市民のための環境公開講座2018 認識から行動へ。学生から社会人までが参加する学びの場。

2018年度市民のための環境公開講座は全て終了いたしました。来年度のご参加を心よりお待ちしております。

PART3 わたしたちの暮らしをシフトする

レポート

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SDGsについて「知る」ことで、新しい暮らしをデザインする 〜学校 × SDGsから地域 × SDGsへ〜

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:略称SDGs;エス・ディー・ジーズ)は、より良い未来を全世界で目指すために、2015年9月に国連で採択された17個の目標のことです。全世界の一人ひとりが課題を意識し、様々なセクターとパートナーシップを組みながら行動することが求められています。私たちは、この世界課題の解決に向けて、具体的にはどうしたらいいのでしょうか。学校教育にSDGsを取り入れ、自分たちにできる行動を考え、企業やNPO/NGOとパートナーシップを組みながら実施している複数のプロジェクトを紹介しながら、皆さんの地域でできるSDGsを一緒に探し、未来の暮らしをシフトさせるアイデアをたくさん考えてみたいと思います。

山藤 旅聞 氏

子どもたちと未来をつくる授業

山藤 旅聞 東京都立武蔵高等学校・附属中学校生物科 教員

持続可能な社会を目指すための行動者育成を目指したプロジェクト型・対話式双方向性教育デザインを実践している。SDGsを使った出前授業や講演を全国で行い、学校を超えて生徒が協働してすすめるプロジェクトも多数。NHK高校講座講師(2004~2017)、東京書籍教科書編集委員。東京都立武蔵高等学校・附属中学校生物科教員。未来教育デザインConfeito共同設立者。一般社団法人Think the Earth SDGs for Schoolアドバイザー。


講座ダイジェスト

一次情報に触れるとSDGsが見えてくる

最近、私は「SDGsの先生」として知られることが多くなっていますが、自分自身の想いとしては、SDGsを教えるのではなくて、SDGsを手段にして「社会課題を“自分ごと”にする」ことを生徒達に伝え、社会の本当の問題にコネクトさせたいという考えで教育活動に取り組んでいます。

例えば、今年スターバックスが使い捨てストローの廃止を発表し、脱プラスチックへの注目が一気に高まりましたが、海外ではマクドナルドも既に紙ストローへの切り替えを始め、LUSHはシャンプーやソープのプラスチック容器を廃止するなど、多くの企業が脱プラスチックに動いています。その理由は何かを理解するため、私や生徒達は現場に足を運びます。そこで、大量にプラスチックゴミが散在しているところを目の当たりにしたりや、大学の研究室を訪問して取材をすると、海鳥の体内からマイクロプラスチックが見つかった事例や、亀に絡みついて甲羅を変形させてしまったプラスチックゴミなどの現実を学びました。教科書には、地球上の物質は循環していることを示す図が昔から掲載され続けていますが、永遠に分解されずに海を漂い、或いは地上に積み上げられるプラスチックは、地球の循環サイクルに入らない物質であることを知るのです。

また、プラスチックを製品のパッケージに使う企業にも足を運びます。すると、プラスチックは便利な側面もあり、私達はその恩恵を受けていることも学ぶのです。一方、今年のG7サミットで、この問題を解決するために提案された海洋プラスチック憲章に、日本とアメリカはサインしませんでした。では、その理由は何なのかを経済産業省に確認する…など、「教科書に書いてあるからやる」的な教育に違和感を持っている私が重視しているのは、「一次情報に触れる」という点です。

生物の教科書で誰もが目にする生態系ピラミッドがあります。あの図そのものは1〜2分あれば説明できることですが、同時に、世界では一秒間にテニスコート20面分の森林が伐採されていることも教えるとどうなるでしょう。2015年のアメリカの研究論文で、「今、地球史上6回目の大量絶滅期」であることが発表されましたが、生態系ピラミッドの底辺を支える植物が激減しているこの事実、更には、このピラミッドの各段階に属するという稀な生き物=人類の数が急増していることを知れば、今が大量絶滅期であることが、現実として理解できるのです。

私たちが無関係ではないボルネオゾウのストーリー

私は、生徒達が一次情報に触れる機会を具体的に作るために、「中高生対象ボルネオスタディツアー」を4年前から実施していますが、その中で、必ず見学に連れて行く飼育施設のゾウがいます。ある問題について考えて貰うためなのですが、お分かりになりますか。

この地域では、熱帯雨林を切り開き、地平線の彼方までパーム林のプランテーションが広がっています。一体何のためでしょう?チョコレートやアイスクリーム、カレールーからポテトチップス、納豆まで、また食品以外にも洗剤や化粧品など、私たちの生活に広く使われているパーム油を採るためです。原材料に「植物油脂」と書かれているものの大半はパーム油のことを指しています。その用途はあまりにも広く、安価に生産できるため、パーム林はどんどん拡大し、そこで働く人々はとても豊かな収入を得ています。ところがその分、伐採される熱帯雨林で暮らす動物たちは住処を失い、餌を求めて人里近くに姿を現わすようになります。現地の人々は彼らを排除するために、毒バナナなどを仕掛けて毒殺、或いは銃殺します。先程お話ししたゾウは、その結果、親を子供の頃に殺されてしまって保護されたゾウなのです。ここまでの話を聞くと、このゾウへの想いが初めに見た時とは変わってくるのではないでしょうか。大量消費の裏側にあるストーリーに直接触れることで、私たちの消費にどれだけSDGsが関わっているかが理解できるのです。

2030年に向けて私たちが出来ること

SDGsのために私達ができることの一つに、サステナブルラベルのついた製品を選んで買うということがあります。今日からすぐできることですが、そういった製品は値段がちょっと高めであることが多いです。そんな場合は、毎回でなくても構いません。「大切な人に買う時には…」、「週に一回は…」などとタイミングを決めて選べばいいのです。

また、SDGsとして掲げられている17の目標の中には、169のターゲットと244の指標があります。それらを勉強して誰かに伝えるだけでもSDGsができます。

私の生徒達は、大手企業など様々なステークホルダーとの協働を行っています。若い生徒達のセンスは大人の想像を遥かに超えるものがあり、実際に企業に出向いて提案を行うこともあります。時には期待に応えられる内容になっておらず、厳しい指導を受けることもありますが、彼らはお金が欲しくてやっているわけではありません。例え怒られても、「本気でやりたい!」という想いで頑張るのです。そして、頑張る学生を大人は応援したくなるものです。私は、そんな生徒と社会の架け橋になれればと考えています。

海外に目を向けると、バリ島では、2人の中学生の活動がキッカケで島からレジ袋が消えました。アメリカで大学生が作った会社「Zipline」は、ドローンで救命医療が必要な場所へ輸血等の医薬品を届ける事業を展開しています。ヨーロッパには、途上国の縫製工場で働く低賃金労働者のために寄付を募る仕掛けの自動販売機がありますが、これも若者のアイデアで開発されました。若者達のセンスで、世界はどんどん変わり始めているのです。

2015年の「国連持続可能な開発サミット」で掲げられたSDGsは、2030年が目標達成の年と定められています。現在の状況が僅か15年で変えられるのかと思う人がいるかも知れませんが、過去を遡れば、人々が馬車で移動していたニューヨークの街が自動車に切り替わるのに約15年、ペリー来航から大政奉還までも、約15年です。15年あれば世界は変えられるのです。そんな時代に求められる教育とは何かを模索しながら、皆さんとも何かを一緒にやれたらと考えています。

構成・文:宮崎伸勝/写真:廣瀬真也(spread)