【受講料】
各パート(全3回)1,500円(学生 1,000円)
【定   員】
250名
【時   間】
18:30〜20:15(受付開始 17:45)
【場   所】
損保ジャパン本社ビル2F大会議室講座開催場所地図

パート2次世代へつなぐ 生物多様性9月2・16・30日(火)

9月2日

「いきものにぎわい」そして「SATOYAMA」を考える

渡邉 綱男 氏  環境省 自然環境局 自然環境計画課長

私が子供時代を過ごした約50年前の世田谷周辺は、まだ豊かな自然に囲まれていました。3歳の頃、オニヤンマに手を伸ばした時の胸の高まり、羽根に触れた瞬間の衝撃は現在もハッキリと覚えています。しかし、私達世代が親しんできたこれらの身近な自然はどんどん失われていきました。明治維新以降、とりわけ戦後50年の間に日本の経済はめざましく発展を遂げてきましたが、その一方で風景は変貌し、生物も減少し、私達の自然観も変化していったように思います。これからの私たちのライフスタイルや生き物との関わり方のビジョンとして、街にいても生き物たちのにぎわいと触れ合うことができて、豊かさを感じられる国土を取り戻していけたらと考えております。

地球上では、それぞれの地域に固有の自然があり、特有の生き物がいて、それらが繋がり合っています。その繋がりの中で人間も生き、恵みを受けているのです。しかし一方で、私達人間はその繋がりを容易に壊してしまう存在でもあります。生物多様性は私たちの豊かな食文化の源であり、そこから祭りや芸能等の文化も生み出されます。また、水源のかん養や災害の防止、バイオテクノロジーによる医薬品への応用や、カワセミのクチバシに着想を得た新幹線の先頭車両の設計等、私達の暮らしの安心・安全・便利の基礎は、生物多様性の恵みによるところが大きく、決して遠い存在ではないのです。

そもそも「生物多様性」という言葉は、1992年にリオデジャネイロで開かれた地球サミットにあわせて「生物多様性条約」が策定され、これがきっかけとなって日本の施策に入ってきました。その後我が国では、1995年の「生物多様性国家戦略」を皮切りに、2002年の「新・生物多様性国家戦略」、2007年の「第3次生物多様性国家戦略」という各政策の下で様々な取組を行ってきました。特に第3次戦略では、100年先を見通した上で今後5年程度の間に取り組むべき施策の方向性を4つの基本戦略として提示しました。1つ目は、いまだ一般的に認知されていない生物多様性を社会に浸透させること。2つ目は、地域全体で里地里山の資源を活用・管理できるような社会づくりなど、地域における人と自然の関係を再構築すること。3つ目は、森・里・川・海の繋がりを確保すること。4つ目は、地球規模の視野を持って行動するということです。日本の里山文化を自然共生モデルとして世界に発信するために、敢えてローマ字で「SATOYAMA」というキーワードを使いました。この言葉には、日本人の自然に対する畏怖や感謝の想い、そこで育まれたすべての生き物を一体のものとして捉え、豊かな地域を育んでいくための知恵や発想が込められています。今年2008年5月に神戸で開かれたG8環境大臣会合で合意された「神戸・生物多様性のための行動の呼びかけ」でも盛り込まれました。

2010年には、名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回目締約国会議)が開かれます。「2010年以降の世界目標」や「遺伝資源へのアクセスと利益配分」の議論をはじめ、農業と生物多様性(バイオ燃料)の問題、海洋の生物多様性など多岐に亘るテーマで議論されることになっています。約7000人が集まって行われるこの会議によって、日本で、そして世界の人々に、生物多様性が根付くきっかけになることを期待しています。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン