市民のための環境公開講座 2020

市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。
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パート2 未来へバトンをつなぐ“お買い物”

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11/17 18:30 〜 19:45

楽しく取り組む「捨てない」暮らし

服部 雄一郎 氏

服部 雄一郎

翻訳家

田村 陽至

田村 陽至

パン屋

講座概要

ごみや無駄を減らす「ゼロウェイスト」関心を持つ人が増えています。暮らしの中でゼロウェイストやプラスチックフリーに取り組んでいる翻訳家・服部雄一郎氏と、皆が喜ぶ美味しいパン作りに取り組み、パンが売れ残ることのない「捨てないパン屋」田村陽至氏の対談を通して、無理なく、楽しみながら廃棄物削減に取り組む姿勢を学びます。削減の第一歩をどう始めたらいいかわからないという方に聞いていただきたい、ちょっと目先を変えるお話です。

講座ダイジェスト

進行 |鴨川 光(日本環境教育フォーラム)


進行今日はありがとうございます。まず、お二人の自己紹介と活動のきっかけを教えてください。

服部高知の山の麓から参加させていただいております。服部雄一郎です。現在は、高知でカフェを営みながら、翻訳家・文筆家として活動していますが、以前は神奈川県の葉山町役場で廃棄物担当職員として働いていました。29歳の時に子 供が生まれ、舞台芸術の仕事から地元でできる仕事を探し役場に転職したことが始まりです。それまで、ごみ問題に無関心だった僕は必死に勉強を始め、その一環として分別やコンポスト(生ごみや落ち葉から堆肥をつくる容器)を使った生活に取り組みました。すると、驚くほど燃えるごみが出なくなり、その衝撃と多額の税金を使って処理されるごみの実態から、僕はごみの仕事に夢中になりました。

次第に関心は海外のごみ政策へと広がり、30代半ばでアメリカのUCバークレー公共政策大学院にごみ政策を学びに留学。その後は、廃棄物NGOのスタッフとして南インドに滞在し、発展途上国のごみの現状を目の当たりにしました。日本に帰ってからは、自分自身がよりシンプルで自然な暮らしを送りたいと思い、2014年に家族で高知へ移住することを決めました。拠点を変え、エコロジカルな暮らしを試行錯誤する過程で、ベア・ジョンソンさんの「ゼロ・ウェイスト・ホームーごみを出さないシンプルな暮らし―」という本に出会い、それが新たな転機となりました。それまで、ごみを減らすことは役所の仕事だと考えていたましたが、アメリカに住むベア・ジョンソンさんは家族4人で1年間に1Lしか燃えるごみを出さない生活を送っていたのです。本の内容に感激した僕は、「ぜひこの本を日本に紹介したい」と出版社に持ち込み、翻訳家としての一歩を踏み出しました。今も別の本の翻訳に取り組みながら、ごみや暮らしに関する話を書いたり、講演したりしています。

田村広島市で「ドリアン」というパン屋を営んでいます。田村陽至です。パンを捨てないパン屋として紹介していただいていますが、お伝えしたいのはパンを捨てないために工夫しているのではなく、自分自身がもっと豊かになりたいと働き方を変えたら、結果的にパンを捨てなくなったということです。「豊か」のイメージは人によって異なると思いますが、僕はお金と時間と、良いパンを作って喜ばれること、この3つが叶えられる方法を探しに妻とヨーロッパに修行に行きました。そこで学んできたのは、「手を抜く」という方法です。

修行に行ったオーストリア・ウィーンのパン屋さんでは、朝8時にパン作りが始まり、午前中には仕事が終了していました。なぜかというと、製法も発酵も手を抜いているから、仕事がすぐに終わるのです。でも、味は日本で食べたどこのパンよりも美味しい。その秘密は、材料にありました。材料にこだわる代わりに、製法や発酵といった職人の自己満足の部分は一切排除して、労働時間を短くしていたのです。目から鱗でした。しかし、実際に働いてみると、良い材料を使って手を抜く事で人件費が抑えられ、同時にパンの価格も抑えられ、職人は自由な時間が増えるので良い事尽くし。自然とお客さんにも喜ばれる、儲かる商売のループが生まれていて、僕はそれをそのまま日本で応用しました。「ドリアン」では、材料にのみこだわり、カンパーニュという田舎パンだけを古くてシンプルな製法で作っています。目先の売り上げを優先してパンの種類を増やすのではなく、1種類しか作らないことで無駄をなくし、常連さんにカンパーニュの美味しさを届けることを追求しています。

進行おふたりのごみを出さない、捨てないということの根本には、暮らし方や働き方によるライフスタイル・シフトが影響しているようですね。いただいた質問を交えながら、さらに詳しいお話を伺えればと思います。

今の当たり前は、心地よいだろうか?

進行おふたりへ、今の暮らしのどんなところに不便さを感じていますか?という質問がきています。また、やめられないプラスチック製品についてもお話しいただけますか?

服部不便さは感じていません。都会的な暮らしを継続しようとすると、不便さを感じてしまうかもしれませが、やり方を変えると便利・不便の概念が変わると思います。今日の講座は「捨てない暮らし」がテーマですけれど、ごみを減らすための我慢ではなく、自分にとってより楽しいやり方を見つけてアップデートしていくことが本質だと思います。工夫するために固定概念や思い込みを見直すことは常に新しい発見があって、どんどん自由になっていく感覚があります。ごみを減らすために工夫したことが結果的に物事をwin-winにする。全部が良い方向へいくことが、暮らし方を変える上で重要なキーワードだと思います。

田村僕も、ごみをなくすために我慢しているのではなく、やり方を変えることでむしろ進歩している感覚があります。例えば、僕は服部さんのブログを読んで、お店のスポンジを全部ヘチマに変えたのですが、別に暮らしをグリーンにしようとしているのではなく、ヘチマの方が便利だと思ったからです。丈夫だし、肌へのあたりも優しいし、汚れは落ちるし、長持ちするし。捨てる時もコンポストに入れられるので罪悪感がなくて、心地よいです。昔のやり方を試して今を変えていくことを、僕はレトロイノベーションと呼んでいるのですが、我慢や後退をしているのではなく、良いことが連鎖して進歩しているイメージです。

進行考えてみれば、プラスチックがこれだけ普及したのも最近ですよね。今の暮らし方、働き方が当たり前と思っているだけで、もっと自分に合うものがあるのかもしれません。

服部家電製品や子供が学校で使うものは、プラスチックフリーにするのが難しいですね。なんでもかんでもプラスチックフリーにしようとすると、疲弊してしまうので、僕は諦めることも時には健全な選択だと思っています。例えば、スーパーで使用されているプラスチックのパッケージは、自分個人では修正できないもののひとつです。そこでくよくよするのは生産的ではないので、スーパーのパッケージを今すぐゼロにしたいという気持ちは諦めて、できる範囲で買い物を肉屋さんやパン屋さんに変えるなど、自分が選択・修正できる範囲で行動しています。

進行ごみのことを気にしだすと、ついついごみを出している人を責める気持ちになってしまうことがあります。でも、それによってごみの問題に対するモチベーションが社会全体で下がってしまったら、本末転倒ですよね。

田村一番良いのは、ごみを出さない暮らしがいかに快適か、効果を見せることだと思います。自分の話をすると、「ドリアン」はパンを捨てないことで売り上げが伸びているのですが、それがもしパンを捨てていないけれど売り上げもイマイチとなってしまえば、周りの人を巻き込んでいくことは難しい。大衆は、かっこいいとか儲かるとかそういうことで動くものなので、楽しんでやること、その効果を見せることが大事だと思います。

服部僕も子供が3人いるのですが、子供にごみを減らす快感を伝えることは難しいなと思います。夫婦だけだったら、もっと成果を出せるかもしれませんが、子供にとってはごみを減らすことよりも新しい物による刺激や、人と同じものを使う喜びを感じることの方が大切かもしれないし、それは責められません。世の中には色んな価値基準があって、ごみを沢山出したからといって、即、人生の価値が低いわけではありません。人それぞれ色んな大変さを抱えているので、成功事例だけを見るのではなく、なぜ上手くいかないのかを考えることが大切だと思います。

余白から新しいヒントが生まれる

進行おふたりは、海外から新しい視点を持って帰ってきていますが、それによって日本で感じた違和感などはありましたか?

服部海外に出ると、言葉やバックグラウンドが全く異なる人が同じ空間にいて、そこには多様性があるので、やっぱりもっと自分らしくあっていいと思いました。日本では、自分だけがマイ容器を持つことにためらいがあったけれど、海外では全く感じません。自分の信じる道を進んでいいと、強く思う経験になったと思います。

田村日本は、惜しいなと思います。日本人はすごく真面目に丁寧に仕事をするので、ヨーロッパの職人の世界ではとても重宝されます。それにかけるエネルギーをもっとバランス良くして、心のゆとりに繋げられれば、よりいい方向に行くと思います。環境問題や社会問題も、考える余裕ができるし、それを作ることで色んなことが変化するのではないでしょうか。

進行最後に、これから行動したいと思っている方々に向けて、メッセージをいただけますか?

服部僕自身、こういった講演に参加しながら、環境やごみに関するイベントが増えている事に希望を感じます。楽しみながらより環境負荷の低いものを選択していけば、社会はより楽しい方向、良い方向に進んでいくと思うので、皆さんには我慢や義務ではなく、楽しいという実感を大事にして取り組んでいただきたいです。

僕は最近、マインドフルネス=今、この瞬間、当たり前のことをより大事にすることを心がけています。食べ物を口にした時も、その食べ物のエネルギーが体に広がっていくイメージを持つと、不思議と地球の問題と自分が一体化しているように感じられます。日常生活のなんでもない事に意識を向けると、可能性も広がっていくので、自分自身もそうやって生きていきたいと思っています。

田村マインドフルネスや瞑想は、とても良いと思います。心を穏やかにするためには、雑念を振り払って、本当に大切なものだけに集中することが大切です。自分がやりたいことだけに仕事を絞ったり、身の回りを整理して目の前のことに集中すると、新しい気づきも生まれます。

ヨーロッパでは、仕事より家庭を大事にすることが当たり前で、暮らしの糧を得るために仕事をしています。自分も含め、日本人は物事をもっとシンプルに考えて、生まれた余白を大事な人と過ごすことに使ってもいいのではないかなと改めて思いました。

進行本日は有意義なお話をいただきありがとうございました。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)