テーマ 「課題先進国」日本 〜環境とエネルギーの視点から〜
『課題先進国・日本』という意味は、日本はとても多くの困難な課題を抱えているけれども、その答えを欧米諸国に求めても無い、なぜなら日本は先進的にそういう課題を抱えているからである、ということです。資源が少ない、廃棄物が多い、環境汚染が著しい、少子化・高齢化…非常に多くの課題がメディアを賑わして私達は暗くなりがちですが、よく考えてみると、こうした課題は経済成長著しい中国・インドなどを見れば明らかなように、あと20〜30年経てば世界中の国で現れてくる可能性があるのです。つまり、資源がない、環境が大変だ、少子化だ、都市の過密・地方の過疎だ…といった事は、間もなくやって来る世界共通の課題であり、日本は先進的にこういう課題が顕在化しているわけですから、他の国にモデルを探そうと思っても見つかることはありません。
歴史を紐解けば、イギリスが議会主義を作ったり、フランスがフランス革命を経てデモクラシーを作ったり、アメリカが自動車社会を作ったりしたことは、別に他国のためにやったことではありません。ただそれが人類として合理性があったから、やがて世界に広がっていったわけです。こういった姿勢が、その国の国際競争力にも、世界史的権威にも繋がるのです。その理由を、これから順を追ってご説明しましょう。
世界各国の国内総生産と二酸化炭素排出量のシェアを2004年のデータで比較してみると、日本は世界第2位の11.1%という生産シェアでありながら、二酸化炭素排出シェアについては僅か4.7%と、非常にエネルギー効率の良い生産をしていることがわかります。一方中国は、4.6%の生産に対して、17.4%と世界で2番目に多くの二酸化炭素を排出しています。また日本は、特にエアコンや自動車などで良く知られていることですが、作っている製品のエネルギー効率も高い国です。
欧米車と日本車の燃料消費を比較すると、明らかに日本車の消費量の方が20%少なく、ハイブリッド車なら更に半分になります。これが「技術の差」です。個人的な話ですが、私が2006年3月まで乗っていた車の燃費は平均7km/リットルでしたが、ハイブリッド車に乗換えたら21.4km/リットル。つまり私のガソリン消費量は1/3に減った訳ですから、世界中の人々が私と同じことをすれば世界のガソリン消費量は1/3になるという計算が成り立ちます。これが「技術に対する期待」です。このように、技術の力によって同じサービスを受けながらもエネルギー消費量を減らす事ができる、ここが日本が主導すべきポイントであり、技術を正しく理解するということが環境問題を考える上で極めて重要なことなのです。
では、なぜ日本はこれだけのことをやってこられたのでしょうか?企業のモラルでしょうか?私は違うと思います。「課題があったから日本はやったのである」と私は言いたいのです。私が子供の頃の教科書には、工場からモクモク出ている煙は社会の発展の証だと書いてありました。しかし人口密度が高い日本は、そんな工場のすぐ近くに人々が住んでいたために公害問題が全国で発生しました。広い国であれば、そんなに急に影響は受けなかったかもしれません。北九州、四日市、神通川、水俣湾…日本全国に同様の例がたくさんありますが、それらを解決してきた素晴らしい歴史を日本は持っているのです。
それなのに、なぜ私達日本人は明るい気持ちになれないのでしょうか?私は、明治以来日本人には「真似をする」という癖がついてしまったからだと考えています。鎖国をしていた江戸時代には、茶の湯、浮世絵、花火など世界に強烈な影響を与えた文化がたくさん花開いたのが、この日本という国です。なぜ私達はミシュランに美味しい寿司のランクを決めて貰わなければいけないのでしょうか。これと同じ問題なのです。「自分達で価値を決めていく」…これが勝負のポイントなのです。今の日本が抱える課題は20〜30年先の地球の未来像であり、解決のモデルを作り上げればそれが世界に導入される、つまり21世紀のモデルに最も近いのが日本だと言えるのです。ハンバーガーショップで紙を5枚10枚と使って食べ散らかすカルチャーよりは、日本のきめ細かい「もったいない」というカルチャーの方が遥かに21世紀のモデルであることは疑いないことではないでしょうか。
私は高校生のための特別講座を持っているのですが、そこで彼らからの質問を受ける時、その前提が全て暗い事を大変危惧しています。「日本は公害を発生した悪い国ですよね」「日本はエネルギーをたくさん使っている悪い国ですよね」「日本は自然エネルギーを入れていかない悪い国ですよね」…どうして若い高校生がこんな質問をしてしまうのでしょうか。そこに大人の想いが映っているのではないでしょうか。若者は社会全体で教育をするものです。ですから、大人がこの日本を悪いと思っているのだとしたら駄目だと思います。環境やエネルギーといった問題で日本が先頭を切っているということを、我々がよく認識することが大切なのではないでしょうか。
そのような背景から私は、物質とエネルギーに関する環境と資源とを両立させるための提案・「ビジョン2050」を発表しました。これは簡単に言うと、エネルギー利用に関するシナリオを計算・構築していった場合に、あるエネルギー効率の目標値を掲げてそれを目指していけば、大体2050年位が人類の岐路になるというものです。結論から申し上げれば「物質循環システムの構築」「エネルギー効率3倍」「自然エネルギー2倍」の実現です。
いま日本では、物を作るのに使われるエネルギーと日々の暮らしで使われるエネルギーが大体半分ずつになっています。そして増加しているのは日々の暮らしで使われるエネルギーの方なのです。こういった状況の中で私達はどう行動すればいいのでしょうか。例えば、日本の住宅の平均回転率は30数年と言われていますから、2050年までに今ある住宅は殆ど入れ替わります。自動車ならば3〜4世代替わります。その時までにどういうライフスタイルの構造を作っておくのかをキチンと考えるべきだと思います。私達には、こういった長期の視点を持つ事がとても重要なのです。大きく見れば日本国内の自動車の台数はもう増えない所まで来ています。ということは、燃費が良くなる分だけ日本におけるガソリンの消費量が減っていくことになります。事実、すでに2006年に日本のガソリン消費量は世界に先駆けて減り始めました。この状況で、あなたにはどういう選択ができるでしょうか。
5年前に私は家を建て替える機会に恵まれたのですが、その時に「小宮山エコハウス」と名付けた実験をしました。エコキュートというヒートポンプを入れ夜間電力でお湯を作り、その他にも太陽電池、高断熱などの工夫を施した結果、我が家のエネルギー自給率は60%に、そしてオール電化でありながら1年間の電気代は5万円になりました。現在一般的な一軒家でガス代と電気代を足すと年間約30万円かかりますので、かなりの省エネ化を達成する事が出来たと言えます。
私は、日本が環境やエネルギーの分野で極めていい位置を走っている事を、大人がもっと認識すべきだと思います。そしてそんな我々がアジアに位置するということは、極めて有利な条件でもあるのです。日本人のために開発したモデルというのはアジアに入りやすいのです。日本が、今最も成長しているアジアの隣に位置する最先進国だということを、良好な事とするのか不幸な事とするのかが問われているのです。ここが大人の知恵の使い所と言えるのではないでしょうか。
 |