市民のための環境公開講座2018 認識から行動へ。学生から社会人までが参加する学びの場。

2018年度市民のための環境公開講座は全て終了いたしました。来年度のご参加を心よりお待ちしております。

PART2 消費とごみの問題から環境を考える

レポート

9/11

食品ロスはなぜ生まれるのか

東京都民が一年間に食べる量、私たちは、まだ食べられる食べ物を捨てています。市民として何を知り、どう行動すればよいのでしょうか。食品メーカーとフードバンクに勤めた経験を持ち、『賞味期限のウソ食品ロスはなぜ生まれるのか』の著者である講師が、食品ロスについて話します。

井出 留美 氏

食品ロス問題の専門家

井出 留美 株式会社office 3.11・ジャーナリスト


講座ダイジェスト

今日は、10問のクイズをお出ししながら、食品ロスについて理解を深めて頂きたいと思います。

①一世帯4人家族が一年間に捨てる食べ物はいくらでしょう?

正解は『6万円』です。私たちは一万円札を6枚も捨てることはしないのに、食べ物だとこんなに捨てているなんて、もったいないと思いませんか。さらに、6万円分の食品を捨てるコストに5千円かかるのです。また、これが全国で起こっていたら総額11.1兆円にも上ります。重量に換算すると、1人当たり毎日おにぎり1個分に当たる139gの食品を捨てている計算になります。

②食品ロスは日本でどれくらいあると思いますか?

正解は『東京都民が年間に食べる量』に当たる646万トンです。これは、日本国民が一年間に食べる魚介類の量(600万トン弱)に匹敵し、世界の食料援助量(320万トン)の2倍に当たります。食料自給率が低い日本は、たくさんの国からエネルギーをかけて輸入する一方で、これだけの食料を捨てているのです。

③食品ロスは世界でどの位あるでしょうか?(世界の食物生産量の何分の一でしょうか?)

正解は『1/3』です。世界の生産量は40億トンですが、そのうちの13億トンが一年間に捨てられています。こんなに捨てるのなら最初から作らない方が働く人は楽だし、食材や電気・水などが無駄にならずに済んだはずです。2030年までに17の目標を世界で達成する「持続可能な開発目標=SDGs」への取り組みが世界で進められていますが、その中の一つに「小売・消費レベルで世界の食料廃棄を半減する」というものが掲げられています。これを受けて今年6月、環境省も、2030年までに家庭の食品ロスを半減するという数値目標を初めて打ち出しました。

④日本の食品ロスの8割は事業者から出ている。◯か?×か?

正解は『×』です。日本の年間食品ロス・646万トンの内訳は、家庭・289万トン(45%)、企業・357トン(55%)で、ほぼ半々です。かなりの人が、食品をより多く廃棄しているのは企業だという印象を持っているようですが、実際にはそうではありません。消費者として買い過ぎない、作り手として作り過ぎない、売り手として売り過ぎないことが重要で、「3R」の最優先事項である「Reduce」、つまり廃棄物を出さないよう意識することが大切です。

⑤前日との気温差のデータでロスを減らした食べ物は何でしょう?

正解は『寄せ豆腐』です。「冷奴は前日との気温差が大きいと売れる」ということが判明し、群馬県の相模屋食料という豆腐屋さんは、気温データをもとに食品ロスを年間30%も減らしました。記録するだけで体が痩せる効果があるというダイエット法もありましたが、「測る」という行為によって食品ロスを減らしていくこともできるのです。また、データを記録することで減らそうという意識が働くことが、神戸市の食品ロスに関する調査でも判明しています。

⑥アイスクリームに表示されてなくて、冷凍食品には表示があるものは何でしょう?

正解は『賞味期限』です。アイスクリームは、マイナス18度以下で保管し品質劣化が遅いため省略できます。「賞味期限」とよく似た「消費期限」は、日持ちが短いもの、具体的には5日以内の食品に付けられるものです。これらの表示は、一般に「安全係数」というリスクを考慮して期限を早めに設定するための係数が掛けられています。消費者庁は本来の期限に0.8をかけることを推奨していますが、企業側で実際に使用している安全係数は0.7以下のものも多く、短いものでは0.3というケースもあることを、消費者は知っておくべきでしょう。

⑦冬(気温10℃以下)に生で食べられる卵の賞味期間は何日でしょう?

正解は『57日間』です。卵は、産卵から7日間以内にパックされることになっていますが、パックした日から14日間の賞味期限が表示されています。私たちは結構、卵を特売品のような感覚でとらえて、期限を越えるとすぐに捨てているかもしれませんが、賞味期限を過ぎたらすぐ捨てなさいとは書かれていないはずです。「加熱調理してお早めにお召し上がり下さい」と表示されているので、日にちだけを鵜呑みにしないことも大切です。

⑧全国で生産されるおからのうち、人間が食べている割合は何%でしょう?

正解は『1%』です。他は産業廃棄物や飼料になります。先ほどお話しした大手豆腐メーカーでも、スーパーに持っていくと「ただでいいんでしょ?」と言われるそうで、私たちはおからに対する認識をもっと改めるべきではないでしょうか。おからは栄養価が高い日本の食材なのに大変もったいないことです。私の知り合いに、おからと豆乳でケーキ作りをしている人がいますが、小麦粉を一切使っていないため、糖質制限したい人や血糖値が高い人にも役立っているそうです。

⑨ハンバーガー(パン・牛肉・レタス・トマト)一個分の原材料が出来上がるのに使われる水の量はどれくらいでしょう?

正解は『3000リットル』です。ハンバーガー自体に水は見えませんが、例えば、ハンバーガーを安く作ろうと思ったら、牛肉などは輸入しなければなりません。それは同時に、牛の飼育などに費やされた水も輸入していることになります。こうした水を「バーチャル・ウォーター(仮想水)」と呼んで、環境省のホームページで計算することができるようになっているので、興味がある方は見てみて下さい。水も貴重な資源です。日本では蛇口をひねれば水はいくらでも出てきますが、世界では真水に到達できない人が8億人以上います。SDGsの中にも、「安価で安全な水を」という目標が掲げられています。

⑩宴会の食べ残しをなくす運動を何というでしょうか?

正解は『30・10(さんまるいちまる)運動』です。食品ロスをなくすために、宴会の最初の30分間と最後の10分間は、自分の席に着席して料理を食べましょうというものです。宴会食べきり運動は福井県が最初に始めたものですが、そのあと、長野県松本市が「30・10」の呼び名を使って全国に広がり、現在は環境省が啓発ツールを作って全国的な普及に努めています。たくさん注文しても食べ残しが多いようでは、参加費用が高くなるばかりでなく、お店の人に気の毒ですし、ぜひ皆さんも実践して頂きたい運動です。世界的にも、例えば中国は、「食べ残すのがマナー、食べきれないほど出すのがもてなし」という慣習がありますが、最近は、こういった食べ残しを撲滅する「中国光盤運動」というものが始まっていますし、日本同様に持ち帰りの習慣が一般的でなかったフランスでも、「グルメ・バッグ」というアメリカの「ドギー・バッグ」のような持ち帰りのスタイルが広がり始めています。

最後に、食品ロス削減の10ポイントを挙げます。

  1. IoT : 需要予測精度の向上
  2. 食品ロス量を測る
  3. 規格外を活用する
  4. 賞味期限の年月表示化
  5. 賞味期限の見直し(延長)
  6. 新製品・季節商品の見直し
  7. 欠品ペナルティ等商習慣検討
  8. 飲食店適量販売と食べ残しゼロ
  9. シェアする
  10. リサイクルループ

構成・文:宮崎伸勝/写真:廣瀬真也(spread)