市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。※各回の講座については、曜日、開催時間が異なりますのでご確認の上お申込みください
オンライン講座 無 料

パート2 企業が取り組むサステナビリティ

すべての人のKirei Lifestyleへの貢献をめざして

日 時 10/13 18:00〜19:15
井上 紀子
井上 紀子

花王株式会社 ESG活動推進部 マネジャー

Kirei Lifestyleとは、こころ豊かに暮らすこと。そしてそれが、これからも続くと安心できること。花王は創業以来、消費者起点での“よきモノづくり”を進めてきましたが、2019年、世界中の人々の「持続可能なライフスタイルを送りたい」という思いや行動に応えることをめざして、Kirei Lifestyle Planを策定しました。身近な暮らしの製品での取り組みをご紹介しながら、Kirei Lifestyle について、皆さまと一緒に考えたいと思います。

講座ダイジェスト

持続可能なこころ豊かな暮らし「KireiLifestyle」を実現する

私たちの「よきものづくり」は、1890年に“顔を”洗える石鹸=“花王”石鹸の発売から始まっています。その後も暮らしに寄り添う製品をお届けしようと、シャンプーや洗濯洗剤の販売、皮膚科学に基づく洗顔料や化粧品、赤ちゃんの肌に優しいオムツの開発など幅広い製品を手がけてまいりました。おかげさまで、現在、花王は年間売上高1兆3,820億円(2020年12月)、従業員はグループ全体で3万人を超える企業になりました。約100の国と地域に製品やサービスを提供しております。

環境への取り組みとしては、1960年代からに環境に配慮した製品を提供するための技術開発を開始し、80年代以降は省資源・省エネや節水といったエネルギーを効率よく利用するための取り組みを進めてまいりました。その後2009年に「花王環境宣言」を発表し、原材料調達から廃棄まで製品がかかわるサイクル全体に対してecoな方法を提案することを宣言。2019年には、社会のサステナビリティに花王としてどう貢献するかという議論や調査を重ねた結果出てきた「きれい」というキーワードを基に「Kirei Lifestyle Plan」を発表させていただきました。

「Kirei Lifestyle Plan」の「きれい」は「清潔」や「美しさ」という意味だけでなく、心の状態や生きる姿勢もあらわしています。花王は一人一人の「きれい」に加えて、社会や地球、未来の「きれい」につながる選択肢を、生活者の皆さまに提供していくことで、世界中のお客さまのこころ豊かな暮らしの実現をサポートしていきたいと考えています。3つの視点「快適な暮らしを自分らしく送るために」、「思いやりのある選択を社会のために」、「よりすこやかな地球のために」に、花王の大切な価値観である「正道を歩む」を加え、19個の具体的なアクションを設定して、花王の具体的な活動へとつなげています。

サステナビリティへの配慮は、製品のライフサイクル全体で

洗濯用洗剤アタックZEROを例にして、製品のライフサイクルに沿って、私たちの取り組みを説明します。まず、アタックZEROの洗浄基剤「バイオIOS」は、アブラヤシの実から採れるパーム油の中でも、食用に不向きでこれまでにあまり使われていなかった種類の油を原料としています。食用と競合しないで、洗剤を作ることができ、アブラヤシの実を、より無駄なく有効活用できるサステナブルな洗浄基剤です。ただ、パーム農園には、森林伐採やオランウータンなど野生生物の生息地の破壊、また労働者の人権にかかわる課題がまだまだあります。花王ではRSPO認証のパーム油を購入していますが、それと合わせて、小規模農園に対する生産性の向上やRSPO認証取得のサポートする活動も始めて、サステナブルな原材料調達を推進しています。また、東日本の洗剤生産の主力工場である川崎工場では購入電力の再生可能エネルギー比率100%を達成、他の工場でも自家用太陽光発電設備を導入し生産時の温室効果ガス排出量の削減を進めています。

商品の面では、より少ない洗剤の量で洗えるように成分を濃縮することで容器もコンパクト化できました。これにより生産時のエネルギーだけでなく、容器に使用するプラスチック量や商品の輸送にかかるエネルギーの削減を実現しています。他にも輸送に使用する段ボールを薄くしたり、トラックから鉄道や船などのCO2排出量の少ない輸送手段への転換を推進したりと、環境により良い選択をしています。また、販売の場では商品の情報をわかりやすく伝えるために貼付していた、プラスチック製のアイキャッチシールを廃止。このように花王では一貫した環境への取り組みを心がけています。       

しかし、製品のライフサイクルの中で一番CO2を排出し、水を使用しているのは、実は製品を使う段階です。つまり、皆様に製品をどう使っていただくかがとても重要なのです。例えば、毎日1回、すすぎ1回で洗濯をすると2回の時に比べて、1ヶ月でお風呂4杯分ほどの節水ができ、それを東京23区の全世帯で行なうと東京ドーム3.6個分の節水になります。製品を正しく使うことは、人や地球のためになる、小さなこともみんなで積み重ねると大きな効果になる、ということがわかります。今日をきっかけに、お家のお洗濯が世界や地球とつながっていることを少しでも意識していただけたら嬉しいです。製品のパッケージには、必ず技術や実験に基づいた正しい分量と使い方を記載しているので、皆様も改めて確認してみてください。

ワンチームで進めるサステナビリティへの取り組み

サステナビリティへの取り組みは、企業と家庭がワンチームでおこなうことが大切です。技術開発によって中身を凝縮し、プラスチックを削減するための詰め替え用を用意すれば終わりではありません。私たちは詰め替え作業の負担を少しでも軽減して使っていただきやすくするために、ラクラクecoパックを開発。さらに詰め替えではなく、「付け替え」でいいスマートホルダー提案もさせていただいております。コンパクト化と、お客様がつめかえ・つけかえを選択してくださっていることにより、約75%のプラスチック使用量の削減ができています。

さらにフィルムタイプのつめかえ容器を回収し、資源として有効活用する取り組みも始めています。鎌倉市他、いくつかの自治体でフィルム容器をリサイクルして組み立て・再利用が容易なブロックに再生し、有効活用していく流れの社会実装を実験中です。また、神戸では神戸市・小売・日用品メーカー・リサイクラーが協働で詰め替えパックの「水平リサイクル」を目指した「神戸プラスチックネクスト〜みんなでつなげよう。つめかえパックリサイクル〜」が始動。市内75箇所に回収ボックスを設置し、神戸市の皆様が使った詰め替えパックからリサイクルをおこない、市民に還元することを目ざしています。

このように、つくる側の企業と使う側の生活者がお互いに後押しする形で、ワンチームで、行動していくことが、環境への取り組み・社会のサステナビリティを進めていくために重要だと考えています。それがSDGsの目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」や目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に貢献することになると思います。最後に、花王が2010年から実施している「花王国際こども環境絵画コンテスト」の受賞作品と子どもたちのメッセージをいくつかご紹介します。YouTubeでも、子どもたちの思いを紹介していますので、ぜひ検索してみてください。私たちはこれからも、製品やサービス、企業姿勢を含めて、皆さまそれぞれの「Kirei Lifestyle」に寄り添い、その実現を後押ししていきたいと思います。そして、皆さまからの後押しもいただきながら、すべての人のKireiLifestyleへの貢献をめざして、これからも活動を続けてまいります。

ここからは講義中に集まった質問と回答の一部を掲載します

質問1アイキャッチシールを廃止するのは大変だったと思います。社内の理解を得るために、工夫されたことがあれば教えてください。

回答花王は2019年に、ESGを会社の根幹に据えるというメッセージを社外へ発信しております。そのため、社内にはプラスチックを減らしていかなくてはいけないという意識は共有できていました。作業としてはとても大変でしたが、関係するさまざまな部署で何度も議論を重ね進めてまいりました。

質問22009年、2019年と10年ごとにメッセージを発表されていますが、その方が広まりやすいなど何か意図があるのでしょうか。

回答メッセージを出したら、まずは知ってもらうことが重要だと考えています。最初に社内に浸透させ、そこから社内外のいろいろな活動につなげていくわけですが、その間に社会も変化していきます。10年の間に世の中の状況も変わるので、むしろそれに合わせていかないと会社として成り立たないと考えています。社会の状況を確認しながら、舵を切ることが大切だと思います。

質問3今日のようなお話や研究成果を一般の方に広めるために、工夫されていることはありますか。

回答例えばアタックZEROのサイトも、少し読み進めていくと今日お話しした技術や環境への取り組みのことが見られるようになっています。また、今はコロナ禍でできていませんがSDGsを学ぶひとつの機会として、私どもの活動を学校でお話しさせていただく機会を設けています。

質問4排水について何か取り組まれていることはありますか。

回答洗剤の開発においては、活性剤の生分解性を必ず確認しています。ただ、マイクロファイバーの課題はまだまだこれからだと思っています。生地を痛めない洗い方などを検討できたらとは思いますが、洗濯機メーカーさんや繊維メーカーさんとも協働しながら、もっともっと考えていきたいと思います。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)