市民のための環境公開講座2015

環境問題は、自分問題。

お知らせ 本年の講座は全て終了致しました。ご参加いただき、誠にありがとうございました。ダイジェスト版を掲載いたしました。

パート3 持続可能な社会の実現に向けて[新宿会場 18:30〜20:15]

「里山資本主義」で持続可能な社会を 12/8 (火) レポート

「里山資本主義」で持続可能な社会を

講座概要

経済優先の社会づくりに限界が感じられる昨今、不安と不満を解消するバックアップシステムとして期待される「里山資本主義」。その提唱者である藻谷浩介氏をお迎えして、「里山」の持つ力をヒントに持続可能な社会の実現に必要なことを考えます。昨年度に続く2回目の講座として、各地で実践している里山資本主義の好事例に学びます。

「里山資本主義」で持続可能な社会を

ベストセラー著者

藻谷 浩介 氏

地域エコノミスト(株)日本総合研究所調査部主席研究員

イメージで曇った目を正せ

藻谷 浩介 氏「里山資本主義」は多くの方々にお読み頂いていますが、その主旨を誤解している方も多くいらっしゃるようです。あれは「バランスをとりなさい」という話であって、「100か?0か?」ということではありません。日本人は物事をイメージと極論で捉えがちな傾向があり、メッセージが正しく伝わらないことがよくあります。或いは、事実を知ろうとせずに発言しようとするとでも言いましょうか。情報源がワイドショーとネットだけ・・・ということでは、きちんとした議論になりようがありません。

一つクイズをしましょう。凶悪犯罪のニュースが多く伝えられますが、日本の殺人事件の認知件数は、過去と比べて増えたでしょうか、減ったでしょうか、横ばいでしょうか?

2013年の統計によると、初めてこれが1000件を切りました。また、警察に引っ張られた人の数は、昨年、戦後最低を記録しました。その意味では、今が一番安全な時代なのです。少年犯罪は減少しています。少年の数が減っているからです。高齢者犯罪は増えています。理由は、変な大人が増えているからではなく、常習犯が高齢化しているのです。

藻谷 浩介 氏続いてもう一問。今、日本の家の8軒に1軒が空き家になっています。では、空き家が多い都道府県はどこでしょう?

1位は82万軒の東京です。2位は68万軒の大阪、3位は49万軒の神奈川です。空き家と言えばさびれた地方と思いがちですが、危ないのは大都市です。それなのに、まだマンションを作っています。全く持続可能ではありません。いかがでしょう。現実の数字に目を向けず、誤ったイメージで物事を捉えていることが皆さんの中にないでしょうか。

マネー資本主義の恐怖

藻谷 浩介 氏「里山資本主義」とは、お金の世界で成長を目指す「マネー資本主義」の反対語です。「お金を使うために稼ぐ」のは普通の資本主義ですが、「お金を貯めるために稼ぐ」のがマネー資本主義です。預金通帳の残高が増えることが喜びで、減ると不安になってくる人々のことです。

安倍政権の下、異次元の金融緩和が行われ株価が300兆円押し上げられました。しかし、個人消費は5兆円しか上がっていません。これはほぼ物価上昇分です。過去、80年代のバブルや、ITバブルなどをピークに株価は上下を繰り返してきましたが、我が国では株価を上げても個人消費が上がったためしがありません。しかも、その横ばい曲線は雇用者報酬とほぼ平行です。収入が増えないから、消費が増えるわけありません。結果、株価とあなたの生活に関係はないということになります。では、一体どうすれば日本の景気は本当の意味で良くなるのでしょう。

藻谷 浩介 氏そこで考えて頂きたいのが、先ほどの「お金を貯めるために」稼いできた人たちです。我が国には、1600兆円のタンス預金があると言われています。この僅か1%が消費に回るだけで、史上空前の好景気が生まれるのです。100万円の預金から1万円、子供や孫に使う話です。でも、貯めた人々はそれをしません。なぜでしょうか。したくないからです。ここにマネー資本主義の限界があるのです。

しかし、私たちの人生には、お金には換えられない価値を持つものがたくさんあります。儲けにならないことでも、やった方がいいことが色々あります。そういうお金にならない価値も重視することが、今の私たちには必要なのではないでしょうか。

日本はどこから稼いで、どこに貢いでいるか

藻谷 浩介 氏世界に190の貿易相手国があるのに、日本は、ある1つの相手に突出した黒字を、ある1つの相手(正確には地域)に突出した赤字を記録している珍しい国です。会社に置き換えると、ある一社のお得意様に支えて貰い、ある一社につぎ込んでいる危うい状態です。さて、その相手とは・・・。

前者はアメリカ、後者は中東です。製品をアメリカに買って貰って、その売上げが燃料代に消えている・・・というのが日本の国際収支なのです。中東ほどでないにしても貿易赤字を記録している国を挙げると、他にはロシア、オーストラリア、マレーシア、インドネシア・・・いずれも燃料絡みです。日本のエネルギー体制は、これで持続可能だと言えるのでしょうか。

近年、中国のPM2.5の影響が日本でも大変心配されていますが、あれは国内で質の悪い石炭を大量に使っていることによるものです。実際には、中国はこれから石油の段階を飛ばして原子力に行こうとしていますが、もし中国が石油に転換すれば、あのスモッグは収まるでしょう。しかし、中国が石油消費社会に向かった場合、価格は確実に上昇し、日本の経済的ダメージは深刻です。では、原子力に向かってくれれば有難いのかというと、そうなればウランが高騰し、その後すぐに底を尽きます。残るのは、10万年保管しなければならない廃棄物の山です。

藻谷 浩介 氏雨が豊かに降って、木々がたくさん生えて、日光が燦燦と降り注ぐことを中国に望むことはできません。それは、むしろ日本の姿ではないでしょうか。油を買ってきてお湯を沸かすのではなく、天然温泉を探すことができるのは日本ではないでしょうか。燃料代がかからない社会への脱皮が必要なのは、国際収支を見ても、この隣国の事情を見ても日本なのです。

持続可能な社会にシフトしていくために申し上げたいのは、まず、あなた個人の自給率を1%上げてみませんか?ということです。それが集まれば途上国程度の経済力になるのです。現実の数字に目を向けて何をするべきかを見極め、あなたの中の1%を変えることで日本が変わり始めるのです。「100」の反対は「0」ではありません。「1」の反対が「0」であって、「100」の反対は「99」です。持続可能な社会のために、あなたの経済力をちょっと生かしてみてはいかがでしょう。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦