の力が積み重なり、世の中を変えていくパワーになると考え、買う側の立場から問題解決の仕組みを提案していく仕事を始めました。昨今は、家計を守るために少しでも安く買う傾向が強い時代ではありますが、それでも「これだけは例外」「これだけは妥協できない」というものが多くの人々にあるのではないでしょうか。買い物には、徹底的に無駄を省く方法と、価格は度外視してもそこに認められる価値があれば金額は問わない方法があります。もちろん、後者でも金額の上限はあると思いますが、私たちはこのようなお買い物によって大きな充足感を得て、心のバランスをとろうとしているのではないでしょうか。職業人としては制約が多くてなかなかできないお金の使い方も、個人の生活では色々と変えていけることがあると私は考えています。

 第3世界ショップは、このようなお買い物の潜在的影響力に着目し、社会の諸問題の解決のために取組んでいます。例えば、ペルーのコチャパンパ村では、コーヒー豆栽培にインフラ整備の段階から関わり、商品化しました。この地域はコーヒー豆生産くらいしか主要産業がありません。また、コーヒー豆は国際相場に大きく左右される商品で、平原があるブラジルなどの国では大規模栽培が可能ですが、山岳地帯のコチャパンパでは不可能です。そこで、土着の世界観や環境と矛盾しない有機栽培の手法を確立し、慣行栽培とは全く異なる“生産者の顔が見える”豆づくりを行ってきました。それにより、既存の流通体系から脱却し、独自のビジネスを目指しました。またフィリピンでは、コゴン草というイネ科の雑草を使った手漉き紙作りに成功しました。コゴン草は半年で5mも成長する繁殖力の強い植物で、畑を荒らすため、現地では農民の敵と考えられてきました。コゴン草を産業に育て、さらには新たな雇用を創出し、地域社会が元気になるよう応援しています。また、スリランカの伝統的食材であるクラッカンという雑穀を使い、クラッカンバーという固形食品の製造を行っています。これにより、スリランカの農民を応援するとともに、製造に日本国内の稼働率の低い食品工場を利用することで、その地域の雇用の促進と、そこから新しい食が生まれるという地域の新しい魅力を発信しています。

 市場経済では、大量生産・大量消費を前提とし、効率化・ハイテク化・グローバル化のために製品を規格化して競争力を高め、いかに利益を確保するかということが重視されています。それに対し、私たちは少量生産でも地域の文化を大切にしながら、市場経済に立ち向かっていく道はないのかということを追求し、ローテク・ローカル・個性・規格外の商品に行き着きました。これらの要素に共感してくださる人の輪を広めるのために事業に取組んでいます。産業革命以後、市場経済ばかりが重視される価値観が私たちの世界を席巻してきました。しかし、本来は市場経済の対極となるローカル・スロー・多様性などの価値観も車の両輪としてバランス良く回っていかなければ、文明は発展していかないのではないでしょうか。私たちが日ごろのお買い物の仕方でどんな風に心のバランスを保っているかを思い出してみてください。暮らしの中で何か気づくことがあれば、そのような視点を持ってお買い物について考えてみていただきたいと思います。製造責任だけでなく買う側の責任が問われるのが、これからの時代なのです。「選ぶ」という買い方の積み重ねが、明日の私たちの暮らしを決定していくのです。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦エコロジーオンライン