受講料:各パート1,000円(学生500円)・定員:250名・時間:18時半から20時15分(18時受付開始)

パート2・世界の環境最新事情

9月15日(火)

COP15に向けた攻防/各国の政策決定過程の違いから見る

竹内 敬二 氏
朝日新聞編集委員

 先週の9月7日、朝日新聞が主催する「朝日地球環境フォーラム2009」において、民主党の鳩山代表(9月16日付で首相就任)は、日本の2020年までの温室効果ガス排出量を、1990年比で25%削減を目指すことを新政権の方針として明言しました。この意欲的な中期目標は、日本のイメージを大きく変え、国際的にも歓迎されました。現在停滞している日本社会の温暖化政策、すなわち社会構造を変える契機になることが期待されます。日本はこれまで国際交渉で「言い訳主張」ばかりしてきましたが、今回の宣言は、日本の攻めの姿勢を印象づけ、地位を上げることにも繋がっていくでしょう。しかし、歓迎されている期間は僅かです。現在は、いわば「25%減」へのご祝儀相場が続いているようなもので、この旗が輝き続けることができるか否かは今後の日本の行動次第です。日本が目標に向かって削減を実行していくためには、新しい政策をつくり、それらが多くの人々から支持される状況をつくる必要があります。それができれば、民主党の国内的な評判も、日本の国際的な地位も高く維持することができるでしょう。

 国内での政策を進めるために重要なのは経済界、とりわけ日本経済団体連合会(以後「経団連」と表記)との協調です。経団連は、自主行動計画に基づいてCO2削減に取組んできましたが、これを改めなければならない時期に直面しています。経団連は先の総選挙の際、民主党が打ち出した「25%減」にどのような態度で臨むかで、大きく揺れていました。アメリカがブッシュ政権時代に京都議定書を離脱して以来、経団連はこれに同調し、温暖化対策について後ろ向きになり過ぎたのではないかと思いますが、新たな目標が掲げられた今、これをきっかけとして、経済界も変わる必要があるのです。

 アメリカではオバマ政権によって、再生可能エネルギーを重視するグリーンニューディール政策が進んでいます。現在世界各国が特に積極的に取組んでいるのが風力発電ですが、アメリカはその新規導入量において08年に世界のトップとなり、太陽光発電の新規導入量でも日本を上回りました。いまやアメリカは自然エネルギーの最大マーケットとして注目されています。アメリカの国際交渉における消極的な面だけを見ていると、この国の認識を誤ってしまうでしょう。一方、EUは90年代から常に高いCO2削減目標を設定し、それを世界標準化することで世界の環境市場で優位に戦ってきました。EU内外のどこかの国が、新しい環境政策や制度を発案すると、それをEU指令に取り入れ、数年後にはそれをEU標準とすることを目指しています。この過程で、まずEU内で議論が行われているので、EUはいわば国際交渉のミニ版をすでに経験しているのが強味にもなっています。日本は国際会議で出された提案を、国内に持ち帰って検討する側に回ってしまう傾向にあります。

 私は、これからは協調と競争が両立する時代だと考えています。協調とは、みんなで「温暖化を防ごう」という目標を決めて、実現していくことです。この協調が同時に、環境技術の国際市場を爆発的に拡大することにもなります。その環境市場を、どの国が、どの企業が取るかという激しい競争がこれから始まるのです。この協調と競争は、コインの表裏のようなものであり、日本はこの競争に勝っていかなくてはなりません。そのためには、環境制約時代をいち早く受け入れ、政策化し、技術を引き出せる国になる必要があります。プリウスは97年に誕生し、今や販売台数200万台を突破しました。京都議定書がもたらしたCO2制約時代をいち早くビジネスに活かしたからです。このように、技術を育て、国内市場で強く安くして、早く国際市場で戦えるようにした国が、新しい環境時代に勝っていくのではないでしょうか。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦エコロジーオンライン