市民のための環境公開講座2024

市民のための環境公開講座は、市民の皆さまと共にSDGsをはじめとする地球上の諸問題を理解し、それぞれの立場でサステナブルな未来に向けて具体的に行動することを目指します。持続可能な社会を実現するためにダイナミックな変化が求められている中、さまざまな切り口から “ゆたかな” 暮らしを考えていきます。

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10/2 18:00 - 19:30

なぜ、かまぼこ屋がエネルギーのことを考えたのか? 地域でエネルギーに取り組むべき「3つの理由」

鈴木 悌介 氏 株式会社鈴廣蒲鉾本店 取締役相談役 小田原箱根商工会議所 会頭

気候変動が暮らしと経済に甚大な被害を与え始めています。地域の暮らしと経済を下支えする地域の中小企業にとって、気候変動は人ごとではありません。その中でエネルギーは大きな要素です。省エネと、不安定な為替や国際情勢に影響を受けにくい地域での再生可能エネルギーの地産地消は、中小企業の経営の収益改善と安定にとって有効です。さらには、域外へのエネルギーコストの流出を減らし、地域で回るお金を増やすことで元気な地域をつくることにもつながります。そのような取り組みをしている鈴木さんに、取り組みや取り組んだ理由をお話しいただきます。

講座ダイジェスト

かまぼこ屋としての取り組み

かまぼこは、冷蔵あるいは冷凍した原料を使って、調理をして熱をかけてまた冷ますといった具合に、かなりエネルギーを使います。現在、板かまぼこの製造ラインでは、その電力の約80%を工場の屋根に設置した太陽光発電でまかなっています。



本社ビルは普通のビル比で約4割のエネルギーで動いています。自家用の太陽光発電、光ダクトにより太陽光を直接取り入れる照明、井戸水による空調などを利用しています。最も効率的なのが1年中15℃~16℃程度の井戸水利用です。夏の外気温が35℃の日、外気を井戸水に通すと25℃ぐらいに下がるので、電気で2、3℃下げれば涼しい風が吹きます。冬は0℃の外気を井戸水に通すと5℃ほど上がるので、電気で少し暖めています。井戸水を汚すことはないので、二次利用しています。このしくみは工場でも採用しています。




レストランでは地中熱も使っています。また、屋根上の太陽熱温水器で、大量のお湯を沸かしています。このようにいろいろなことを組み合わせて使用するエネルギーを減らしつつ、できるだけ環境負荷の少ないものに切り替えていこうとしています。



かまぼこ屋がエネルギーのことを考える理由

人間の身体は60兆個の細胞からつくられていて、3~6カ月ですべて入れ替わるそうです。日々、つくられる新しい細胞の原料は食べ物です。まさに人の体は食べ物からできています。ですから、私たちのような食の仕事は責任重大です。「自分の身体の中と外はどこが境目か?」と自問自答する中、全てはつながっているという事実に気づきました。そして全てつながっているのなら、都合のいいことだけを享受し、都合の悪いことは知らないふりをするのはまずいと思うようになりました。その最たるものが原発のようなエネルギーシステムなので、しっかりと考えて取り組むべきと思ったのです。





地域でエネルギーに取り組むべき「三つの理由」

一つ目が環境問題、特に気候変動に取り組むべきと思っていることです。この夏の酷暑や、台風の異常な動きを考えれば、環境問題はすべての人にとって自分ごとにすべきです。箱根でも2019年10月の台風19号で24時間に1000㎜の雨が降り、登山鉄道の線路が全部流されました。芦ノ湖も冠水するなど多くの被害を受け、その後の約1年間は箱根の観光は商売にならない状態が続きました。気候変動は中小企業にとっても、日々の暮らしや商いに直接的な影響がある問題だと思い知らされました。



二つ目が経済問題です。1970年頃と比べて2020年は、1000兆円を超えるお金が市中に出回っているといわれます。ところが名目GDP(国内総生産)は、1990年~2020年まで500兆円ほどと横ばいです。市中から消えたお金は大企業の内部留保のほか、化石燃料の輸入代金として、毎年約30兆円が海外に支払われているようです。それらを1割でも減らせれば、膨大なお金が地域で回せて、地域の地盤が築けると思うのです。だからこそ省エネで使う量を減らしつつ、地産地消の再エネを増やすことは地域の経済循環を促します。



三つ目が各中小企業の経営問題です。円安や不安定な国際情勢によって、エネルギーを始め、様々な経営上のコストが影響を受けています。地域密着の商売も、グローバルなサプライチェーンに組み込まれています。ですから、エネルギーもできる限り自分たちではどうにもできない要素の影響を受けにくいものにするべきと考えています。また、大企業が先進的にSDGsやESGに取り組むのは、取引条件になりつつあるからです。中小企業もエネルギーのことを含めて、しっかりとSDGsやESGなどに取り組む必要があると思います。

エネルギーについてお伝えしたい四つのこと

一つ目はエネルギー=電力ではないことです。最終的なエネルギー利用形態を見ると電力は4割ぐらいで、それ以外は熱と動力です。実はエネルギーの中で熱がすごく大きいのです。日本には使われてない熱エネルギーがたくさんあります。太陽熱でお湯は沸き、熱だけならば安くて小型な木質ボイラーで足ります。このように熱も含めて、エネルギーの全体像を見ることが大切です。

二つ目は地域版エネルギー計画を策定する大切さです。国のエネルギー基本計画は経産省が中心になってつくっていますが、地域によって自然環境も産業構造も人口構成も違うので、すべての地域に当てはまるわけではありません。各地域が未来に向けてどのようなエネルギーを使い、どういう地域をつくるかは、自分たちで考えるべきと思うのです。そして行政に政策として落とし込んでもらうことが大切と考えています。

三つ目は中小企業の省エネをしっかりやることは、宝の山ということです。中小企業の経営者は毎日忙しく、気候変動対策に手が回りません。省エネを進められる技術はかなりたくさんあるのに使っていないのが実情です。国が予算を投じて、中小企業の省エネ診断を義務化すべきと思っています。それによって省エネは一気に進みます。



四つ目は持続可能性です。私どもの工場や店がある土地は、未来から借りていると思っています。ですから箱根駅伝が順番を上げながらしっかりとたすきをつないでいくように、中小企業も自分が受け継いだ時よりも少しでもいい状態にして、次につないでいくことが大切だと思います。

今はこの持続可能性がとても大切なキーワードになっていると、つくづくと感じています。そのような思いでこれまで仕事をしてきましたし、これからもやっていきたいと思っています。今日の話をお友だちご家族などにお伝えいただき、少しでも広がればとてもうれしく思います。


ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1一般家庭への再エネの普及が始まっていますが、一般家庭が意識を変えるにはどのようなアピールが必要でしょうか?

回答エネルギーに関心がなくても、皆さんは何かをするためにエネルギーを使っています。その何かのためにいろいろな課題を持っているはずなので、課題に対してこういうエネルギーをこう使えば解決できるといったアプローチを、上手にするといいと思います。中小企業のおやじも「環境問題は大切だけれど、もっと大変なことがたくさんある」となりがちですが「もうかります」「やらないとやばいです」と言うと伝わりやすいです。うまく取り組ませるためにも、省エネ診断の義務化のような政策が必要と思っています。

質問2海水温の上昇などにより、かまぼこの材料である魚は、捕れる量などが変わっているのでしょうか?また、魚の利用で気を付けていることはありますか?

回答かまぼこはもともと、目の前の海で捕れた魚を使っていましたが、徐々に魚が捕れなくなってきたので、一時は北洋のスケソウダラが原料の冷凍すり身が流通しました。それだけだと私どもが求めるかまぼこができないと思い、国内の原料を中心に探索しているほか、海外の原料も使っています。漁法も自分たちが使うぶんだけ捕るなど、魚を長く利用できる取り組みをしようとしています。一方で小さすぎる、市場価値がないなどで無駄になっている魚資源もたくさんあります。それらの付加価値を高めながら各国の食生活や健康に資するなど、うまく利活用するのがかまぼこ屋と思うので、まだまでできることはたくさんあると思います。

質問3豊かな海は森や山が育てるというつながりがあると言われていますが、 鈴廣さんも海と陸地のつながりを意識した活動をしているのでしょうか?

回答森と川と里と海は全部つながっていたはずですが、今では途切れているので、もう1回つなぎ直したいと考えています。そこでかまぼこを作るときに出る魚のアラや、自社で地ビールをつくる時に出る絞りカスなどから肥料をつくっています。その肥料で地元の農家さんがつくったお米、野菜などをレストランで使っています。また、神奈川県の「水源の森」という取り組みに寄付しているほか、時々、社員がお客さまと間伐や下草刈りをするといった取り組みもしています。