【受講料】
各パート(全3回)1,500円(学生 1,000円)
【定   員】
250名
【時   間】
18:30〜20:15(受付開始 17:45)
【場   所】
損保ジャパン本社ビル2F大会議室講座開催場所地図

パート3五感で感じる 自然・文化10月7・21・28日(火)

10月21日

景観から観た日本の心

涌井 雅之氏  造園家・桐蔭横浜大学医用工学部特任教授・中部大学応用生物学部教授

世界を混乱に陥れている世界恐慌について、私は人類にとって第3の革命となる「環境革命」がおこる前兆だと考えています。今日の人口増加率と生物多様性の滅失速度がパラレルの関係になっていることは、我々がどこかで間違いを犯してきたことを示唆しているのではないでしょうか。地球を直径1mの球体とした場合、生物の生存圏はわずか1mmの薄い膜に過ぎません。しかしその膜こそが38億年かけて生物の多様性を織りなしてきたものであり、その生物多様性が滅失してきたということは、我々の生存基盤が危うくなってきたということに他ならないのです。

人類にとって第2の革命、即ち「産業革命」はどのような考え方をベースとしていたのでしょうか。デカルトは、「もはや自然と人間の議論ではなく、自然か人間かの議論である」という言葉を残しています。この時代から人類は、自然を資源として見切り、いかに財貨として利用するかという観点に拠っていくようになります。かつて人類にとって自然とは神であり、自分達の生存を支配するものでした。しかし約1万1000年前、最初の革命である「農業革命」が起きた時、生存環境そのものだった自然が経済機能の側面を持つようになります。次第に「農業的な自然」が「自然」から切り離されていき、産業革命に至ると「自然」は開発の対象でしかなくなりました。こうして完全に自然と人間は切り離されたのです。その結果、都市的自然あるいは農的自然のみを景観の対象としたランドスケープが生じていきました。

次に訪れる「環境革命」は、社会資本のあり方を大きく転換するものとなるだろうと私は考えています。世界の都市が現在目指しているのは、「持続可能な開発 “Sustainable Development”」です。「環境」を、自然・経済・社会を包括したものとして捉えた時、”Sustainability”とは、「自然」だけの豊かさではなく、「経済開発」そして「コミュニティー」が三位一体で活性化しなければならないと考えられています。こうした考えに基づいた「生態環境都市」づくりの好例として、ドイツのシュツットガルトでは郊外から風を呼込むために、舗装道路の改修をしています。シンガポールでは街づくりのコンセプトを”Garden City”から”City in the Garden”にシフトし、大きなスケールで都市の価値を高めようとしています。韓国では、かつて河川に用地を求めて建設した高速道路を取り壊し、王朝以来ソウル市民に親しまれてきた清渓川を再生しました。その後、国際会議の開催件数はソウルが東京を上回るようになりました。パリでは自転車ステーションを300mに1ヶ所設置するなどの取組みにより、自動車社会からの脱却に成功しつつあります。世界は明らかに安全・安心で環境に配慮したまちづくりを指向しており、これが国際競争力のある都市の評価へとつながり、結果として金融資本が流れ込む仕組みへと変わりつつあります。

私達が「まち」に求めるものとは何でしょうか。自動車が優先的に走り回り、老人が事故を心配しながら歩かなくてはならないまちではなく、市民一人一人が四季折々の自然を楽しみ、ゆったりと歩けるのが本当のまちではないでしょうか。景観とは、文明と文化、自然と人間社会のありようを視覚的に表現した地域遺伝子なのです。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン