市民のための環境公開講座2018 認識から行動へ。学生から社会人までが参加する学びの場。

2018年度市民のための環境公開講座は全て終了いたしました。来年度のご参加を心よりお待ちしております。

PART3 わたしたちの暮らしをシフトする

レポート

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市民工房=ファブラボから始める解決モデル 〜専門家にならないススメ〜

問題が解決されないのは問題が複雑だからではなく、改善を繰り返すばかりで、解決そのものを目指さないからではないか。この考えから私は、鹿児島の廃校に電気をほぼ自給し、雨水を使い、薪で生活できる日本最大級のファブラボ(市民工房)、ダイナミックラボを作りました。
全ての人は「自身の専門分野以外、専門家ではない」ので、専門家ではない私たちが自身の問題を解決するためのシステムを作る場所が、ダイナミックラボなのです。

テンダー(小崎 悠太) 氏

鹿児島でエネルギーの自給自足生活

テンダー(小崎 悠太) ヒッピー


講座ダイジェスト

お金と環境負荷がかからない暮らし

私は、鹿児島県南さつま市の山の中に住んでいます。年一万円という家賃の家に、ソーラーシステムを作り、山水を引き、燃焼効率の良いロケットストーブを作り、極めてお金と環境負荷がかからない暮らしをしています。

生まれは横浜。父親が原発関連事業に従事していたことから、原子力エネルギーは夢のエネルギーだと説明されて育ちましたが、坂本龍一さんが青森県六ヶ所村について言及し始めたのを機に勉強を始めると、父の話とは全く違う現実があることを知りました。とうとう原子力エネルギーについての議論が親子喧嘩に発展し、家を飛び出し青森県の六ヶ所村に一年間住んだのが23歳。その後、西日本をスケートボードで旅するなどお金がなくても生きていく練習をし、今度は、独力で稼ぐ練習をしたりを経て、2010年、27歳の時にアメリカで、北米先住民の技術を学ぶ「トラッカースクール」に参加しました。そこで、棒の投げ方から、水の濾過の仕方、罠のかけ方、シェルターの作り方、歩き方などを習い、国内を放浪しながら修行。その後、鹿児島に住み着きました。

ところで、この先住民技術は、すでに数万年間伝承されているわけで、数万年の間、地球を破壊さない技術であることが証明されているわけです。そして、これからも破壊することはないでしょう。一方で、現代の多くの技術はどうでしょうか。それを立証するには多くの年月が必要ですが、今の地球に起きている様々な問題を解決するためには、この先住民技術から始める必要があるのではないでしょうか。しかし、人類は、それが良いからと言って前の時代に戻ることはしません。常に先に向かうものです。山ごもりを何回したって地球が救えるわけではないことを感じ、私は、その後、自然環境保全のためには林業政策が重要と考えて政治に参画するために選挙を手伝ったりスピーチライターをしたり、メディアに影響を受けやすい日本人の国民性を考え、メディアにアプローチするために、意図的に山で自給的な生活を送り、テレビに特番を撮ってもらうなども試みました。

作りたいモノが、自分の問題解決策

全ての人は、自分の専門以外のことについては専門家ではないのですから、専門家が問題を解決すると思い込んでいると、自分の身に起こるほとんどのことを自力で解決できなくなってしまいます。

33歳の時、私は地域の自治会長になりました。その時、少子化でできた廃校を借りて、誰でも3Dプリンターなどの工作機械を使って自由にモノ作りをすることができるファブラボ(市民工房)・「ダイナミック・ラボ」を作りました。

例えば3Dプリンターは今では3万円程度で購入できます。日本では、これでオモチャばかり作ろうとしますが、海外では必ずしもそうではありません。個人で産業機器さえも作れるわけですから、私は、これは世界を変える道具だと捉えています。

世界のエネルギーの7〜8割は物流と輸送に使われていると言われていますが、3Dプリンターの場合、データのアップロードとダウンロードだけですから、物流に関わるエネルギーの量に雲泥の差があります。

ファブラボに来た人に「何を作りに来たんですか?」と尋ねると、十中八九「何作ろうかな…」となってしまいます。日本では、専門家に任せる考え方が強いために、こうなってしまうのだと思いますが、私が思うに、「物を作る」というのは、自分が自分の解決者であることを恃む姿勢そのものなのです。逆説的に言うならば、委託し続けた文化では自分が何を作ればいいのか、問題の当事者として何が必要なのかが自分ではわからないのではないでしょうか。
3Dプリンターに必要なソフトや設計データは自由にダウンロードできる物がたくさんあります。かつて、設計図やノウハウなどの情報は、他者には公開せず、知的財産として秘密にしたがるもので、コピーは劣化に繋がるという考え方です。これに対して「オープンソース」の世界は、ソフトや情報を公開します。人々が使うことで改良の手が加わり、自分でやるより早く良いものにバージョンアップしていく…つまり、コピーによる進化が起こるのです。

こうして私たちは、製造に必要な金型を自分たちで作り上げ、ペットボトルやプラゴミから美しいプラスチック製品を完成。これが結構なヒット商品になっています。そのため、地域で捨てられるペットボトルやプラゴミがどんどん回収されるようになりました。人々に環境教育をして賢くなって貰って、解決法を考えて貰いゴミを減らすのもいいのですが、ゴミを拾ってきて、それで人が欲しくなるような物を作ってお金が儲かり、同時にゴミも減る…そんな方法を自ら見つけ出す方が、ずっといいのではないでしょうか。

具体的な例では、ダイナミックラボではプレシャスプラスチックというオランダのオープンソースプロジェクトに参加していて、このプロジェクトはプラごみを拾ってきて破砕し、好きなものに作り変える機械を作るプロジェクトです。全ての機械の設計図やプラごみの特性なども公開されています。今日持ってきたマーブルタイルは、プラごみからできています。これが結構売れるので、ゴミを拾ってくる→街は綺麗になる→収入にもなる、という仕組みがダイナミックラボにはできつつあります。

人々の胸ぐらを掴んで環境教育をするのも必要かもしれませんが、ゴミを拾ってくれば儲かり同時にゴミも減る…そんな方法をひとつずつ作っていく方が、ずっと「やさしい」のではないでしょうか。

社会をヌルッと変えていく力が大切

私たちが学ぶためには、実は遊ぶことが重要です。「遊びが学びに欠かせないわけ」という本によると、世界中の狩猟民族は15歳まで遊び続け、40歳にして技術を完成させます。遊びを通して物理や、社会性や材料力学や、実にたくさんのことを学んでいるのでは、という内容の本です。ダイナミック・ラボでも、採用したスタッフが定着せずに上手く回らない時期もありましたが、今思えば、彼らが機器や材料について知識を深めるための遊びの時間が少なかったのではないかと思います。

先住民技術の歩き方に「ストーキング」というものがあります。これは20秒かけて足を上げ、空中で20秒、そして20秒かけて足を下ろす歩き方で、野生動物を後ろから触る時の技術です。足音とは、音の連続性があるから接近していることがわかるのです。相手が前の一歩の音を忘れるくらい遅く歩くことで、その足音は接近音とは感じられなくなります。つまり、「遅さ」が「強さ」になるわけで、この発想はとても重要なんじゃないか、と最近思うのです。

かつて六ヶ所村の反対運動にも加わわった私ですが、大きいことや派手なことを言って何かを速く大きく変えようとすると、既存システムと大きくぶつかります。でも、ストーキングの「遅さ」が「強さ」になるように、一つ一つをヌルッと変えていくことが、実は社会を変えていく大きな力になるのでは…そんな意識で、今、目の前の問題に取り組んでいます。

構成・文:宮崎伸勝/写真:廣瀬真也(spread)