【受講料】
各パート(全3回)1,500円(学生 1,000円)
【定   員】
250名
【時   間】
18:30〜20:15(受付開始 17:45)
【場   所】
損保ジャパン本社ビル2F大会議室講座開催場所地図

パート1学ぼう 温暖化・日本の役割7月1・15・22日(火)

7月1日

日本の温暖化政策に必要な大きな仕組み

竹内 敬二 氏  朝日新聞 編集委員

温暖化問題の最大の特徴は、「20年間でここまできた」ということだと私は考えています。1970年代に世界各地で大旱魃・大熱波・大寒波などの異常気象が多発し、気候変動の研究が一斉に始まりました。しかしその当時は、実はほとんどの学説が「寒冷化が来る」という指摘をしていたのです。その後80年代半ばから、科学者の間でもようやく「温暖化」の議論がされるようになり、1990年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が1次評価報告書を発表しました。その内容は非常に慎重なものでしたが、回を重ねるごとに自信を強めた表現となり、2007年の4次評価報告書では『過去半世紀の気温上昇のほとんどが人為的温室効果ガスの増加による可能性がかなり高い』という内容になったのです。なぜここまで短期間に温暖化の認識が広がったのか…それは、我々の“直感”が「このままの生活を続けていていいのだろうか」と感じているからではないでしょうか。そして、人類が初めて手にしたブレーキが京都議定書でした。これは単なる節約の呼びかけではなく、私達は「生活の価値観を変えなければいけない」という50年に一度のパラダイム変化を促しました。

その後2007年5月、安倍前首相は2050年までに温室効果ガス半減を目指すという「美しい星50」を発表しました。日本の首相による温暖化に対する提言はその後も続き、ハイリゲンダムサミット、ダボス会議を経て、今年6月に発表された福田ビジョンでは「2050年までに温室効果ガスを6〜8割削減する」とまで表明されました。どうしてここまで言うようになったのかを考えると、1つには、今までのように各省庁の担当者が集まってグズグズやっていたのでは国際交渉のテンポに合わなくなってきたという点があります。そして、国内の政策を積み上げていても効果のある大きな政策にならないという現実もあります。とは言うものの、2050年の長期的な目標については、今発言している人々はその頃もう生きていないわけですから各国も含めて言いたい放題の様相です。しかしこういう風潮が大切な側面もあります。ビジョンを掲げなければ社会は動き出しません。そしてその次の段階として、現在と50年後の間の中期的目標持つことができるかが重要なポイントになるのです。現在各国がそれぞれの目標を掲げていますが、実状を見れば、実際にしっかりした家が建っている国とハリボテだけの国とがあり、キッチリとその中味をつくり上げる事が急務なのです。

そこで我が国の温暖化対策はどうでしょうか。環境税や排出権取引などの検討がなされていますが、まず誰がCO2を出しているのかをハッキリさせるべきだと私は考えています。排出量の内訳では、発電が4割、鉄鋼が1割、自動車を中心とした運輸が2割、家庭などの民生が1.5割となっています。例えば、最近コンビニエンスストアの規制などの話も出てきていますが、「言いやすい所に言っている」という感が拭えません。国や自治体には、大きい所には大きなシステム、小さい所には小さなシステムをそれぞれ考えるバランスのよい政策づくりが求められるのではないでしょうか。また国は個人に対しても、「一人ひとりが生活スタイルを変えましょう」と呼びかけていますが、この言葉も私個人としてはあまり好きになれません。国も、国の責任としてまず“国の生活スタイル”を変えるべきだと考えるからです。市民に対して「一人ひとり」と言うのと同様に、企業ごと、自治体ごと、そして研究者、NGOにもそれぞれの役割があり、国は国の役割を担って欲しいのです。国の役割とは、簡潔に言えば、お金と法律で仕組みをつくることです。それが中々上手く出来ていないから、言いやすい所に矛先が向かってしまうのですが、今こそ国が持っている「権力」そして「お金」でもって、「大きな法律・大きな仕組み」をつくって欲しいと思います。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン