市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。※各回の講座については、曜日、開催時間が異なりますのでご確認の上お申込みください
オンライン講座 無 料

パート2 企業が取り組むサステナビリティ

野遊びSDGs

日 時 10/27 18:00〜19:15
後藤 健市
後藤 健市

株式会社スノーピーク地方創生コンサルティング 代表取締役会長

「野遊びSDGs」とは、野遊びの持つ力や効果を活用し、国際目標である17のゴール・169のターゲットを実践する取組のことです。野遊びで地域に持続的かつ自力する経済活動であり、日本の特に地方部にある豊かな自然資源を活用し、日本から地球全体を豊かにする取組を実例とともにお話しします。

講座ダイジェスト

意識が変わると見方が変わる

私は2000年頃から場所論と文化論を組み合わせて地域をデザインする、場所文化デザイナーとしてまちづくりに取り組んできました。それが今取り組んでいる「野遊びSDGs地方創生」につながっています。私は場所・自然と人、人と人の豊かな関係が生まれ、楽しい・豊かな時間が過ごせることを「ハレ」の場と呼んでいます。まちづくりとは「ハレ」の場づくりであり、真に豊かな地域、社会、世界を創生するためのきっかけを、言葉・景観・関係にこだわって仕掛けることが大切です。

このように考えるきっかけとなったのは、私の幼少期にあります。育ての親である父方の祖父と暮らした経験です。祖父は3歳から全盲でしたが、そのことを否定的に話すことは一度もありませんでした。祖父の座右の銘は「愛盲」で「見えないことは私の個性」と語り、その姿から全ての今を受け入れることの大切さを学びました。また、一緒に暮らしていた北海道十勝の景色を祖父が見られなかったことで、景観を眺められることは当たり前ではなく特別なことなのだと考えるようになりました。言葉と関係にこだわるのも同じです。愛盲の祖父にとって言葉のパワーは偉大。ネガティブな言葉ではなくポジティブな言葉を積極的に使うことで、意識、そして行動が変わることを学びました。

また、祖父が人と接し社会の中で幸せに生きられるのは、祖父が社会を信頼し自ら行動しているからだと知り、関係は自分から作ることができると考えるようになりました。日本人はとても謙虚なところがあり、自分の町には「何も無い」と口にします。それを「余計なものは何も無い」と言い換えるとどうでしょう。マイナスな部分を見つけて文句を言っているだけでは何も変わりませんが、現状を受け入れ言葉をポジティブにするだけでものの見え方は変わるはずです。この意識を持って地域に新たな価値を見出し、それを“野遊び創生”で活かして地域内外の人と楽しさや感動を共有することが私の活動の軸となっています。

全ては「人」から磨かれる

スノーピークの山井太会長は「好きなことだけやって経営している」といつも話しています。人は好きで楽しいことであれば、わざわざやってしまう生き物です。そのため「遊び」こそ人間としての“根源的な創造の行為“と捉え、野遊びSDGsでも好き・楽しいといった“遊び”にこだわることを大切にしています。実際、スノーピークは地域の本質的な価値を再構築するための取り組みとして、高知県の越知町でキャンプフィールドをつくりました。草や森林を整備してステイできる場所や食事、季節のアクティビティを「好き」にこだわって用意することで場所の価値を一気に変えることができたと思います。このように日本には世界に誇れる魅力が沢山あります。地域の個性が強ければ強いほど、人はわざわざ足を運びたくなるので、その意識を持って様々な仕掛けを用意することが重要です。

また、地域の個性や魅力を磨きあげるために最も大切なのは「人」の存在です。皆さんがよく行く場所にも人とのつながりがありませんか?人は人との関係性ができると、そこが自分にとっての内なる場所になり何度も足を運ぶのだと思います。だからこそ、地域の活性化に関わる人の質を高めることがとても重要です。私は志を共有できる「志民になろう!」という言葉を使って、人や場所は人でしか磨けないということを伝え、自分たちの意識から変えることの重要性を伝えています。

「地域の未来はどうなるのか?」ではなく「地域の未来をどうするのか?」という自主と自立・自律。地域創生に最も欠かせないのは「人」であり、その「人」が夢と覚悟と仲間を持つことが重要です。それがあって初めて、課題を解決したり世界に対してグローバルバリューを提供したりできるのだと思います。SDGsも同じで、まずは自分たちから意識を変え行動することが大切です。野遊びが様々な分野で展開できるように、野遊びSDGsも地域だけでなく企業や団体、人と関わり合って現場でのアクションを増やしていきたいと考えています。

グローバルな視点を当たり前に

約140年前、英国の旅行家であるイザベラ・バードは日光東照宮を見て「神殿の美しさは、西洋美術のあらゆる規則を度外視したもので、人を美のとりこにする」と話しました。約170年前、米国の駐日総領事であるタウンゼント・ハリスは漁村を見て「ここは小さくて貧寒な漁村だが、人々の身なりはさっぱりしていて対応も丁寧である。不潔さが少しも見られない」と話しました。世界を知る当時の欧米人は、東の端にある小さな島国が世界で最も上質な生活をしていることに、驚き、尊敬の眼差しを向けていたことがわかります。現代でもこのことをきちんと意識して地域にどんな価値があるのか考えることはとても重要です。

一方、日本では少子高齢化が進み市町村が消滅するのではないかと嘆かれています。しかし実際のデータを見てみるとイギリスやフランス、イタリアなどの先進国トップの欧州には日本よりも人口が多い国はないことがわかります。つまりそれぞれの国に人を魅了する場所があるように、日本も人口の数ではなく質を高めれば世界中から人を呼ぶことができるということです。それには内側のマーケットだけじゃなく外側のマーケットを意識した戦略と、バリューではなくグローバルバリューを使うなどといった、言葉から意識を世界に向けることが大切です。

ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが「MOTTAINAIもったいない」という言葉を広めたように、皆さんにも日本にある特別な価値を見つけ地域のプライドを創出し、真の地域ブランドの構築につなげて欲しいと思います。例えば田舎だから自然と人、人と人が濃くいい仲を意味する「Iinaka=田舎・良い仲」など言葉遊びから世界に発信していくのはどうでしょう。トーマス・アルバ・エジソンは2万回の失敗(ステップ)を繰り返し、白熱電球を発明しました。皆さんにも失敗という言葉ではなく、成功するまでの未成功だという言葉を使って常に成長するための行動を続けていただきたいと思います。まずはあなたの地域のモッタイナイ資源と、そこから何ができるのかイメージしたものを仲間と話すところから、始めてみてください。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)