市民のための環境公開講座2014環境問題は、自分問題。

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パート3「持続可能な社会」は実現するか[新宿会場 18:30〜20:15]

11/4(火) レポート

「里山資本主義」で持続可能な社会を

講座概要

「マネー資本主義」の限界を感じている昨今、その不安と不満を解消し新たな豊かさを提供する「里山資本主義」。その提唱者である藻谷浩介氏をお迎えして、「里山」の持つ力をヒントに「持続可能な社会の実現」に必要なことは何か考えます。

「里山資本主義」で持続可能な社会を ベストセラー著者
藻谷 浩介 氏
地域エコノミスト (株)日本総合研究所調査部主席研究員

首都圏の人口と「里山資本主義」

藻谷 浩介 氏21世紀に入った頃、東京・神奈川・千葉・埼玉の首都圏一都三県の人口は3300万人でした。これが2010年までの10年間に220万人増え、震災の半年前には3500万人になっていました。この10年間に、14歳以下の子供の人口が減り始めていたことは皆さん想像がつくと思いますが、実は15〜64歳の現役世代も同様に減少しています。その数は19万人。一方、65歳以上の人口は251万人増加、うち75歳以上が133万人です。皆さんは、高齢化に悩んでいるのは地方の話、首都圏は順調に成長していると思っているかも知れませんが、実際に成長しているのは退職者コミュニティだけだったのです。

これが、2010年から10年間の予測ではどうなっているでしょうか。全体の人口は7.4万人増。統計の規模から見れば横ばいに等しい数値で、人口はほとんど増えないと言えます。この状況下で、14歳以下は39万人、15〜64歳は154万人の減少となります。その一方、65歳以上は201万人増加、うち75歳以上は165万人です。

65歳以上が今を盛りと増えていて、かつ75歳以上が激増している・・・これが今の東京の姿なのです。「里山資本主義」という私の著書は、これだけお年寄りが増えていく日本社会において、どういう生活をしたら長持ちするか、こんな時代に東京にばかり若い人を集めてしまっていいのか、ということを念頭において書いたものです。

人口問題の解決は可能か?!

藻谷 浩介 氏そんな人口問題に取り組んで成功しているのが、長野県下條村です。20年前から15〜64歳の人口は横ばいを維持し、子供は微増、そして10年前からはお年寄りが増えなくなりました。

東京が下條村のようになるには、どんな条件を満たせばいいのでしょうか。まず、お年寄りの増加が止まらなければなりません。どうすれば止まるのか?・・・これは自然に止まるのを待つしかありません。非常に高齢化すると、亡くなる人とこれから歳をとる人の数が同じになって高齢化が止まるのです。因みに、むやみに団地を作ったりして若い人を入れると、彼らが全員お年寄りになり続けるので高齢化は止まりません。自然にいたいと思う人が居続けられるようにすると、増え止まるのです。

もう一つは、お年寄りが増えている間も、子育て対策を一生懸命やることです。多くの場合、子育て対策と高齢者対策の予算を秤にかけ、選挙権を持つ高齢者対策ばかりに重点を置くから子供が増えないのです。しかし、下條村は違いました。すると、ここはいいぞと子供を産む現役世代が集まってくるのです。

藻谷 浩介 氏すでに田舎では、高齢者が減り始めています。一方、大都市では大激増です。今後田舎は、予算があるうちに整備した今の医療介護体制を維持できればなんとかなりますが、大都市はどれだけやってもそれが追いつきません。田舎を見捨てず、その市場を重視した企業は成功を収めています。東京しか商売にならないと田舎を見捨てた会社はこれから潰れていくでしょう。東京の出生率は全国最低ですが、結局生き残るのは子供が生まれる地域であり、都会の子育てを容易にするより、子育ての容易な田舎に若者を戻す方が、話が早いのです。

3%でいい。妄想を捨て、里山へ!

藻谷 浩介 氏今、日本が抱えている問題の第一は、子供が減り続けて社会が縮んでいること、第二は、エネルギー使い放題が出来なくなってきたこと、第三は、貯金が消費に回らず循環しないということです。

多くの人々は、もっとお金を稼げば色々な社会問題は解決できる、この世はお金と資源の奪い合いで、これに勝てないと自分が食い物にされると信じ込まされ、お金にしがみつくように仕向けられています。その結果、お金を稼いでは貯め込みます。この強迫観念が格差を放置し、若者の所得が更に下がり、子供が更に減り、そんな事態に更に不安を感じ、お金を更に使わないので消費が減り、不景気が更に続くのです。この経済問題の本質は、お金が稼げないことではなく、稼いだ挙げ句の循環・再生の不全なのです。

藻谷 浩介 氏里山資本主義とは、そんなにお金に頼らなくても、あなたの周りに眠っているお金にならないものを使って、水・食料・燃料をちょっとだけ自給してみたり、物々交換してみませんかということなのです。そうすると、日本全体の自給率が上がるばかりか、あなたにちょっと自信が生まれ、場合によっては、それを活用することで若い人の雇用を増やすこともできるのです。実際、里山で暮らしている人の方が、都会と比べて貯金を積極的に車だの家だのの実物投資に回していますし、子供も1人くらい多いのです。それは、いざという時に里山があれば何とかなるという安心からです。また、田舎で農業をやりながらパソコンで仕事をするという実例も増えています。皆さんは3〜5割の人が参加できて大ブームにならないと世の中は変わらないと思っているかも知れませんが、そんな生き方に3%の人が変わるだけで日本は変わるのです。もっと田舎と都会を自由に出入りしながら、自然を生かした暮らしをする人が増えることが、日本が生き残る上で非常に重要なことなのです。

構成・文:宮崎伸勝/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン