【受講料】
各パート(全3回)1,500円(学生 1,000円)
【定   員】
250名
【時   間】
18:30〜20:15(受付開始 17:45)
【場   所】
損保ジャパン本社ビル2F大会議室講座開催場所地図

パート3五感で感じる 自然・文化10月7・21・28日(火)

10月28日

ガイアの叡智、自然治癒力

龍村 仁 氏  映画「地球交響曲(ガイアシンフォニー)」監督

『ガイア理論』とは、イギリスの生物物理学者であり地球物理学者であるジェームズ・ラブロックが、「地球は単なる物質的惑星ではなく、この惑星自体がひとつの大きな生命体である」ということを科学的に説明した理論です。私が1989年頃に現在の「地球交響曲」という映画を作りたいと思っていた時期に、出会ったのがこのガイア理論であり、「地球に生かされている」という私が以前から持ち続けていた感覚を科学的回路で説明する姿勢に、私は勇気を得ました。

私は伝統的旧家の生まれで、祖父母・父母・9人兄弟という大家族の中で育ちました。家庭そのものが社会の様相を呈し、いつもどこかで複雑な人間関係から逃れ1人になりたいという想いがありました。誰にも見つからない屋根の一角で日なたぼっこをするのが大好きでした。ポカポカとした太陽が自分に当たり、人間関係の緊張とは全く違う大きな回路で自分が見守られ、生かされているという感覚を持ちました。もちろん、当時はそこまで理論立てて考えていたわけではありませんが、その心地良さは、何か目に見えない大きな繋がりの中に生かされているという実感を生んだのだと思います。このようにして、私はガイア理論と同じものを自分自身の生命の根本として感じていました。

「地球交響曲第一番」は1989年に撮影を開始し、1991年に完成しました。しかし、上映してくれる映画館が無く、人々に観て貰えるようになったのは1992年になってからです。最終的に、上映が実現したのは、「前売り券を3000枚買い取ったら上映する」というある映画館の提案を受け入れたためです。売り捌くのは不可能だと思い込んでいた3000枚のチケットも、それまでの自分のこだわりやプライドを捨て、様々な人にお願いして回り、完売することができました。

困難な時期に、今までの常識に捉われて動いても、前に進みません。生き物にとっては、危機的状況に遭遇した時に、それを大きなエネルギーに転換して次のステップにシフトするか、その流れに落ち込んで壊滅するかの二択なのです。つまり危機的状況は、何を大切だと思い、何を捨て何を取るのかを問われる時期であり、必ずしもネガティブな要因ではないということです。この考え方は、環境問題を考える上でも重要なことだと思います。

「地球交響曲第一番」の出演者も皆そのことを言っています。例えば、植物学者の野澤重雄さんは、一粒のトマトの種から遺伝子操作も化学肥料も使わずに15,000個のトマトが実る巨木を育てました。彼はそのことについて、「トマト自身の心と判断力でそうなった」と説明しています。一般的にトマトは60個も実ればいい方だと言われますが、野澤さんのトマトは、与えられた環境からトマト自身が判断し、「これくらいの量やサイクルがいい」という生き方を選んでいるだけで、絶対普遍のトマトの姿ではありません。環境条件を変えてあげれば、そのトマトには別の判断が生まれるのです。人間はそれをサポートすることはできても、コントロールすることはできないというのが野澤さんの結論でした。

ある事象について科学的に判明したとされる場合も、それが最終的な結論ではないのです。科学的な回路で一つのことを理解した時に、その先に人知を超えた生命の仕組みが膨大に積み重なっているということを知るのが本当の科学ではないでしょうか。その時人間は、「理解しきれないけれども存在しているもの」に対して畏怖し、謙虚にならざるを得ません。すると自分は生かされているという感覚が自分の中に蘇り、何を捨て何を取ればいいかという選択を迫られた時、判断する力が養われます。危機的状況でも生命システムを変えて乗越えていく能力を我々は持っています。それが、「ガイアの叡智、自然治癒力」なのです。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン