受講料:各パート1,000円(学生500円)・定員:250名・時間:18時半から20時15分(18時受付開始)

パート3・くらしと環境

10月6日(火)

築地市場から“すし種”を通して考える環境問題

粟竹 俊夫氏
特定非営利活動法人築地魚市場銀鱗会理事長 株式会社神奈辰代表取締役社長

 築地市場で働き始めて37年が経ちますが、この間に市場は大きく変化してきました。特に、地下鉄大江戸線が開通し、築地市場駅ができたお陰で、界隈のお寿司屋さんは活況を呈しています。築地周辺には100軒近くものお寿司屋さんがあります。日本人はやはりお寿司が好きなのだということをつくづく感じます。

 いま人気の「すし」ですが、これは奈良時代に東南アジアから日本に伝わった「なれずし」がその起源だといわれ、これに近いものが琵琶湖の「ふなずし」です。今日のような握りずしは、江戸時代の終わりごろに完成したといわれています。つまりこれは、酢飯の握り飯の上に魚介類を乗せたものです。当時は江戸前の魚介類を使っていました。この江戸前とは、江戸城の前のことを指した訳ですが、いまは、広く東京湾の内湾を江戸前と呼んでいます。今日の江戸前ずしは、江戸前でとれた魚介類を使った握りずしのことで、これが全国に広がっていきました。

当時のすし種は、江戸前の海で獲れたものでしたが、その後、冷蔵庫や物流の発達により、全国各地、さらには世界中からすし種が集まるようになりました。日本中はおろか世界中から集まるようになったすし種ですが、なかには絶滅したものもあります。それは江戸前のシラウオとハマグリです。これは昭和30年代の東京湾沿岸の埋め立てや汚染が原因だといわれています。最近では、アクアラインの影響も否めないでしょう。江戸前ずしに欠くことのできないマアナゴも、東京湾沿岸だけでなく、日本産のものが減ってきており、韓国や中国から輸入されています。このように、すし種から環境問題や流通などの社会の変化も垣間見ることができます。

 ところで、江戸から明治にかけて、すし種の種類にはあまり変化がありませんでした。さらに昭和初期までは生ではなく加熱したり、酢で〆たものがほとんどでしたが、いまでは生で食べるものが主流です。

私は築地市場で仲卸業者として働いています。ある大手スーパーが、去年から直接魚を買い付けて販売する試みを始めました。このニュースを取り上げたあるマスコミが、魚市場は不要ではないかという指摘をしていましたが、果たして本当にそうでしょうか。「仲卸」とは、目利きをしながら小分けをし、お寿司屋さんや料理屋さんなどに分配する仕事です。言い換えれば、品物を評価し、捌いているのです。また、市場は基本的に現金決済で、業者さんたちに対して3日、遅くとも15日以内にはお金を支払っています。このように、経済的な点からも、業者さん達を支えていくことができるという強みもあります。

 「食」という字は、「人」を「良くする」と書きます。つまり、「食文化」とは「人を良くする文化」のことです。そもそも我が国は、海に囲まれた水産資源国ですから、魚を愛し食べるのが当たり前なのです。ところが、数年前から肉の消費量が魚の消費量を上回ったということです。生産者と消費者の間に立つ私たちは、何をどう選んで食べればいいのか、ということだけではありません。流通はいかにあるべきか、豊かな海や水産資源をどのように守り、育てるのか、などについても責任のある立場であることを十分に意識しながら、誇りと責任を持ち、日々努力をしています。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦エコロジーオンライン