【受講料】
各パート(全3回)1,500円(学生 1,000円)
【定   員】
250名
【時   間】
18:30〜20:15(受付開始 17:45)
【場   所】
損保ジャパン本社ビル2F大会議室講座開催場所地図

パート3五感で感じる 自然・文化10月7・21・28日(火)

11月11日

埼玉県小川町発 食・エネルギー自給循環型のまちづくり

金子 美登 氏  霜里農場 代表

国を木に例えるならば、地上にある枝・花・実に相当するのが都市や工業で、土の下の根に当たるのが農村や農業だというのが私の農業観です。先進国と言われる国は、どこもこの根の部分を重要視していると言われますが、日本の穀物自給率は175ヶ国中125位です(2003年、農林水産省「食料需給表」より)。そんな根のない「切り花国家」の日本は、このままでは枯れざるを得ないのではないかと私は考えています。

1973年の石油ショックは、かつてローマクラブが警告した「成長の限界」を実感させ、やがて行き詰まる「工業化社会」から永続循環する「農的世界の幕開け」を私に意識させました。そして、私は国内に豊富に存在する草、森、水、土、太陽などの農的資源を徹底的に活かして、食とエネルギーを自給する社会を作る生き方を選択しました。

農業を始めた時、私は「人が羨むくらい豊かに自給する有機農業を徹底してやろう」と決めました。日本の農民の歴史を振り返ると、江戸時代は農民の作った米の8割を幕府に持っていかれ、明治以降も戦前の地主制度がなくなるまでは地主に半分くらい取られるというものでした。そして戦後は金儲けのための農業が横行し、豊かに自給する農業は日本にこれまでなかったのです。私は、まずこの豊かに自給する農業を実現し、その延長線上で消費者と繋がっていこうと考え、取組んできました。その過程で特に印象深かったのは100年に1回とも言われる1993年の冷害です。米の作況指数が平均70%を記録しました。私達の田んぼでも米が3割減収してしまいました。しかしその分、米収穫後の空いた田んぼで小麦、畑ではジャガイモ・サツマイモを栽培することで、提携していた10軒の消費者にも安定した食料供給をすることができました。これは土地の力を豊かにする有機農業だからできたことです。この経験は、私にとって有機農業による自給力の安定性に確かな自身を持つきっかけとなりました。その後、2006年に議員立法で有機農業推進法が成立しました。これは日本の農政が180度変わる可能性を秘めた法律で、国および自治体に有機農業を推進する責務を課したのです。そして、35年間農業の異端児的な立場にいた私達に光を当ててくれました。翌2007年には、有機農業推進基本方針がうち立てられ、2011年までの5年を有機農業推進第1期とすることが定められました。それに伴い、私が代表を務めるNPO法人全国有機農業推進協議会には、この期間中に国民の半数以上が有機農業を理解するための普及啓発活動をするという使命を与えられ、尽力しています。

30年以上前に私が有機農業を始めた頃は、「有機農業は理想でしかない」という声をよく聞かされました。しかし、現在の私達の状況を見ると、有機農業だからほどほどに食べていけているのではないかと感じています。燃料や資材など、農業に必要な全てのコストが上がっている中で、私達は化学肥料の代わりに身近な資源を使い、土や太陽の力を活かし、農薬を使わないためのあらゆる工夫をしています。種もなるべく自給します。消費者と直接やりとりする方法を取っており、市場にも出さないため2〜2.5割という手数料も取られません。消費者とはきちんとコミュニケーションをとれば多少不格好な作物でも買ってもらえるので捨てるものがありません。家畜の糞尿、生ゴミを活用し、そこから発生するメタンガスで家庭用のガスを賄うなど、自然エネルギーの活用にも取組み、石油にも依存していません。そんな有機農業を、私は「少利大安」だと思っています。大きな利益を求めるあまり、「安心・安全」が蔑ろにされる事件が相次ぐ現代において、大地に根を下ろした「少利大安」の生き方は、21世紀における人間の一つの在り方ではないでしょうか。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン