【受講料】
各パート(全3回)1,500円(学生 1,000円)
【定   員】
250名
【時   間】
18:30〜20:15(受付開始 17:45)
【場   所】
損保ジャパン本社ビル2F大会議室講座開催場所地図

パート3五感で感じる 自然・文化10月7・21・28日(火)

11月4日

食育のすすめ 〜大切なものを失った日本人〜

服部 幸應 氏  服部栄養専門学校 校長・医学博士

「食育」には3つの柱があります。1つ目は「安全な食べ物を選ぶ能力」を養うことです。「安心・安全・健康」は今みなさんが最も気にかけていることだと思いますが、私達は近年の食の問題を17年位前から予想し、取組んできました。2つ目は「衣食住の伝承」です。みなさんも、自分達の世代が受け継いできた衣食住の文化が今や途絶えてしまったと感じることはないでしょうか。例えば、箸を上手に使えない人が非常に増えています。40歳位から下の世代で若いほど多いようです。つまり家庭で躾けられてこなかったのです。子供が小さい頃、いいことはきちんと誉め、悪いことをきちんと叱ることができない親が増えています。叱らずにただ誉めるだけ、或いは逆にただ痛めつけるだけ…そんな親が多くなり、衣食住の伝承とは程遠くなってしまいました。3つ目は「食料問題」への対処です。欧米には学校教育で「安全保障」の授業があり、その中でエネルギー問題や食料問題について教えています。45年前、フランスのドゴール大統領が「食料自給率が100%未満の国は、独立国とは言えない」と言いましたが、安全保障とは軍事的なことばかりではなく、自国でどれほど食料を賄えるかということも含まれるのです。

現在、ハンバーガーショップのアルバイトが時給800円くらいですが、一方で稲作農家の方の収入を時給で算出すると256円になってしまいます。このような状況で若い人達が就農したいと思うでしょうか。これで自給率が上がる訳がありません。食料自給率が40%を切ってしまうと国家として危ないと言われています。みなさんには、日本の安全保障のためにも、消費者として明日からでも地産池消を心掛けて頂きたいと思います。

「衣食住の伝承」が切れてしまっているということには現在の日本の色々な問題が集約されていると考えています。子供の年齢、発達段階に応じて親が教えるべきことがあるのです。食育基本法の中でも、特に3〜8歳は最も大事な期間だとしています。人間は8歳までに躾をする必要があるのです。私達は1日3食、年間で1095回の食事をしています。かつて、子供達はそのうち約800回を家族の誰かと食べていました。ところが、統計によると、現在はこれが300回に減っています。これを3〜8歳の6年間を通して見ると約3000回も少ないということになります。両親とも仕事を持つようになったことなど、様々な事情があるかもしれませんが、食卓で人間の一般常識の80%が養われると言われます。箸の持ち方が間違っている、姿勢が悪い、人前でゲップをするのは行儀が悪い、体のためにニンジン食べなさい…等などこういったことを教える親がいなくなってきているのです。また、ただでさえ少なくなった家庭での食事で、テレビをつけたまま食べる家庭が非常に多いのも日本の特徴です。食事中にテレビをつけている家庭は68%、つけたり消したりする家庭が28%で、合計96%にも上ります。欧米では合計しても32%で、その殆どは下層階級の家庭です。

私は「早寝早起き朝ご飯運動」全国協議会の副会長も務めていますが、なぜこんな運動をしているのかというと、日本の子供が非常に「遅寝遅起き」だからです。小学校全学年の就寝時間全国平均は、アメリカが8時20分なのに対し、日本は10時45分です。こんな生活で子供がまとも育つでしょうか。

このような環境で育った子供達の内面を知る指標として、先生に対する尊敬度というデータを紹介しましょう。欧米や中国が概ね80%強、韓国に至っては86.9%の子供が「先生を尊敬している」と答えている一方で、日本では僅か21%です。私も教壇に立つ身ですが、授業中は無反応で、成人式では大騒ぎをし、果ては青少年の凶悪犯罪が急増しています。

昔は「お里が知れるよ」という言葉がありました。非常識な振る舞いをすると「親の顔が見てみたい」というものです。3〜8歳という大事な時期に、子供の躾をせず、テレビに夢中で子供の顔色の違いにも気づかないような親ばかりの国では、率直に言ってもうダメだと思います。私は様々な動物の生態について研究しているのですが、全ての動物の親に共通する役目とは「子供を独り立ちさせること」です。250年前まで日本には学校はありませんでした。しかし、社会を切り開く偉人達がたくさん登場しました。一般常識さえしっかりしていれば、人間はいくらでも伸びるのです。その一般常識を育む大切な食卓の時間について今一度考えてみて下さい。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン