幼魚がつなぐ海と人の物語
小さな体で大海原を生き抜く幼魚たち。そのたくましく健気な生き様は、現代社会を生きる私たちに様々なことを教えてくれます。幼魚たちの可愛らしさや面白さから、進化の過程で磨いてきた驚きの生存戦略、身近な足元の海で感じられる環境の変化、楽しく学びながらできるSDGsの入り口まで、幼魚を通して人や自然を見つめる講演を、貴重な写真満載でお届けします。
私のウェルビーイング漁港にいる時間が何より幸せ
講座ダイジェスト
クイズで知る幼魚の不思議
幼魚とは魚の赤ちゃんのことです。早速クイズです。「ミナミハコフグの幼魚は四角くて黒い水玉模様に覆われています。この水玉模様は何のためでしょうか」
答えは「目を守るため」です。体が小さいので大きな魚に襲われることがあるのですが、その時に一番守りたいのが、突かれると致命傷になる目玉です。そのために黒目と同じ大きさの水玉模様を全身にまとい、本物の目を隠しているのです。まだ弱くて泳ぎが速くない幼魚時代を生き残るためのデザインです。
次はトビウオの幼魚です。枯れ葉のような幼魚、水に落ちた虫のように見える幼魚、花びらのような幼魚、着物デザインのような幼魚などさまざまです。ここでクイズです。「トビウオは何のために飛んでいるのでしょうか」
正解は「敵のシイラに追われているから仕方なく飛んでいる」です。シイラはものすごく速く泳ぐので、シイラがやってこない空中に逃げる技を編み出しました。
続いてのクイズです。ミミイカは、昼間は砂の中に隠れて夜になると泳いで餌を求めますが、「ミミイカは可愛いらしいしぐさをしますがそれは何でしょうか」
正解は「潜る時に目も潜りたいので、ニョキッと腕が出てきて頭に砂をかける」です。
幼魚の魅力
僕は0歳の頃から漁港をのぞいて幼魚を探し、タモ網ですくって観察する岸壁採集をしてきました。漁港の中は隠れる場所がたくさんあるので、幼魚たちにはパラダイスのような環境です。また、あまり大きな魚が入ってこなくて敵が少ない、餌のプランクトンが豊かで、外海が荒れていても漁港の中は比較的穏やかなど良いことだらけです。そのため幼魚の頃は隠れ家として利用している魚がたくさんいます。
僕は幼魚が敵に見つからない、見つかっても食べられないようにするため、いろいろな生存戦略を考え抜いた結果、今の姿に行き着いているといった生き様が大好きです。また、生きる上で参考になるポイントがたくさん詰まっていて、人間にエールを送ってくれているような気さえしています。
他人に頼る幼魚
深海魚であるエボシダイの幼魚は、カツオノエボシという猛毒クラゲに寄り添って生きています。彼らは完璧にクラゲの毒に抵抗できるわけではなく、近づきすぎると捕食されてしまいますが、一番危険なクラゲを選んだのです。
クラゲにくっついて身を守る幼魚は、他にもクラゲウオ、ヤエギス、アジの仲間などたくさんいます。自分を守るために命がけでクラゲに頼る彼らからは「他人に頼る勇気を持とう」というメッセージを与えられたと感じています。
集団になって身を守る幼魚
ゴンズイの幼魚は、ゴンズイ玉とも呼ばれる集団で暮らし、一つの大きな生き物のように見せることで身を守っています。そのような幼魚たちからは「1人を100%信じるより、多くの人をちょっとずつ信じてみよう」というメッセージを受け取りました。人間も1人1%ずつ信じられる人が100人いれば、どのような試練にも耐えられるといった柔軟な考え方ができると思います。
流される幼魚
深海魚のリュウグウノツカイは、幼魚の頃に浅い海で暮らし、海流に乗って移動します。流されることに特化した幼魚はたくさんいます。大きな胸ビレで水の抵抗を増やすヤマヒメの幼魚、長いヒレにつけたヒラヒラを広げて水の抵抗を増やすユキフリソデウオの幼魚、全身を風船にして浮かぶアカグツの幼魚などです。
彼らからは「ブレないことは大事。でも流されるのも才能だよ」というメッセージを受け取りました。彼らの生き方は決して受け身ではありません。まわりの海流や環境を把握する力がないと流れに乗れず、流れに乗る勇気も必要なので、流されるのはすごい才能だと思います。それは人間にも通じるのではないでしょうか。
身を隠す幼魚
漂って生活する魚の中には、天女の羽衣のように美しいレプトセファルス幼生という幼魚がいます。彼らは透明になることで敵から身を隠す方法を編み出しました。特に透明なのがネズミギスという深海魚の幼魚で、血流が外から見えるほどです。
鏡のように銀ピカなタチウオは、まわりの闇を映すことで気配を消しています。また、深海のハンターたちは、わずかな太陽光が作りだす影を頼りに獲物を探すので、タチウオは立ち泳ぎをすることで影を点にまで小さくしています。
深海魚のハダカイワシは、ぼんやりと青白い光を放つ器官をおなか側に持っています。見上げて探すハンターたちから見ると、青白く光る影がわずかな光に溶け込んで見えにくくなるのです。この技にはカウンターイルミネーションという必殺技のような名前がついています。
気配を消す、まわりに溶け込むことが得意な幼魚たちからは「うまくやる」というメッセージを受け取りました。戦う力や逃げる力を磨くわけではなく、脇道を通るかのように困難を避けていく。それは人間にも大切ですね。
擬態する幼魚
擬態が得意な幼魚もいます。海面に枯れ葉が舞い降りる時期に生まれるナンヨウツバメウオは、枯れ葉に擬態することで海鳥に見つからないようにしています。サツマカサゴは、ヒレ、尻尾、目まで岩に擬態します。イトヒキアジは、猛毒のアンドンクラゲのまねをすることで鳥に食べられないようにしています。ノコギリハギは、毒を持つシマキンチャクフグとそっくりな柄になることで身を守っています。
擬態の達人からは「初めは真似でもいい。それはいつかあなたの生き方になる」というメッセージを受け取りました。擬態は進化の神秘で、真似も突き詰めていけばそれが自分のオリジナルの生き方になるということです。それは人間にも通じますね。
目立つものに擬態する幼魚
ニシキフウライウオは、毒があり食べてもおいしくないウミシダに擬態します。真っ赤なナミマツカサは、深海では赤い光が水に吸収されて、届かなくなることを利用しています。中にはニシキテグリのように、派手になることでカラフルなサンゴ礁に溶け込む幼魚もいます。
彼らからは「目立つと浮くは違う」というメッセージを受け取りました。自分の個性を認めさせようと思って、目立つことをしたり奇抜な衣装を着たりすると悪目立ちしがちですよね。でも、この幼魚たちはすごく意味のある目立ち方をしているんです。
幼魚から見える環境問題
黒潮に乗ってやってくるチョウチョウウオの幼魚には、東京から近い漁港で出会えます。南国出身の彼らは、水温が下がる冬を越せずに死んでしまうため、死滅回遊魚と呼ばれていました。ところが今は地球温暖化による海水温上昇で冬を越せるようになりました。呼び名も季節来遊魚に変わってきています。
消えていく幼魚もいます。僕が小学生の頃まで漁港にたくさんいたイダテンカジカは、ここ数年見かけなくなりました。海藻に隠れて成長しますが、暖冬が続くと海藻が生えなくなるためです。この魚と同じように、魚はどんどん住む場所や回遊ルートを変えると言われています。
海洋ゴミの問題も気になっています。2050年にゴミの量が魚の量を上回ると言われていますが、漁港にもいろいろなゴミが打ち寄せられています。中にはアミモンガラのように、海洋ゴミさえも身を守るのに利用している幼魚もいます。
彼らのようなたくましい生き様、けなげな生き方をぜひ知っていただきたいと思います。それを知ることによって、海を守りきれいにしたいという気持ちが湧き上がると思います。それにはまず現状を知らないとピンとこないので、ぜひ皆さんも漁港に行った時に足元をのぞいてみてください。また、岸壁採集は楽しくしく学びながらできるSDGsの入り口でもあります。ぜひタモ網で幼魚をすくってみてください。一緒にゴミもすくってしまった時は、分別して捨てるようにしてください。このようなことを通じて、海を守りたいと思う人が増えてくれると、僕はすごくうれしいです。
ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します
磯と漁港ではいる魚の種類がかなり違います。磯では主に住み着いている魚と出会えますが、漁港は毎日生き物が入れ替わります。幼魚は泳ぐ力がないので、風や流れに乗って漁港の中に出入りするためです。また、漁港は磯のように海に入らなくても上からのぞいて取れるので、結構手軽に楽しめます。

大きくなると展示しないので、別の水族館に無償提供しています。そのため毎年3月に卒魚式というイベントをやっています。地元の町長さんのあいさつ、飼育員による成長記録の報告、地元の幼稚園生による卒業の歌などで送り出し、結構感動します。

ものすごくデリケートな深海魚の幼魚のように、網ですくった時点で弱ってしまう幼魚もいます。でも、普通の幼魚はタモ網で1匹ずつすくう程度のレベルならば、それほど傷つくことなく海に戻せます。デリケートな稚魚や幼魚は、 柄杓を使って水ごとすくいます。
