市民のための環境公開講座2015

環境問題は、自分問題。

お知らせ 本年の講座は全て終了致しました。ご参加いただき、誠にありがとうございました。ダイジェスト版を掲載いたしました。

パート2 食・農・暮らし[日本橋会場 15:00〜16:45]

自然の韻(うた)が聞こえる庭 10/27 (火) レポート

自然の韻(うた)が聞こえる庭

講座概要

環境に合う植物を選ぶことができれば、個人の庭でも、公共の緑地でも、どんなスタイルであれ、植栽はほぼうまくいきます。その場所を好む植物を植えることができれば、農薬も化成肥料も関係ありません。植物の宝庫であるはずの日本、どこへ行っても、なぜかサツキの刈込み、うどん粉病まみれのハナミズキが幅を利かせています。
環境に合う多種多様な植物を組み合わせることで、ちいさな花壇でも生物多様性に貢献できるのです。

自然の韻(うた)が聞こえる庭

誰よりも日本を知るイギリス人

ポール・スミザー 氏

ランドスケープデザイナー/ホーティカルチャリスト

植物は私たちの手を借りずに何億年も生きてきた

20151027_150447私が学んだ王立園芸協会ウィズレー園芸学校では、例えば「土は黒土を60cm」など、とても具体的な数値を示して指導してくれましたが、私はなぜ60cmでないと駄目なのか、果たして植物が60cmにこだわっているのかが理解できませんでした。また、肥料や農薬の正しい使い方も教えてもらいましたが、野山に生えている植物は、肥料を人間から貰うこともなしに立派に育っているのに、どうして庭だと必要になるのか。農薬で悪い虫をやっつけることができるということだけれど、いい虫はどうなるのか。広大な敷地で大好きな植物に囲まれ、専門的に学ぶ幸せを感じながらも、様々な疑問が湧き、窮屈さも感じていました。
植物は人間が存在するずっと前から、何億年も生きて進化してきました。どんな環境にも、その環境を好む植物が肥料なしでたくましく生き続けています。肥料を蒔くと植物はどうなるかというと、確かに葉は大きくなり、ものによっては背もちょっと高くはなりますが、それと同時に柔らかくなってしまい、虫たちに評判のいい食べ物にもなってしまうのです。また、肥料を上手に取り込める種類ばかりが優勢になり、他の大事な植物を追い出してしまいます。

「変化」が豊かな自然を生む

20151027_150345今、日本で色々な虫が消えていっていると言われています。これは、ひとつには、幼虫に必要とされる食べ物が激減しているからです。色々な種類の虫たちが生きていくためには、多種多様な植物がなくてはなりません。今、日本の山にはスギとヒノキ、このたった2種類ばかりが植えられています。人が好む森は、他の色々な自然も好む森です。原生林は素晴らしいのですが、中に入ると鬱蒼として、人を寄せ付けません。人と自然の共生の森、それが里山です。里山のいい点は、定期的に木を切り戻して、木材や薪や食べ物など生活に必要なものを収穫したため、色々な種類、段階の自然があるということです。それによって蝶や蜂、鳥やその他の動物にとって魅力的な生活環境が出来上がるからです。
一方都市では、サツキとツツジばかりが植栽に使われ、たまに変化を出す場合にはハナミズキといった具合です。でも今日、この会場に来るまでの道を歩いていたら、15年前と比べて面白い花壇が増えてきて嬉しくなりました。とにかく、単一の植物ばかり植えないことです。例えば、日当たりのいい場所一面に芝生ばかり育てても、虫たちにとっては全く面白くありません。そして、痩せた土地には色々な野草を植えてみて下さい。養分が少ないと誰も勝つことができないので、様々な野草が共生します。屋上緑化などは、この考え方がとても向いています。自然のためには、「変化」という言葉が、最も大切なのです。

あなたにも豊かな自然は作れる

20151027_151123こういった「変化のある自然」は、私たちの小さな庭でも出来ることです。広大な土地があるから変化に富んだ環境ができると思わずに、狭い場所でもできることだと思ってください。例えば、壁に蔓性の植物を這わせ、そこに木を一本植えて、その足元に日陰の植物や色々な花を植えたらどうでしょう。
ウィズレー園芸学校で学んでいた頃、それまで住んでいた集合住宅から、庭のある家に引っ越しました。建物のリフォームで手一杯だった両親は、私に庭を作るように依頼し、父は一冊の本を私に手渡したのでした。そこには庭に自然を呼ぶ方法が書かれていました。早速、スコップで穴を掘って小さな池を作ったところ、突如ブ~ンと飛行音がして、待ってましたとばかりに、どこからともなくゲンゴロウが飛んできて新しい池に飛び込みました。それくらいの早さで自然は反応を始めるのです。もちろん次の年には、カエルなど色々な生物がやって来ました。自分の狭い土地でも自然の役に立ったのです。毎年、アマゾンの原生林がイギリスの国土と同じくらいの面積を消失したというニュースを聞き、子ども心にも、私はとても暗い気持ちになりました。でも、この狭いけれど、賑やかな庭をみたら少し気持ちが楽になったのを今でも覚えています。
そういう風に私たちの周りにある庭や公園を一つ一つ素敵な環境にすれば、私たちにとってもっといい世界ができあがっていくはずです。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦