市民のための環境公開講座2016

市民のための環境公開講座2016

認識から行動へ。学生から社会人まで1万8千人が参加した学びの場。

お知らせ今年の講座は全て終了いたしました。たくさんの方のご参加いただき誠にありがとうございました。

パート2 自然の魅力と脅威

新宿会場 18:30〜20:15
レポート

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富士山噴火と西日本大震災に備える 「大地変動の時代」を生きのびる

講座概要

日本列島では近い将来、富士山噴火と南海トラフ巨大地震が起きると予想されています。御嶽山や箱根山の噴火は、東日本大震災に誘発された地殻変動の一つであり、9世紀以来1000年ぶりの地震・噴火の多い「大地変動の時代」が始まりました。特に、西暦2030年代には南海トラフ巨大地震が予想され、「西日本大震災」となることが確実視されています。日本人がいかに生きのびれば良いか、地球科学の視座から予測と対策を考えます。

鎌田 浩毅 氏
鎌田 浩毅

京都大学教授(地球科学者)

3.11以降、日本が揺れ続ける理由

img-kouza2016_2-1_007 5年前に発生した東日本大震災で、地震の規模を表すマグニチュードは9.0という大きなものでした。この規模の地震は1000年ぶり、つまり前回は平安時代、869年の「貞観地震」です。宮城県沖の地震について、それまで我々科学者が予測していたのは、35年ごとに発生するマグニチュード7クラスの地震でした。マグニチュードは、1増えるとエネルギーの量は32倍です。従って、マグニチュードが2違うということは、32×32=1024倍ということになり、正に当時よく耳にした「想定外」の被害を各地にもたらしました。

地球科学では、巨大な災害は長い時間をかけて発生し、小さいものは比較的短いスパンで発生するという法則があります。ですから、マグニチュード7クラスのものは35年に一度くらいの割合で起こりますが、9クラスのものになると1000年に一度というスパンで発生します。

東日本大震災は海で発生した地震ですが、陸地にも影響を及ぼしています。ですから、5年が経過した現在でも、震度3〜5弱の地震が各地で起きています。これは、太平洋プレートに押され続けた結果、東日本大震災が引き起こされた日本列島が、その反動で、今度は逆に5.1mアメリカ側に引っ張られ、その歪みを解消しようとして地震が起き続けているのです。これは、今後30年間は続くでしょうし、完全に戻るまでには100年かかると私は見ています。更に、火山の噴火も、御嶽山、口永良部島、箱根、阿蘇山、桜島など、5年前までと比べると急に増えましたが、これもまた、東日本大震災が及ぼした影響です。

“西日本大震災”はいつ起きるのか?!

img-kouza2016_2-1_005 「西日本大震災」という言葉は、私が作りました。正確な名称は「南海トラフ巨大地震」です。この名称で国もメディアも取り上げるので聞いたことがあると思いますが、あまりに学術用語的で、皆さんの頭にも入りにくいので、「西日本大震災」と呼ぶことにしました。駿河トラフから南海トラフまで、ちょうど東海地方から紀伊半島、四国九州沖まで繋がった地震の巣が起こす巨大地震です。

この海域の地震は、静岡沖の東海地震、名古屋沖の東南海地震、四国沖の南海地震と、それぞれ分けて予測が立てられていますが、この3つの地域で過去に起こったことを振り返ると、ある法則が浮かび上がります。

1605年、南海トラフで「慶長地震」が発生。1707年、この3つの震源域が連動して揺れた「宝永地震」が発生。1854年には、東南海と南海が揺れた「安政地震」が発生。そして、1944年に「東南海地震」、1946年に「南海地震」が起きました。つまり、この地域では概ね100年に一度巨大地震が起きていて、更に、東海地震の震源域では、他の2つより長く発生していない分エネルギーを多く溜め込んでいる状態です。この法則に照らし合わせると、2030〜2040年頃、3つが連動した巨大地震が発生する確率は非常に高いのです。その地震のエネルギーはマグニチュード9.1、地震が起きる範囲は静岡県から宮崎県まで、また最大34mの津波が2分で襲ってくるほど(東日本大震災では15〜20mの津波が1時間くらいで襲来)、日本列島から近い震源が予測されています。それら地震と津波などによる被害は、東日本大震災の10倍とも言われ、最大32万人が亡くなり、被害額は最大220兆円、厳しい見方をする研究者は300〜400兆円とも試算しています。(なお、東日本大震災では、約2万人が亡くなり、被害額は約20兆円)

img-kouza2016_2-1_001 この地震が、いつ来るのかを別の法則からも見てみましょう。巨大地震が起きた際の隆起量を縦軸に、発生年を横軸に取ると相関関係がはっきり見えてくるのですが、それによると次の巨大地震は西暦2035年です。また、直下型地震の活動度と時間を縦軸横軸に取っても、ある相関関係が浮かび上がるのですが、それによると中央値として2038年。こうした地球科学上の異なるデータから、私たちは2030〜2040年に西日本大震災がほぼ確実に起きると言っているのです。

“その日”に向けて、私たちは何をするべきなのか

img-kouza2016_2-1_010 東京を折り返しにして、ちょうど東日本大震災の反対側で起きる西日本大震災は、首都圏から始まって、静岡、名古屋、大阪、そして宮崎まで、日本の人口が、そして富と経済活動が集中している場所で起きます。発生が予測されている2030〜2040年、その中央値を取って「2035年」としたならば、今から約20年後です。この20年後に向けて皆さんは何をすればいいのでしょうか。

まず大切なのは、「20年後に巨大地震が来る」ということを、皆さんの人生手帳にしっかりと書き込んで頂きたいのです。国家財政、日本経済が沈没するかも知れない程の地震が起きた時のために、自分は何ができるか、日本のためにどういう貢献ができるかを考えて欲しいと思います。
イギリスの哲学者、フランシス・ベーコンは「知識は力なり」と言いました。結局、知識を学んで「あぁ、面白かった」と右から左へ流してしまうのではなく、自分の生きる力にするために行動しなければ意味がありません。人生手帳に「20年後に巨大地震が来る」と書いたら、それに向けて、自分自身は何ができるのかを考え、皆さんの家族に、同僚に、地域のコミュニティーにこの話を伝えて頂きたいのです。

img-kouza2016_2-1_003 何かに貢献することができ、貢献できる対象が見つかれば、それは自分のエネルギーになります。「知識」が「力」になれば、知識を本当に学びたいと思うようになるし、勉強するモチベーションが上がります。これはいつも京大生たちに熱く語っていることです。「知識」が「知識」のままならば、それは単なる趣味です。「知識」を自分の身を守るための本当の力に、自らの手で「バージョンアップ」していただきたいと願っています。

構成・文:宮崎伸勝/写真:廣瀬真也(spread)