崩壊を続ける日本の食文化
2013年、ユネスコ世界無形文化遺産に日本の和食文化が登録されました。その影響もあってか和食はいまや海外で大人気の食事となり、ブームを超えて定着しつつあります。特にフランスは日本文化が好きなようで、私の店にも10年ほど前からミシュランの三ツ星シェフが〝出汁〟の取り方を学ぼうと訪れています。
こちらから世界に出かけていき、講座を開くこともあります。昨年も夏にドバイでこんぶ教室を開催しましたが、今後こうした話は増えていくだろうと思います。日本の食は、まさに世界で通用する味なのです。
一方、日本国内はどうでしょうか。こんぶの消費量を例に見ると顕著です。30年前には年間約3万トンあった生産量が、2013年には1万5000トン以下にまで落ち込んでいます。これは、顆粒出汁などのうまみ調味料が売れ行きを伸ばしていることと無関係ではありません。おそらくいまは、出汁を引いている家庭のほうが少ないのではないでしょうか。
出汁にとってかわり広がっているうまみ調味料は、非常に安価です。家庭で出汁を引く場合、1リットルあたり100〜300円ほどかかりますが、うまみ調味料なら17円。手に取りたくなる気持ちもわかります。
しかし、それを摂取し続けることの弊害は少なくありません。塩分の過剰摂取、ミネラルなどの微量栄養素の不足、味の画一化、味覚の麻痺、食文化の破壊を招きます。長寿県として知られるあの沖縄でさえ、伝統的な食生活からファストフードを中心とした食事に変わっていった結果、長寿県の座から陥落してしまいました。
生産者に必要な良心
日本の食文化が崩壊した原因のひとつは、生産者にあります。食に携わる仕事は、人の体をつくる仕事です。一次産業とも関わりが深く、環境とも深いつながりがある大切な仕事、いわば聖職です
その仕事に必要不可欠なのが〝良心〟ではないかと思っています。母親は我が子の健康を考えて料理をつくります。母親と同じように良心をもって食品づくりをすることが、生産者のあるべき本来の姿ですが、残念ながら、利益を第一に考え、良心を置き去りにした経営をする生産者がいることも事実です。
商品をつくる際、多くの場合は販売価格をはじめに設定してから材料を選定します。価格競争が激しい現代は安ければ安いほどよく売れます。流通からの圧力も年々強まっています。より安い商品をつくるため、粗悪な材料や化学物質に頼りきった商品づくりになってしまっているのです。
では、生産者の良心をどこで見分ければいいのか。それは原材料表示です。カタカナばかりの謎の添加物が多い商品には良心がありません。家庭にあるような食材や調味料のみでシンプルにつくられているものを選んでください。
原材料表示には記載しなければならないことがルール決めされていますが、逆手に取れば、生産者の良心をピーアールするスペースとして活用することもできます。
「こんぶ土居」では、こんぶの産地やそれぞれの使用量、調味料の材料まで細かく明記しています。これは、「どこを見られても恥ずかしくない、良心を込めた商品づくりをしています」というアピールでもあるのです。
消費者が生産者を育てる
生産者が誇りをもって仕事ができるよう、「こんぶ土居」では、父の代から北海道のこんぶ生産者支援を続けています。毎年、北海道で親がこんぶ漁をしている高校生を大阪の「こんぶ土居」に招待し、商品づくりを見てもらうのです。ときには消費者との交流も設けます。自分たちの育てたこんぶを誰がどう商品にし、誰が食べているのか、どのように社会の役に立っているのかを知ることはとても大切です。仕事への誇りや後継者育成にもつながります。実際、後継者になった卒業生も少なからず誕生しています。
同時に、北海道の小学校でこんぶのお話もさせてもらっています。実は、日本のこんぶの一大生産地である北海道は、消費量が47都道府県中42位と極めて低い状況にあります。日本全体でこんぶの消費量が減り続けているなか、地元の小学生に自分の町の産業を理解してもらうとともに、消費者としても育ってほしいという想いをもって話をしているつもりです。
消費者の存在はとても重要です。買い手が求めるものを生産者はつくろうとするからです。消費者の皆さんもぜひ賢くなって、志のある生産者を応援してください。そして一緒に、未来の正しい日本の食をつくっていきましょう。
構成・文:中島まゆみ/写真:黒須一彦(エコロジーオンライン)