【受講料】
各パート(全3回)1,500円(学生 1,000円)
【定   員】
250名
【時   間】
18:30〜20:15(受付開始 17:45)
【場   所】
損保ジャパン本社ビル2F大会議室講座開催場所地図

パート1学ぼう 温暖化・日本の役割7月1・15・22日(火)

7月22日

地球温暖化問題について

南川 秀樹氏  環境省 大臣官房長

2007年にアル・ゴア元アメリカ副大統領とともにノーベル平和賞を受賞したIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、「地球温暖化にはもはや疑う余地がない」ことを明言しました。この100年間で0.74℃気温が上昇し、その度合いはますます加速しており、この10年間で3mm以上の海面上昇が記録されているのをはじめ、温暖化による自然界・生態系・気象などへの影響が世界各地で確認されています。今後の世界平均気温の推移をシュミレーションしてみると、21世紀末までに1.8〜4.0℃の上昇が予測されており、また今後20年間では、実行される対策いかんに拘らず0.4℃上昇すると見られており、北極・南極の両極域や小島嶼ではその影響がすでに確認され始めています。

温暖化による問題点を項目ごとに大きく分けると、一番影響が出やすいのは「水」であり、これは日本も大いに関係してきます。すでに中国の北京では水の枯渇が大問題になっています。かつて行っていた地下水の汲み上げも地盤沈下を引き起こすということで禁止され、黄河の流量も激減している一方で、北京はオリンピックに伴うビルの建設ラッシュで水需要も急上昇しており、隋の時代に造られた運河を使って揚子江から水を運ぶという対応をしているほどなのです。次に「生態系」への影響については、世界平均気温が産業革命前より1.5〜2.5℃以上高くなると、動植物の20〜30%で絶滅リスクが増加すると見られていますが、すでに日本でも北海道において著しい植生の変化が確認され始めています。「食料」については、1〜3℃の気温上昇であれば作物によっては中高緯度地域で増産できるとされていますが、低緯度地域ではすでに生産性が減少しています。日本でも従来の品種では品質が低下してしまう作物があること等が報告されており、適応のための新たな対策が進められています。さらに「健康」という点では、国内での猛暑日が年々増えて熱中症患者数が増加し、さらに感染症を媒介するムシの生息域が北上する等の影響でリスクが高まっています。また「沿岸域・小島嶼等」においては、海面上昇で生活そのものが脅かされているのです。

CO2の国別総排出量や国別1人あたり排出量で比較すると、日本はかなり努力をしている方だと言えますが、国内的には業務(オフィスビル等)部門・家庭部門の排出量の増加を食い止めることができていません。一方で、排出削減ポテンシャルを推計すると、この両部門のポテンシャルが特に大きいという結果も出ており、ぜひともそこへの対策をキチンと講じて京都議定書で定めた削減目標を達成したいと考えています。世界的に見ても、EUの一部の国(イギリス・フランス・ドイツ)以外は、京都議定書の削減目標に対し、実際のところ排出量が増加している状況です。しかし、この議定書で、敢えて厳しい目標を設定したことが、各国がその後努力するきっかけとなったのも事実です。何としても世界中が努力してこれを達成し、次の対策に繋げていくことが重要です。また、日本も加盟国の一員として尽力していきたいと思っています。

また、この京都議定書の目標達成と同時に長期的対策も必要です。「2050年までに世界全体の排出量を半減」という目標が掲げられている今、広い意味でのイノベーション…つまり、技術、社会システム、制度、街づくりなど様々な分野の見直しを結集することによって社会改革を進めなければなりません。またこれらの削減努力を精一杯実行しても、今後数十年は気候変動の影響を受ける事は避けられません。そのため、温暖化による環境変化への「適応」も必要であり、自然や社会システムの調整や、温暖化の影響を受けやすい開発途上国への支援も求められています。この他にも、経済、技術、政治等、様々な分野から、環境省としても温暖化への対策に取組んでいるところであります。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン