市民のための環境公開講座2018 認識から行動へ。学生から社会人までが参加する学びの場。

2018年度市民のための環境公開講座は全て終了いたしました。来年度のご参加を心よりお待ちしております。

PART2 消費とごみの問題から環境を考える

レポート

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石貨の島から見える日本と世界のゴミ問題

石貨で知られるミクロネシアのヤップ島は、自給自足型経済がいまだに可能な、豊かな自然環境を維持しています。しかしグローバル化に伴い、自然に分解されることのないプラスチックや家電ゴミなどが急速に増加し、処理する方法に苦悩しています。ヤップ島を起点に、日本や私たちの暮らしとのつながり、海や陸での世界のゴミ事情の一端を共有したいと思います。

高野 孝子 氏

北極からアマゾンまで、地球をめぐる

高野 孝子 早稲田大学教授・特定非営利活動法人 エコプラス代表理事


講座ダイジェスト

ヤップ島のゴミ問題

ヤップ島は、無数の島で構成されているミクロネシア連邦にあります。日本とは海で繋がっていて、かつてはカヌーを使った交流があり、太平洋戦争時には、日本が占領していました。また、島内のあちこちに石貨が残されていることで知られています。石貨は、婚礼や紛争解決の際の謝罪として使われるものですが、小さいもの以外は置かれている場所から動かすようなことはせず、その都度持ち主が変わっていくもので、私たちの「所有」という概念とは違う面白さがあります。

また、ここは自給自足が可能な場所です。例えば、男はナタ一本だけを持って出かけ、出先でヤシの葉を刈りとってバスケットを編み、物を入れて帰って来ることができます。村の中では職業が分化しておらず、生活に関わる仕事はみんなで協力して行います。伝統的に定められている決まりと新たに作られた法律が対立する場合には、「伝統法は近代法に勝る」という原則に根ざした社会です。

そんなこの島でも、近年ゴミの存在が大きくなってきました。大量に捨てられたゴミの中には、日本製の食品の袋から日本車までお馴染みのものが目に付きます。日本の製品が間接的にであれ、この島を汚しているのです。そして、ゴミ問題はヤップ島としても放置できない状態になり、8年位前から最終処分場の整備が始まり、「フクオカ・メソッド」という方式が採用され、2014年1月に完成しました。これは、埋め立てるゴミの下にパイプを通し、ゴミから出る汚水を集めてもれないようにするとともに、循環させてメタンガス発生に伴う火災を防ぐというものです。残念ながら、この循環システムは上手く機能していないのですが、同じ年にもう一つ、レジ袋の禁止が打ち出されました。当初は島民に不評でしたが、そもそもヤシの葉バッグをすぐ作れる人々ですので、1ヶ月程度で反発の動きも収まり、現在ヤップ州のどこへ行ってもレジ袋は見ませんし、このことが島民のゴミ問題に対する意識に大きく影響を与えました。

世界に広がるレジ袋削減、しかし日本は…

2018年現在、レジ袋は世界で年間5兆枚生産されているとされます。世界で排出されるプラごみの半分がレジ袋をはじめとした包装容器などで、総排出量のトップは中国ですが、一人当たり排出量のトップはアメリカ、次いで日本が世界第二位です。

今、世界的な大問題となっているプラゴミを減らすため、今年6月のG7シャルルボア・サミットで「海洋プラスチック憲章」が採択されました。この中で、2030年までにプラスチック用品を全て、再利用可能あるいはリサイクル可能、または他の用途への活用に転換することを目指すことなどが示されました。しかし、これに日本とアメリカは署名しませんでした。表向きは「国内法が整っていない」という理由でしたが、実際はダメージを受ける産業からの反対があったと見られています。

一方、国内でレジ袋削減の動きはどの程度進んでいるかというと、都道府県が直接・間接に関与する事業者の中で、「レジ袋全廃」をしているのは約1割、「レジ袋有料化」は約7割です。条例によって義務化している自治体はありません。

海外に目を向けると、67以上の国と地域が、使い捨てプラスチックに関してなんらかの規制をしています。EUでは多くの国がレジ袋を課税対象にしたり、無料配布を禁止し、2025年までに一人当たり年間使用枚数を40枚までに削減することを目指しています。最も早く課税したのは1993年のデンマークで、現在では一人当たり僅か4枚。一方、日本では450枚です。日本では、特に百貨店やコンビニなど特定業種の参画と、消費者の理解が不十分とされています。仮に企業がどんなに努力をしても、消費者が理解しなければ広がりません。この点を私たちはもっと考える必要があります。

問題解決の鍵は消費者に

レジ袋のみならず、近年マイクロプラスチックが海の生き物に深刻な影響を与えています。なんと水深1kmで獲れた魚からもマイクロプラスチックが出てきて関係者に衝撃を与えましたが、今や海の中にはかなりの量のプラスチックがあるのかも知れません。最近、歯磨き粉やスクラブ系洗顔料に含まれている微小なプラスチックが小さ過ぎて、浄水フィルターを通過し川や海に流れ出るため、これを禁止する動きが世界で広がり始めています。日本でも今年、海岸漂着物処理推進法が、歯磨き粉や洗顔料に含まれるマイクロプラスチックの使用を自主的に抑制するよう改正されました。

企業側の動きとしても、プラスチック製ストローをスターバックスが全廃するなどをはじめ、海外企業を中心にプラスチック削減の動きが広がり始めています。その一方、日本では最近ペットボトル入りのコーヒーやノンアルコールビールが新たに発売されています。消費者がそれを志向していることがメーカー側の理由のようですが、これを私たちは消費者としてどう考えるべきでしょう。

また、日本はリサイクル率が高いから大丈夫という声をよく耳にします。平成28年度の環境省統計によると20.3%です。これが数字としていい方だとしても、100%ではないのですし、実際に私たちは多くのゴミを目にしているはずです。ゴミの最終処分場の残余年数は20.5年、しかも関東圏では処分場が足りず域外にお願いしている状況です。処理事業経費は、前年度より少し増えて1兆9606億円。これだけの金額を使わなくてよい暮らしを私たちができれば、社会の他のことにお金が回せるのです。

廃棄物対策の原則は、Reduce、Reuse、Recycleと言われる「3R」です。できる限り減らして、次に使い回して、それでもだめなら最終手段としてリサイクルすることですが、そのいずれのステップにも限界が必ずあります。その後に続くのは、適正処理、さらに最終処分となります。しかし、処理すれば終わったということではなく、未来世代に残っていくものだということを私たちは覚えておかなければなりません。

構成・文:宮崎伸勝/写真:廣瀬真也(spread)