市民のための環境公開講座 2020

市民のための環境公開講座は、市民の皆様と共に環境問題を理解し、それぞれの立場で具体的に行動することを目指します。1993年に開講し、SDGsやサステナブルをキーワードに毎年開催しています。
全9回 オンライン講座 無料

パート3 サステナブルなライフスタイル

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11/24 18:30 〜 19:45

お花屋さんからみた「サステナブルなライフスタイル」

福寿 満希 氏

福寿 満希

株式会社LORANS.
代表取締役

講座概要

植物×社会課題を軸とする原宿のフラワーショップ&カフェ、ローランズのサステナブルな取り組みとは。花の再生紙、キャンセルフラワー、エシカル花束やブライダルなど、花から始まる資源の循環やエコサイクルを目指しています。また、誰も排除せず多様な人々が活躍する社会を目指す東京都国家戦略特区との連携プロジェクト「With Diversity Project」についてもお話いたします。

講座ダイジェスト

社会的役割を基盤としたお花屋さん

私は、LORANS.(ローランズ)という千駄ヶ谷のカフェを併設したお花屋さんを中心に、天王洲アイルのお店と原宿のアトリエ、合計3つの拠点で社会的役割を基盤としたフラワーショップを運営しています。「誰もが自分色に花咲く社会を作る」というミッションと「マイノリティ当事者の雇用格差を解消し、子どもたちの未来の働く場を創出する」というビジョンを掲げ、障がいや難病等と向き合う人々を積極的に雇用しています。現在では全60名のうち45名の障がい当事者のスタッフが活躍しています。業務としては、店舗でのお花の販売以外に、法人向けフラワーギフトやブライダル装花の制作、観葉植物のレンタル、ビル周辺の植栽の管理などを行なっています。また、私たちは花や緑を通じて、人や自然環境(地球)に働きかけることをサービステーマとしていることから、フラワーロス(お客様の手に渡ることなく、花が廃棄されること)を削減するための取り組みにも挑戦しています。

 

こうした自然環境への働きかけは、2014年、廃棄されたカーネッションから繊維を抽出して、再生紙を作ったことから始まりました。フラワーロスは注目されて間もないため、正確なデータがありませんが、廃棄量は年間約610万トンとされるフードロスを上回ると言われています。私たちは、今回の新型コロナウィルス対策の情勢で結婚式や卒業式、イベントなど沢山の花の注文がキャンセルになったことを受け、「今頑張る人に届けたいキャンセルフラワー」としてクラウドファンディングを募り、医療従事者の方や結婚式が延期になった新郎新婦へお花をお送りさせていただきました。同時に、お花と共に大量に余ってしまったラッピングペーパーを利用してマスク作りにも取り組み、お花のギフトと一緒に販売をさせていただきました。今後も、フラワーロスを解決するために、農家直送型のフラワーサービスの展開やラッピングペーパーをお花の再生紙で作るなど花が循環する仕組みを作ろうと準備を進めています。後半では、なぜこういった活動をしているのか、私がローランズを立ち上げるまでのお話をさせていただきたいと思います。

「雇用を生む」という社会貢献

中学時代から硬式テニスに熱中していた私は、大学でスポーツマネジメントを学び、卒業後はスポーツマネジメントの会社に就職しました。そこで、プロ野球選手のマネジメントの一環として、選手の社会貢献活動の企画運営に携わり、ソーシャルビジネスという言葉に出会いました。社会貢献と仕事が一体となった働き方に深く共感し、ずっと続けてきたスポーツ以外の分野でも、自分にできることはないかと考えました。学生時代に植物と心の勉強をしていたことと、自分自身がお花屋さんに癒しをもらっていたことを理由にフラワービジネスの勉強を始め、23歳の時に会社を離れました。当時は、本気で「沢山の人にお花を届けることができれば、日本のストレスはなくせる」と考えていましたが、途中で他のお花屋さんと何も変わらない仕事をしていることに気がつきました。

それから、徐々にお花の再資源化や障がい者施設へのフラワーレッスンといった活動を始め、すぐに障がい者雇用の課題を目の当たりにしました。日本の総人口1億2623万人に対して、何らかの障がいを抱える当事者は約936万人。そのうち働ける世代は約388万人ですが、正規雇用者は、わずか14%。この状況を改善するために、従業員46人につき1人は障がい者を雇うことを民間企業に義務付ける障がい者法定雇用制度がありますが、この義務を達成している企業は半分を下回り、1人雇用できていないごとに発生する罰則納付金は年間約300億円にも及びます。

私は以前、上司に掛けてもらった「1番の社会貢献は雇用を生むこと」という言葉を改めて痛感し、2016年、花や緑の仕事を通じた障がい者雇用を実際にスタートしました。始めは上手くいかないことも多く、ジレンマを抱えていましたが、雇用したスタッフから「仕事を用意してくれてありがとう」という真っ直ぐな言葉をもらい、私自身が励まされ、当事者の雇用を増やしていくことが自分の役割だと思うようになりました。同時に、私は当事者の「働く幸せ」について改めて考えました。私の考える「働く幸せ」とは、仕事を通して経験や成果に感謝されることで生まれる「愛される喜び」にあると思います。そのためローランズでは、安心して働ける環境づくりと自己肯定感を高める仕組みを探りながら、労働環境の改善に努めています。

誰もが花咲く環境を目指して

初めは、雇用した障がい当事者を支えるスタッフの負担が大きくなり、双方の離職に繋がってしまうほど、職場環境が悪化したこともありました。障がい者雇用に積極的に取り組める環境を整えるには、障がい当事者だけでなく、一緒に働くスタッフの働きやすさも同時に考えることが必要でした。私は、残ったスタッフたちと話し合い、ここで働く一人一人が戦力であるという認識をお互いに持ち直し、誰かが仕事をやり切れないと思った時、その仕事を代わるのではなく、どうしたら最後までやり切れるかを一緒に考える環境を作ることが重要だと、考えを改めました。そうして私たちは、障がいを「働く上で壁になるもの」と捉え、当事者だけでなく介護や子育てで悩むスタッフも含め、お互いの「壁」を共有し、カバーする文化を育んでいきました。

その延長に、ローランズは10の職種を設け9回までジョブチェンジできる仕組みを実現しました。障がい当事者の方は、一般的にデータ入力やお掃除といった仕事がメインになり、選択肢が多くありません。そのため、仕事の内容や環境が合わなかった場合、仕事を辞めざるを得なくなってしまいます。私たちは社内に少しずつ部署を増やし、ジョブチェンジを通して自分に合った仕事を見つける環境を作りました。この取り組みによって、スタッフの定着率が上がり、仕事を失わずに済むスタッフを増やせたと思います。また、現在は行政と一緒に、障がい者雇用の取り組みに関わらせていただいており、障がい者雇用の促進を目指すウィズダイバーシティプロジェクト・LLPとして、中小企業の障がい者雇用の推進に取り組んでいます。お花を軸に環境問題や雇用問題に取り組んだ時、異なるものを組み合わせることで新しい価値が生まれるという経験を沢山させていただいたので、これからも組み合わせを意識しながら社会活動を続けていきたいと思っています。何か新しい活動をしてみたいなと考えている方も、ぜひ新しい組み合わせを探すアンテナを立てながら、毎日を過ごしてみてください。自分だからこそできる方法で、自分自身が花咲き続ける社会手段を見つけらたらいいなと思っております。

質問1ジョブチェンジのお話がありましたが、事業はどのように増やしていったのですか?事業ニーズから増えていったのか、雇用ニーズつまりスタッフに合う仕事を用意する形で増えていったのか教えて欲しいです。

回答どちらの場合もあります。事業ニーズの場合は、もともとお仕事を一緒にやらせていただいていた企業様から別のご相談をいただいて、それに応える過程で事業が増えていきました。そのため、ほとんどの事業に関連性があり、あるチームのお客様は別チームのお客様でもあります。雇用ニーズの場合は、チームが3つしかなかった頃、ジョブチェンジの選択肢が無くなったスタッフに対し、日頃の頑張りや可能性からお菓子のギフトを作る仕事をしてみないかと提案したことがあります。それはカフェ事業から派生した事業で、そのスタッフは今もドライフルーツを扱うチームでお持ち帰りのスイーツを作っています。

チームは5人になると、一番バランス良く、力が発揮できると思っているので、働く体力の問題で短時間労働のスタッフは2人で1人力と考えて、計5人力のチームをどんどん増やしているような状態です。

質問2新しいことに取り組み、それを楽しんでいくヒントを教えてください。

回答何か気になるワードを組み合わせて、まずはやってみることが大切だと思います。先日、テレビで「修行とは、修正しながら行うという漢字の組み合わせからできている」という言葉が耳に入りました。最初から答えに辿り着こうとせず、まずはやれることから始めるだけで、十分意味があるはずです。私も自宅の一角を使った起業から始まりました。今の状態を活用して、まずは始めてみること。そこから、修正しながら少しずつ進んでいけば良いのだと思います。

構成・文:伊藤彩乃(株式会社Fukairi)