市民のための環境公開講座は、市民の皆さまと共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。持続可能な社会を実現するためにダイナミックな変化が求められている中、さまざまな切り口から “ゆたかな” 暮らしを考えていきます。
ReBuilding Center JAPANの取り組み(東野 唯史氏)
日本では人口減少とともに空き家がどんどん増えています。空き家は災害時に倒壊して避難経路をふさいだり、救助に入るのを難しくしたりします。放火されることもあります。安全に暮らすためにも空き家を減らす必要があります。今は年間85,000棟ほどの空き家が解体され、発生するごみは138.5万トンといわれています。それらが「全部ごみというわけではない。もったいない」と考えた僕たちは、2016年に古材を必要とする人に手渡し、地域の資源として循環させる目的でリビセンをスタートさせました。
オープン当時から「ReBuild New Culture(リビルドニューカルチャー)」というスローガンを掲げています。また「次の世代につないでいきたいモノと文化を救い上げ、再構築し、楽しくたくましく生きていけるこれからの景色をデザインしていく」ということをうたっています。
現在は9割5分以上、家主さんから直接依頼を受けた後、家主さんの思い出話を聞きながらレスキュー(買い取り)し、店頭で販売することを主な事業としています。ちなみにリビセンではレスキューを「世の中に見捨てられたものに価値を見いだし、もう一度世の中に送り出し、次の世代につないでいくこと」と定義づけています。
最初のレスキューで致し方なく解体を選んだ家主さんから「建物の一部が誰かに必要とされるのは本当にうれしい。ありがとう」と言っていただけました。以降は家主さんの気持ちを救い上げることを、レスキューの大事なポイントにしています。一方で設計チームが設計で使ったり、制作チームがオリジナルのプロダクトを作ったり、古道具を販売したりしています。
そのほか空き家情報も集め、地域のお店をやりたいという方と空き家をマッチングさせることで、エリアを元気にしていくことにも取り組んでいます。また、全国でのレスキューのような活動をサポートする取り組みも展開しています。これらを通じて地域資源が循環する景色を全国でつくっていければ、ReBuild New Cultureにつながると思っています。
一般社団法人unistepsの取り組み(鎌田 安里紗氏)
私たちは、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開しています。例えば、「服のたね」という企画は、申し込んでくださった方にコットンの種をお送りして、自宅のベランダや庭で育てていただくものです。収穫したものと輸入オーガニックコットンをブレンドして糸と生地を作った後、みんなでデザインを考えて1着の服を作ります。服作りのプロセスを体感することで、当たり前に着ている服が、どう自然と接続しているかがわかる上に、作ってくれている人をリアルに感じられれば、服との付き合い方を考えるきっかけになると考え、この企画を続けています。
現在、日本で売られている洋服の98.5%は国外で作られています。コットンの栽培段階から考えると数カ国を移動していることも多いので、なかなか服ができる過程での問題が見えにくい現状があります。たとえば服を1着作るのに、ペットボトル255本を作るのと同じぐらいのCO2を排出することや、コットンの栽培や染色に不可欠な水は、1着当たり2,300ℓぐらいということなどです。また、短い納期で洋服の裁縫を間に合わせるために多くのミシンを置いたことや、無理な増築、建物の補強不足などで工場が倒壊し、多くの方が亡くなる事故が起きたこともあります。
手放された服も問題です。世界からたくさんの古着がケニアやガーナ、チリなどに輸出されますが、使い切れないものが川や海に流れ込んだり、埋め立て地にどんどん積み上がったりしています。その遠因はファストファッションの広がりなどとともに、作られる量がすごく増えたことや、価格が安くなったことです。こうした中で生産者にフェアな賃金を支払い、安心して働ける環境で服を作ることや、自然環境への影響をできるだけ減らせる素材を選ぶこと、作り過ぎないようにすることなどが世界中で議論されています。
私たちは「生産と廃棄の現場を巡るスタディーツアー」として、タイのバンコクを訪ねました。素材を糸にする工程から縫製するまで、工場をいくつも回って見学するもので、たくさんの方の工夫が積み重なって一着の服ができていることがわかります。それを知ると服の見え方やファッションの楽しみ方が変わってくると思います。また、消費スピードの早まりによって増えるごみを減らすきっかけにもなると思っています。
ここからは視聴する皆さんの質問なども織り交ぜながら、対談形式で進めていきます。
司会参加者の方から和服のリサイクル業者に回収を依頼したけれど、欲しいものだけを言い値で持っていかれてしまったという意見が寄せられました。レスキューという感覚ではないですね。
鎌田そうですね。洋服は自分が着ていたものですから、愛着がわくと思います。お母さんやおばあちゃんの着物なら、大事に引き継いでくれる人に渡したいと思うものなので、東野さんの古材のように温かいレスキューができる仕組みがあるといいですね。
東野そうですね。古材はニーズとのバランスのようなものはまだ難しく、レスキューする量が使われるよりも多い状況なので、消費の量をいかに増やすかをもっと考えないといいけない状態です。
司会家1軒のリサイクル率を知りたいという質問も寄せられています。
東野日本でのリサイクル率は90%ぐらいだと思います。素材として利用するマテリアルリサイクルは約3割で、約7割は焼却処分して熱を回収するサーマルリサイクルなのが問題だと感じています。
鎌田洋服も約15%がリサイクルされていますが、ウェスや防音材などの用途が多く、洋服に戻ってくるのは1%以下といわれています。その大きな理由は現在は混紡素材の衣服が多く、様々な素材を分離して、リサイクルする技術が確立されていないことです。その点、単一素材だとリサイクルされやすいので、単一素材かどうかをチェックしてお洋服を選ぶことも一つのアクションになります。
司会私も単一素材というポップを見かけた時に「そういう視点があるんだな」と思いました。ところで東野さん鎌田さんが、皆さんに大切にしてほしいと思う「視点」はありますか?
東野古道具に関しては、たとえば電気配線用のガイシをハンガーやドアの取っ手にするなど、もともとの機能や役割をいったんはずしてモノを見ると発想がふくらむと思います。リビセンでもそういったヒントを置くイメージを大切にしています。ミラクルフィットすると気持ちいいものです。
鎌田本当にそうですね。洋服の場合は物理的な寿命よりも、飽きるといった情緒的な寿命が先にくるといわれています。洋服を買う時に素材をチェックし、染められるか、リサイクルできるかといった視点を持って選ぶと、寿命が延びる確率が高まると感じています。
司会一方で成長に合わせて直したり、端切れを使ったりと、アップサイクルしていくような作りの着物に対して、洋服は既成サイズに自分を合わせるような買い方をしています。洋服に関する活動をされる中で、使えそうな昔のアイデアはあるでしょうか。
鎌田長方形を生かす着物と違って、洋服は人の形に合わせて布を切って縫い合わせるというまったく異なる発想なので、端切れがかなり出てしまいます。最近は海外のデザイナーもゼロ・ウェイストパターンと言って、四角の中できれいに形が取れるように考えるなど、着物的な発想がリスペクトされて広がってきています。
東野昔を見直す発想は大切ですね。古民家も家を建てる時に古材を使っていた形跡があります。というのも電気もエンジンもなかった時代に、山から木を切って運び出して板にするのはとても大変なことでした。そこで集落内で解体される家を、見た目とは関係のない下地に使っていたようです。今は構造や耐震の問題があるので、構造体には新品を使い、仕上げに古材を使う人が増えてきています。僕らも「昔の人が普通にやっていたことを、今の時代なりにアレンジしてできるのは、すごくいいよね」と思いながら、ReBuild New Cultureに取り組んでいます。
司会世の中的に過剰になっているものや、減らしていけるものがあったらお聞かせくださいという質問も来ています。
鎌田全部ではないでしょうか。生産と消費の場所が遠くなっていて、どうやって育ったのか、どこから来てどのぐらいの苦労があったのかなどがあまり見えなくなっていると思います。作ることに対する人々の解像度が高くなると、価格や性能以外の視点も踏まえてものを選び、できるだけ長く使おうと思うことに繋がると感じます。
東野僕も全部が過剰だと思います。そのベースになっているのが競争意識だと感じています。誰かを出し抜いて自分が1番になるために商品開発をして量産し、シェアを奪うことが企業の利益になっているように感じています。「全体を見ながら選択できる人がもっともっと増えればいいのにな」と思いながら、その様子を見ています。別に1番にならなくても、工夫していけば幸せになれると思っています。
司会すごく響く言葉をいただきました。またReBuild New Cultureという言葉が、視聴者の皆さんにとても合うと思いました。東野さん、鎌田さん、最後に皆さんへのメッセージをいただけますか。
東野視聴している皆さんは環境にいいことしたい、暮らしを変えたいと思っている方が多いと思います。僕らは古材やリノベーションが得意だからそういったことをやってきましたが、皆さんも自分の強みと組み合わせて、何かに取り組んでいただきたいです。家の電気を再エネに切り替えるだけでもいいと思うんです。苦しいと続かないしがんばれませんが、無理せずにいいことをやっていくと長続きするものです。それこそがサステナブルだと思います。
鎌田私は燃やすのにすごくエネルギーが必要と思われる生ごみ処理にプチ罪悪感を抱えていました。ところがリビセン・オリジナル商品のキエーロ(コンポスト)を導入してからは、すごく生活への納得感が上がったと感じています。環境配慮やサステナブルをしなければいけないと考えるとかなりしんどくなりがちですが、納得感が高まる選択することが大切だと思います。
司会お二方ともありがとうございました。