市民のための環境公開講座 2020

市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。
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11/9 18:30 〜 19:45

新しい資源循環の道を目指して
アフターコロナの新しい選択

細田 衛士 氏

細田 衛士

中部大学
経営情報学部長・教授

講座概要

資源を循環利用し、徹底的に節約することは、新しい社会にとって避けられない選択です。天然資源のピークアウトや廃棄物処理費用の上昇を考えた時、使用済み製品・部品・素材を再使用・再生利用することは合理的ですが、具体的に実践する際、話は俄然難しくなります。今回のような感染症のパンデミックの発生により対応の仕方が大きく異なるからです。ここでは、アフターコロナの状況を見据えながら、新しい資源循環のあり方を模索します。

講座ダイジェスト

新型コロナウィルスによって変化する社会

新型コロナウイルスによるパンデミックが経済活動に与える影響は大きく、今の社会は非常に複雑な状況にあります。私たちは、アフターコロナの状況を見据えながら、新しい資源循環への道を模索する必要があるでしょう。ここで忘れてはならないのは、人間は長い歴史の中で、何度も疫病を乗り越え、折り合いをつけながら時代をつないできたという事実です。1348年に大流行したペストの致死率は30〜60%に及び、ヨーロッパの村や町に壊滅的な影響を与えました。しかしその最中に、のちにヨーロッパの転換期と呼ばれることになる文芸復興、ルネッサンスが生まれ、宗教改革、そして市民社会の成立に連なりました。19世紀以降、アジアを中心に何度も蔓延したコレラは、日本でも10万人以上の死者を出した感染症であると同時に、その原因が飲み水であることが解明されると、公衆衛生の概念を世界にと広げるきっかけになりました。私たちも今、アフターコロナをどう生きるかが問われています。私は今回の試練を、ビジネスと環境が両立する資本主義=グリーンキャピタリズム(緑の資本主義)に転換する契機と捉え、資源の高度な循環利用を経済に組み込む必要があると考えています。

実は、すでにそうした動きが日本でも起こっています。新聞を読むと、コロナ禍によって増加した小分けトレーをきちんと回収し、リサイクルに繋げる仕組みや、食品ごみを容器包装に再生しようという新たな流れが生まれていることがわかります。また、増え続ける廃プラを減らすために、紙や新素材を用いた容器に注目が集まっていたり、マイボトルを普及させるために街中に無料給水機を設置する動きも見受けられます。しかし、一筋縄ではいかないのが環境問題の難しいところです。マイクロプラスチックは、衣服やスポンジなどの合成繊維を洗うたびに発生することがわかっていますが、天然素材に切り替えるにしても、例えば綿花を育てるための大量の水が必要となり、水資源の使いすぎに繋がってしまう懸念があります。また、コロナ禍による原油安によって天然資源の価格が低下したことで、リサイクルするよりも天然素材を使って一から生産した方がコストがかからないといった経済のメカニズムによる問題も発生しています。私たちが、多くのプラスチックを使用していることは事実ですが、それを新素材に変えたからといって、全ての問題が解決されるわけではないのです。

経済と環境のバランス

OEDCの報告書によると、仮に全てのプラスチック容器包装類を他の素材に変えても、二酸化炭素の排出量は増加してしまうと伝えられています。例えば、容器包装を新素材に変えたことで重量が重くなった場合、それを運ぶためのエネルギーが余計にかかることになったり、プラスチックの代わりに古紙の利用が増加したりすることで、古紙のリサイクルが滞る可能性もあります。また、一言に「余計なプラスチックは使わない」と言っても、何をもって要・不要を判断するか明確な基準を設けることは意外に難しく、環境と経済どちらにも俯瞰的な視点を持って議論を重ねる必要があります。

資源の循環利用の基本は、廃棄物処理の優先順位(Waste hierarchy)である発生回避→リユース→リサイクル→熱回収→適正処理・処分の順番で消費を見直すことから始まります。余計なごみの発生を回避することが最も重要であり、その上で資源を使い捨てるのではなく何度も使用し、大事にできる仕組みを築く必要があります。後半は、その仕組みを築くためのより具体的なお話をさせていただければと思います。それではここで、参加者の方から質問を受け付けたいと思います。

質問1過去に行われた廃プラの研究は、現在の循環経済の構築に生かされているのでしょうか?

回答廃プラについては、廃棄物処理の優先順位(Waste hierarchy)の4番目である熱回収が、主な処理方法として進められてきました。その理由のひとつは、生産者側によるところが大きいと思います。発生回避は、使う人だけではなく作る人の意識が非常に重要で、生産者側が聞く耳を持たずに生産を続けてしてしまえば、自ずと熱処理をしなくてはいけなくなります。つまり、研究の成果というのは、社会的なプレシャーがあって初めて社会に生かされるということです。日本でもようやく廃プラが大きな社会問題となり、国や企業の動きが盛んになってきていることから、今後次第に研究の成果が生かされていくのではないでしょうか。

質問2資源を使用する前提で循環経済を考えた時、こういう要件を満たしていればこの素材の方が良いといった明確な基準はありますか?

回答正直に申し上げると、瞬間的にどちらがいいかと判断する基準を作ることは難しいと思います。素材は、作るにも、運ぶにも、処理するにもエネルギーが必要となり、そこには経済の問題も絡んできます。ひとつ言えるのは、どんな素材のものでも繰り返し使い続けている限りはごみにならないということです。なるべく多くの資源を使用する必要がないように、代替資源よりも発生回避の方向で考えることが解決の一歩だと思います。

「三方よし」が新たな価値となる

循環経済やコロナ禍の問題からもわかるように、環境・資源、経済、社会の3つは繋がりあっており、その全てが健全(トリプルウイン)であることが今後の社会にとってとても大切です。日本には、近江商人の「三方良し」という考え方があるように、買い手と売り手だけでなく、世間や社会にとって良い影響を及ぼすことが何なのかを考え、それを経済と結びつけることがより強く求められると思います。内閣府の調査によると、1977年頃から物の豊かさよりも心の豊かさを求める人が増えていることがわかります。この流れは、少子高齢化やコロナ禍によるライフスタイルの変化によって、さらに加速するでしょう。

モノからコトへと消費対象が変化すると、自ずとひとつひとつの付加価値を高める高付加価値経済化が進み、市場化されていなかった付加価値への重要性が高まります。ここ数年でESG投資への注目が高まっているのも、この動きを新しいビジネスチャンスとして捉える人が増えていることが要因だと思います。また、環境とビジネスを調和させ、そこに価値が生まれることで、新たな雇用が創出されます。緑の資本主義は、日本の環境技術を生かすチャンスであり、私たちは常に自分なりの視点を持ってSDGsを考え、正しい経済社会を模索する必要があります。経済と環境・資源と社会は相互に繋がりあっているからこそ、全体のバランスを考えながら行動することを忘れてはいけません。

質問3格差の排除と経済発展を両立するには、市場化できない付加価値を高める必要があるのではないでしょうか?

回答その通りです。私は日本や日本人には、その力がまだまだあると思っています。アメリカ人の友人に「日本の街はどこも綺麗で、格差があるように感じられない」と言われたことがあります。考えてみると、海外に比べて確かに日本は街全体が衛生的です。その事実自体は、お金になりませんが、SDGsの11番「住み続けられるまちづくりを」には繋がっていることがわかります。今回のコロナでも、日本人は個人よりも共同体を意識することが明らかになりました。日本人がマスクをするのは、空気を読むからで、それは社会を良くするひとつの手段です。私たちが気づいていないだけで、日本には市場化できていない価値が沢山あるのではないでしょうか。

質問4先進国と途上国で追っているゴールが異なる中、モノからコトへの転換をグローバルで進めることはできるのでしょうか?

回答日本人が多くのものを欲しがった時代があったように、今、途上国でも物質的な豊かさを求める動きがあります。しかし、同じ軌跡を歩む必要はなく、現代だからこそ知恵を出して資源を大切にしながら発展していく方法を模索することが可能です。途上国で、そのような仕組みが実現できれば、それは新しい価値であり、グローバリゼーションの波の中でなるべく資源の無駄をなくす流れを社会システムや経済システムとして構築していくことが先進国の使命だと思います。

質問5アフターコロナの中で循環型経済を実現するには、私たちは何をしたら良いのでしょうか?

回答企業の方には、「SDGsの17の目標のうちどれが一番自分たちと関係があるのか考えてみてください」とお伝えしています。個人の場合でも、同じように何が自分にできるのか考えてみることが良いのではないでしょうか。中でも、食品ロスは誰でも取り組める目標です。国際連合世界食糧計画(WFP)が平成26年に行なった食糧支援の量は320万トンだったのに対し、日本が平成29年に廃棄した食品ロス量は612万トンでした。私たちは途上国などに支援される倍の食糧を、捨てているということです。新聞を読むと、自分たちができることと社会がどう繋がっているかがわかるので、ぜひ行動と社会を繋げて考えてみてください。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)