講座ダイジェスト
循環資源・羽毛のリサイクルで様々な社会問題を解決
羽毛の需要は、中国やロシアなどの寒冷地を中心に大きく増加しています。ネット販売の拡大という後押しもあり年4〜5割という増加ペースのため、世界の中には、鳥が生きているうちに羽を抜く業者もいるといった問題も起きています。一方、日本をはじめ各国では、羽毛製品が簡単にゴミとして廃棄される状況もあります。しかし羽毛は100年使える資源です。そこで、日本国内で羽毛を循環させる仕組みを確立・普及させる目的で、平成27年にGreen Down Projectを設立しました。羽毛を取り扱う企業や関係者と協力してリサイクル可能な羽毛を回収し、その羽毛製品を解体し、中の羽毛を洗浄、そして新たな製品として販売するもので、この羽毛を使った製品には、どのブランドの製品であっても共通のタグをつけています。後ほど詳しくお話ししますが、解体作業では障がい者就労支援の一翼を担わせて頂き、利益の一部は熊野古道の保全活動に回すなどの地域貢献にも取り組んでいます。また、1kgの羽毛を燃やすとおよそ1.8kgのCO2が発生するため、このリサイクルシステムによりCO2排出を抑え温暖化問題にも寄与し、同時に羽毛の安定供給にも繋げています。
リサイクル品であるため、消費者の皆さんにその品質についてご納得頂くため、羽毛の洗浄には高い基準を設けており、繊維製品などの安全性を評価するエコテックス認証も受けています。その結果、Green Downを初めて世に送り出した2015年の使用実績は5.8トンでしたが、今年の秋冬に向けては、約6倍の3530トンにまで伸ばすことが出来ました。一方、羽毛の回収実績は、立ち上げの2014年が5トン、2015年は10トン、2016年は15トン、2017年は25トン、そして今年は3530トンを計画中と拡大を続けています。
奇跡的な障がい者雇用を実現
先ほども申し上げましたが、羽毛製品の解体作業には障がい者の労働力を100%活用しています。私は、この仕事に携わる前は社会福祉協議会で働いていたこともあり、何とかして彼らの工賃を増やしたい、収入を安定させたいという想いがあります。今、障がい者がB型作業所で働いた場合、月の収入は1万5千円弱しかありません。A型でも5万円位です。しかも、障がい者の仕事は下請けがほとんどで、景気悪化や自然災害などが起きると簡単に切られてしまう不安定な状況にあります。昨今、障がい者雇用の水増し問題が騒がれていましたが、それほど障がい者雇用とは難しいものなのです。しかし、私たちの作業所では、彼らの月収が10万円を超えました。全国どこを調べても、この額は見当たりません。そればかりか、彼らは現在行っている解体作業について、自分たちの処理能力の60%しか発揮できていないという、詳細なデータを作って提出してきました。現在その作業所は三重にありますが、今後、福島県の郡山、愛知県の名古屋市港区でもスタートすることになっています。このように環境問題の解決と同時に、障がい者雇用を作り出していくユニバーサルワークの実現も、今後、更に進めていきたいと考えています。
成功するチーム作り 〜繋がることで新たな価値を〜
私たちは、古い羽毛の回収でも、新しく生まれ変わった羽毛の販売でも、多くの企業や関係者の皆さんとのパートナーシップで活動を続けています。昨今、「連携と協働」という言葉がやたらと使われますが、必ずしも上手く回っている所ばかりでもないようです。
これを成功させるために私が大切にしているのは「コミュニケーション」、言い換えると、自分の望む行動を相手に起こさせられるか…ということです。[メッセージ]=[目的]×[ターゲット]であって、「何のために」「誰に」を考えると、「何を言うか」が決まります。例えば、羽毛回収の協力を求める話をするにしても、相手が自治体なら、多くの自治体が作っているゴミ減量計画や、ゴミ処分の費用問題などを入り口に会話ができますし、ショッピングセンターなどの商業施設が相手であれば、そこが行っている回収キャンペーンの中で羽毛布団の部分に関して引き受けるとか、その分の買取り金額を支払うことができるなどの話が有効になります。特に、企業とは利害関係で手を結ばないと長続きしません。自分の言いたい話を、相手の聞きたい話にどう置き換えるかがポイントになります。
そして、高い目標を絶対に作らないということも意識しながら、私は活動してきました。なぜなら、その目標を超えられなかった時、二度とそのメンバーでは同じ挑戦をしなくなるからです。小さな成功体験を積み上げていくことが、継続的な挑戦を生んでいきます。また、関わるメンバーに対しては、それぞれが輝ける役割を作ることも重要です。「やるやる」と言っておきながら、やらない人というのが結構多いもので、その出番と役割をよく考えて、再構築をすればいいのです。結果として、リーダーは誰か一人でなくて構いません。自分の不得意は誰かの得意だったりするものなので、リーダーシップとフォロワーシップ、両方があってこそいいチームといえるのではないでしょうか。
構成・文:宮崎伸勝/写真:廣瀬真也(spread)