都会で楽しむ小さな循環地域コミュニティと育む新しいライフスタイル
気候変動という大きな課題に対して、私たち一人ひとりができる身近な行動として、家庭の生ごみを減らしながら、土を育て、地域で食と命の循環を実現すること。誰もが参加できる「たのしい循環生活」を手段として、地域の資源や人をどうつなげていくのかを紹介し、循環型コミュニティガーデンとコンポストを中心に、都市部から拡がる持続可能な食の循環への挑戦についてお話をします。
講座ダイジェスト
大切な人の健康が活動の原点
三十数年前、父が末期の肝臓がんで余命3カ月と宣告されました。私は食養生して、余命を過ごすことを提案しました。それから父は退院し、私は食事を担当するようになったのですが、初日から無農薬の野菜が手に入らないという壁に突き当たりました。その後、口コミと自分自身で無農薬野菜を作り始めて野菜が手に入るようになると、父がみるみる元気になって顔色も良くなり、2年も生き延びられました。この経験を通じて、「食べ物は命で、大切な人がいるかいないかということを、食べ物が決める」ことに気づかされました。
また、娘が20年後30年後、どんどん環境が悪くなる中で「どうやって子どもを育てていくのだろう」という不安が大きくなってきました。これが私の活動の原点です。
取り組みのきっかけは、自然の大切さへの気づき
私は様々な環境活動に参加したり、環境の勉強を始めたりしました。すると、自然にはもともと文化的機能がある、デザインやアートの着想になる、整えてくれる基盤機能がある。食べ物、水、衣類などの供給機能があることなどに気づきました。
また、私も含めて自然を搾取するばかりの人が多いので、自然がもともと持っている浄化機能や調整機能が総合的に低下し、気候変動につながっていることにも気づきました。今の私たちの暮らしは「2050年には海では魚が取れなくなるのでは」と言われるほど、自然に大きく影響しています。山と海の真ん中にある私たちの暮らしが、循環型ではなくてゴミを出しているのです。
また、山のふもとにある森林は針葉樹が多くて腐葉土が非常に減っているため、雨が降っても海まで山の栄養が届いていないことも知りました。そこで私はコンポスト*で循環をつくり出すことを考え始めたのです。
※コンポストとは、生ごみや落ち葉などの有機物を、微生物の力で分解してたい肥にする装置やその方法のことです。
堆肥の役割とメリット
堆肥は砂や粘土の接着材のようになって団粒構造を作り、水、栄養、炭素などを貯留します。団粒構造だと隙間ができて酸素が行き渡り、森の中のような土に変わっていきます。そして水分、酸素、栄養すべてがそろうと、土中の微生物がどんどん増え、植物の根っこへの栄養の橋渡しをしてくれるので、生物多様性も豊かになります。
これに対して化学肥料や農薬を使い過ぎた場所や、運動場などは単粒構造になっていて、栄養を与えても雨で流れやすくなっています。世界で一番の循環型社会だったといわれる江戸時代から、たった50年ほどで廃棄物は焼却されるようになり、地面に有機物を戻さなくなりました。すると団粒構造が単粒構造化し、地面からどんどんCO₂が放出され、生物の多様性も失われてきたのです。
堆肥化は持続可能性を高める切り札
現在の食べ物は循環の最後で生ごみとして焼却しますが、家庭ごみは約1兆円をかけて、748万トンも焼却しています。また、世界の土壌では、ミネラルと栄養が喪失しており、今後世界中で都会への居住が進み、食べ物の廃棄物を活用せずに、エネルギーを使って焼却が進むと持続可能ではありません。
解決するにはスピードも必要なので、私たちは土地の少ない都市部から、生ごみを堆肥化することで循環させていけば、たのしさとつながりも再生し、持続可能も高まると考えました。また、作った堆肥を農家さんに渡すような仕組みにすれば、持続可能性が加速すると考えました。さらに、堆肥づくりのプロセスには高い教育効果がある上に、楽しくて、勉強になることがたくさんあると考え、プロジェクトを始めたのです。
大切なのは、まず半径2kmで栄養を循環させること
堆肥は自分自身や地域でつかうことが大切なので、私たちは半径2kmの栄養循環をうたっています。2㎞は「物事を、自分ゴトで捉えることができる範囲」で、地産地消の定理や、顔が見えたりする距離でもあります。
この図でZONEゼロは自分自身です。自分自身が健康で安定していないと、人や環境について考えることができません。ZONE1は自宅、ZONE2は週3~4回行くところです。
栄養を移動できるバッグ型コンポスト
私たちは半径2km単位で、いろいろなコンポストを使っています。その一つがファスナーで管理できるバッグ型のLFC(ローカルフードサイクリング)コンポストです。実は生ごみとして捨てる部分は成長する部分でもあり、栄養も抗酸化作用もあります。そのため微生物の活動が活発化して、どんどん小さく分解され、生ごみを入れてもいっぱいにならないということが起こります。それをバッグの中で行えば、栄養を移動しやすいと考えたのです。また、できた堆肥をマルシェに持っていくと、野菜と交換できる仕組みを地域でたくさん作りたいと思いました。
堆肥を活用するコミュニティガーデンの効果
堆肥を地域で活用するため、みんなでつくった堆肥を持ち寄り、花壇などで使うコミュニティガーデンを増やすことにも取り組んでいます。例えば神奈川県座間市で行った「フードサイクルプロジェクト」では、参加した住民が「生ごみをコンポストに入れたことで、どれぐらいCO2を減らせたか」を計算。堆肥を農家さんに使ってもらったところ、通常の堆肥と比べて生ごみの堆肥は収穫量が1.4倍になりました。
福岡市美和台の高齢者地区では、若者がお年寄宅のコンポストをサポートする見守りコンポストのしくみができました。また、若者と地域の方との交流や、ご近所同士でのコミュニケーションが強化されていきました。環境と福祉の課題が同時解決できたのです。
中にはご高齢の方が畑を借りて、高校生と連携し始めた例もあります。畑に行くと身体が元気になり、会話が生まれていつも笑っているためか血圧もよくなるので「畑ジム」と呼んでいる方もいるようです。
このようなさまざまな実証実験を通じて、コミュニティガーデンがあるとたくさんの人が参加しやすい、学生のプロジェクトが立ち上がるなど、多くの効果を実感しました。また、小学生の講座や学校の先生の教育プログラムを開発できました。
循環型コミュニティガーデンの恩恵は想像以上に大きく、ウェルビーイングを高める効果もあります。国が行った「満足度・生活の質に関する調査」の質問を、コミュニティガーデンの高齢者や若者にしてみたところ、すべてにおいて幸福度が高く、特に現在の幸福度が高い結果でした。また、5年後の幸福度への期待度も同様にとても高い結果でした。
最近、参加者の顔と名前が一致し、防災機能としても有効ということで、地域防災の方がどんどん利用するようになっていることもわかってきました。
循環を創りだすのは簡単なこと
いい食材をつくる生産者、健康を考えて調理する人、自分で野菜を育てる人、生ごみをコンポストで堆肥化する人などが増えると、「サスティナブルフード=循環」の拡大するスピードが加速します。ぜひ、みなさまと一緒にそのような仕組みをつくっていきたいと思っています。循環をつくるのはそんなに難しくなく、今日からできる方法もありますので、ぜひ参加してみてください。
ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します
残渣は家庭ごみが中心ですが、雑草残渣、近所の落ち葉などもあります。レストランの残飯類は、廃棄物の法律があるので簡単ではありませんが、リサイクルループをつくるといった手法を開発中です。いずれは排泄物も栄養循環の中に入れていきたいと考えているので、コンポストトイレを作ったりしています。


